2007年07月04日

◆ご挨拶と準備

銕三郎です。ああ、こんなはじめ方は初めてですね。
いつも私の変な珈琲SHOPを御贔屓にしていただいてありがとうございます。
日ごろのご訪問・コメントに感謝を込めて、皆様から何回か質問があった「美味しい珈琲の淹れ方」を纏めてみようかと思い、「抽出研修会」というカテゴリーで別途シリーズを始めることにしました。
お読みいただいている皆さんが、自分の手で美味しい珈琲が淹れられるようわかりやすく、といってもいつもの文体でしか書けないので微妙なんですが、大事なことだけは書き漏らさぬよう頑張って完結させてみます。次の世代にマ●クのコーヒーが珈琲だと思わせたくはないので・・・。
これまでのシリーズと交互ぐらいでぼちぼち進めて行きますので、よろしくお願いいたします。
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「マスター、講習会をそろそろ始めなさいって。オーナーから指示がありました。」
「なんでまた、いまさらのようにやるんだ?」
「いままで、コメント欄で質問があるたびオーナーが答えてくれてたんだけど、あちこちに分かれちゃってて判り辛いし、新たな質問なのかもわからなくなってきたんですって。」
「自分でまとめりゃいいじゃねえか。俺なんか引っ張り出さなくっても。」
「オーナー一人じゃ間が持たないんですって。第1期の私とのコンビがいいんじゃないかって。」
「俺にやらせて、見物を決め込むつもりだな。まあいいさ、雇われの身だ。経営まで任されているとはいえ、な。首にならないようにせいぜい頑張らせてもらいますよ。」
「じゃあ何からはじめます?まずは歴史とか文化からですか?」
「なにボケてんだ?質問の多かったのは淹れ方とか、器具の選び方だろ?歴史なんてググればすぐわかるだろうが。さてはお前、全く下調べしてねえな?」
「えへへ、ばれちゃいました?」
「もういいから。それなら読者の皆さんの代わりとなって、俺の言うとおりやってしごかれてみるんだな。」
「はいっ!頑張ります。」

「じゃあ、今回は準備する必要があるものだけ言っておくからな。」
「メモします。」

「珈琲豆、できればロースト段階が違う同じ豆が3種。なければミディアムロースト1種は最低でも必要。とりあえず100gあればよい。基礎編講習時には同じ豆を使い続けたほうが良いな。」←追記しました
「水、水道水でよい。ミネラルウォーターは使わない。浄水器の使用は可。」
「砂糖・ミルクは適宜。ただし試飲時は不要。」
「ミル、ない場合はなるべくその日に挽いたばかりの豆を使用すること。」
「氷、市販・冷蔵庫の製氷機のどちらでも可。ただし作り置きの期間が長くなったものは不可。」
「ドリッパー、できれば1杯用の物がよいが、なければ2〜3杯用で可。」
「ペーパー、使用するドリッパーにあったもの。普段使っているものでよい。」
「ケトル、できれば注ぎ口が細いものを使用するほうが楽。1L程度の容量があればよい。」
「サーバー、5〜6杯入れられるものでよい。透明なガラス製が良い。」
「カップ、とりあえず150cc程度の普通のカップであればよい。他にマグカップもあると便利。」
「グラス、アイス用。大きすぎる・小さすぎる以外は問題なし。調整は自分でする。」
「メジャースプーン、コーヒー豆専用のもの。慣れればティースプーンで量ることも可能だが、非常に面倒。」
「秤、1g以下まで細かく計れて、最大5〜60gを量ることができればいい。」
「ガス台、電化住宅ならなんていうんだっけ?忘れた。」
「シンク、ない場合はサーバーで代用は可。ただし非常に面倒。」
「ホットプレート、サーバで複数杯を抽出する時に冷まさないようにするため。あると便利な程度。」
「ゴミ袋、ドリップ後のペーパーを捨てる。重くなる可能性あり。」

「以上かな。講習時に常に必要になるとは思わないが、全体を通して必要になるだろう物を列記してみた。質問は?」
「今後の講習で説明があるんですよね?だったらいいです。」

「それでは次回より、講習会を進めていきますのでよろしくお願いいたします。」
「実際に私と一緒にやってみてね。」


 お願い

企画した手前、わかりやすく進めたいと思っておりますので、コメント欄への「ご質問」に関しては各講習内容に沿ったものを頂ければありがたいと思います。
実際にやってみてうまくいかないとか、できたとかの報告もお待ちしています。
解りにくい所や間違った記述はコメントを参考に随時改訂していきます。
最終的には美味しい珈琲を淹れたい方のハンドブックになればと思っております。

なお、ご意見ご感想などは適宜で構いません。ご協力をお願いいたします。

この回へのコメントは応援が嬉しいな。

posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ??| Comment(9) | TrackBack(21) | 珈琲抽出研修会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年07月10日

◆基礎編 1.計量 

始まりました「抽出講座」ですが、今回は珈琲は淹れません。
ミルの出番もありません。お湯すら不要です。
なにをするかと言うと、タイトルどおり計量です。ひたすら計量スプンと秤を使うのみです。
でも、これをわかっておいて頂かないと、後になって困ることになります。

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「じゃあ、最初の講座から始めよう。」
「いきなり始めちゃうんですか?お湯とかまだ沸かしてないんですけど。」
「まず最初にそこの秤とってくれ。」
「無視ですか・・・コレですか?重いなあ。私、こんな体重計に乗るのはヤですよ。」
「何を持って来てるんだ。そこの小さな電子秤でいいんだ。せいぜい50gが量れればいいんだから。」
「なーんだ、コレですね。なにを量るんですか?」
「豆。今日のテーマは計量だ。」
「粉じゃないんですか?」
「普段から美味しい珈琲を飲みたいって考えているんなら、粉で保管はしてないだろ?挽いたら半日しかもたないんだぞ。」
「はあ。」
「だから豆を挽く前の段階で、粉になる時に失われるものも計算に入れて量るんだ。そのスプーンで1杯掬ってみろ。」
「こうですか?」
「そのまま秤の上にメジャースプーンごと載せて・・・ほら見てみろ。」
「ええっ?これで8gしかないの?」
「うちのミディアムローストの豆だと多分1杯山盛りでも12g位だから少し足らないんだ。」
「うちでは確か1杯分の粉は12gだったんじゃ・・・?」
「挽いた後ならな。シルバースキンや、破砕された微粉は不要だから除くし、ミル内にカスとして残ってしまう分もあるからな。豆のままで13〜14gあったほうがいい。」
「いちいち量るんですか〜?面倒〜。」
「計量はする癖をつけたほうがいいぞ。自分好みの味を見つけたとき再現がしやすくなる。また、豆を変えたときとか、いつもの豆が手に入らなかったときとか、基本に戻って計量から手順を確認したほうが早く新しい豆に慣れると思う。何度も量っているうちに感覚的にわかるようになるって。」
「家庭の主婦の皆さんは慣れるまでやってられませんよ。」
「美味しく珈琲を飲みたいんならこういうところの手間を惜しんじゃいけないんだよ。珈琲の抽出は繊細なんだ。たとえばミルが変わっただけでも味に影響が出る。そんな微妙な部分を解って貰おうって企画なのに、この講習の意味を無くす様な意見は挟むな。」
「ふぇ〜、ごめんなさい。」
「今回の講習会の意図は『基本の習得』にあるんだ。応用編になって淹れ方の違いによる味の変化を試そうにも、粉の量などの基本条件が変わっちまったら検証の意味がないだろ?」
「比較実証の基礎ですね。わかりました。とりあえずきちんと量ります。」
「ちゃんと守るように。ところで、ここで問題になるのが、一般家庭には2〜3杯用のドリッパーしかないって事だ。」
「あ、ご挨拶の回でも言ってましたね。1杯取りのドリッパーがなければ2〜3杯用でもいいよって。」
「実は2〜3杯用のドリッパーでは1杯だけ淹れるのは非常に難しい。大きさが違うだけじゃなく、落ちる速度も調整されているんだ。それならば基本の淹れ方は同じだから、最初から豆(粉)を2杯分使って2杯分落とせばいいんだ。ただし豆の計量は単純に2倍すればいいものじゃないがな。」
「えっ?2杯だから24gじゃないんですか?」
「ああ、2杯目、3杯目はともに10gずつ増やす。ドリッパーにはもう1段大きいのがありこれは4〜6杯用で、4杯目からは8gずつ増やしていく。」
「と言うことは目分量で12g・10g・8gを掬い分けられなきゃいけないってことですね。」
「正解。といっても、それは豆の種類ロースト具合でも変わってくるので一概には言えない。好みにもよるからな。この豆の量はうちの店で使っている豆に対しての俺のレシピ。数多く淹れて、好みのスタイルを見つけるしかない。」
「それじゃあ講座になんないんじゃ・・・?」
「だからそのための基本を作るための講座なんだよ。どんな豆、どんな器具であっても基本的な接し方を守ってもらえば基準点が作れる。土台がぶれないようにするのが目的なんだ。」
「と言うことは、今回のキモは『慣れるまで、豆の量は必ず計量しなさい』ってこと?」
「理解してくれたようだな。さあ、練習練習。先は長いぞ!」

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2007年07月15日

◇勧誘

初夏の頃。晴れた休日の昼下がり。
商店街が主催のイベントでアイドル風の歌手がミュージックショップの店頭でサイン会を行っているらしい。商店街のスピーカーから繰り返し同じ歌がかかっている。
商店街でうろうろしていた若い女性が学生風の若者を連れて店に戻ってくる。入れ替わりにもう一人の女性がチラシを手に商店街に出掛けて行った。
店内の誰かの元に若者を引っ張ってきたようだ。

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「あの〜すいませんが、お引取りいただけますか?」
「はぁ?なんだぁ?客だぞこっちは。」
「お客様が行われている行為は、店内での営業活動に当たりますので、私どもが許可させていただいた覚えはないんです。」
「そんなもの俺の勝手だろうが。」
「他のお客様にもご迷惑になりますし、そのような不透明な商取引に場所を提供していたとして訴えられても困りますので。」
「まっとうな商売の邪魔しようってのか?訴えるぞ。」
「どうぞご自由に。ただ、先ほど商店街で配られていたチラシを拝見させていただきましたが、お宅様の会社名も住所も連絡先も載っていませんよね。こういったものを配るにあたって必要な責任者の所在も明らかにしていない商売のどこがまっとうなんだか教えていただきたいんですが。」
「うるせぇ。てめぇは黙って珈琲だけ出してりゃいいんだよ。」
「あ、そうですか。ではそのままでいらっしゃっても構わないですよ。ちょっと電話を掛けさせていただいてよろしいですかね。お客様のお好みはどちらですか?」
「何だと!どっちって何がだ。」
「連絡する先ですよ。○○事務所がよろしいですか?それとも110番にしましょうか?どちらも3分以内にお迎えに来ていただけるんですが。あ、そうそう。○○に電話をかけるとお客様より先に、商店街に行ってるお嬢さんたちにご迷惑がかかるでしょうね。」
「おい、ちょっと待て。○○ってなんだよ。やめろよ、わかったから。帰ればいいんだろ。金ここ置くぞ。」
「ありがとうございます。せっかくお客様としていらしていただいたのでお教えしておきますと、この商店街、どのお店でもお客様のされている商売はやらせてもらえないと思いますよ。町会長からのお達しがあって、「見かけたらすぐ電話」って標語まで配られてるくらいですから。○○さんは町会長さんのご学友だそうです。では、またのご来店をお待ちしております。」
「うるせぇっ!大きなお世話だ。こんな商店街、2度とくるか。」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ?J| Comment(12) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年07月19日

◆基礎編 2.抽出準備

お待たせしました、第2回です。今回も珈琲は出来上がりません。お湯の準備までです。
珈琲の抽出には事前に幾つかしなければならないことがあります。それを1つずつ紹介していきます。そのためちょっと長くなっております。ご容赦の程お願いします。
何故それをするのか、どうして必要なのかをご理解いただきたいと思います。

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「おっ、2回目の準備はできてるな。ところでミルは用意したか?」
「あ、おはようございます。ミルはこれでいいですか?倉庫にあったやつですけど。」
「ん?お前自分で挽くんだぞ?それでいいのか?手動のミルじゃ疲れるぞ。今日はかなり挽くことになるんだが・・・お前がいいんならまあ・・・。」
「え〜っ、これのほかにもミルってあったんですか?」
「電動のやつは見た目ミルらしくないからな。倉庫の入り口脇に置いといてやったのに気が付かなかったのか。」
「私、普段お店で使ってる『DITTING』か飾ってある鋳物の物しか見たことないから判んなかったんですよ。すぐ取ってきますから時間ください。」
「抱えたまま転ぶなよ、ミルが壊れるからな。」

「この間にミルの良し悪しを説明しておこうかな。まずは電動手動のものを比較しよう。手動の良い所は電動ほどに早い速度で挽かないので豆が熱ダレしないって事があるな。また挽きたての豆の香りと時間が落ち着きが生む。だが欠点も多い。一定の力で挽くことができないので粉が均一にはならない。何より腕が疲れる。電動の良い所は手動の欠点を補っている部分だな。それから時間の節約ができる。機器を選べば熱ダレの少ない物を選ぶこともできる。だが、良い物は高価になっていく。業務用に使っている『DITTING』社のミルは30万近くする。その分安定した動作ときちんとしたアフターケアが受けられる。それが高価な所以だな。どんなミルでも歯(刃)は消耗品って事を忘れないように。」
「次は挽く方式の違いだ。これは製品の紹介には必ず書いてある。固有名はメーカーによって違うこともあるが、大きく分けて3種類ある。チョッパー式臼式カッター式になるかな。この順で高価になっていく。まずチョッパー式だが、これは挽くというより砕くと言った方がいい。粉の粒のサイズを表す「メッシュ」の大きさは挽いている時間によって決まる。そのため挽きあがりに斑がかなり出る。使えない微粉が一番多くでるのもこのタイプだ。次は臼式。これは古くからある石臼を金属の歯に換えた物だ。粗いものから細かいメッシュまで安定して挽けるが、歯との接触時間が比較的長くなるため豆に熱が伝わりやすい=熱ダレをしやすい。最後のカッター式は豆を切っていくタイプ。そう言うとチョッパーとの違いが解り辛いが「砕く」と「切る」との違いは非常に大きい。熱ダレもしにくくメッシュも均一にできる。但しエスプレッソ用のような微細なメッシュは苦手としている。また、機構が複雑になるため高価で替え刃も高くなる。」文字は後日訂正 

「使用頻度と予算で選択すれば良いと思いますね。家庭で使用するのであれば、歯の寿命なんかは考慮に入れる必要はないでしょう。マスターが用意してくれたのは『BRAUN』の臼式ですね。小さくて使いやすそうですね。」
「お、やっと戻ってきたか。じゃ始めようか。」
「はい、今日は何からしましょう。」
「抽出前の準備を一気にやるぞ。あたふたしてる暇はないからな。あと、この後は1杯取りと2杯取りを分けて説明するのは面倒だから全て2杯取りで進めるからな。」
「ふ〜ん、手抜きするんですね。」
「バカヤロウ!殆ど同じ説明を2回してもしょうがないし、家庭にあるのは2〜3杯用のドリッパーだろ。合理的って言うんだ。」
「はいはい。でも結局マスターが楽してるのは変わらないと思う・・・痛い!拳骨は止めてくださいよぉ。」
「余計なことを言ってるからだ。それだけ憎まれ口を言えるんなら、練習の成果を見せてもらおうか。まず濾紙を折って開く。下と横のマチをそれぞれ反対側に折る。その後で開口部を開く。」
「なんで互い違いにするんですか?」
「片側にするとその側だけが厚くなってドリッパーとの間に隙間ができちまうんだ。」
「解りました、こうですね。できました。」
「では、豆を24g掬って入れてみろ。一応量るからな。」
「任せておいてください。はい、24gできました。量ってみても大丈夫でした。」
「よし、豆を挽くぞ。ミルに入れて挽いてみろ。メッシュの調整は済んでる。」
「はい、蓋をしてっと。このスイッチで開始するんですね。うわっ、結構大きな音がする。ずいぶん時間がかかるんですね。」
「ああ、だから熱ダレを起こすんだ。店のミルなら一瞬だろ。」
「そうですね、ランチ前に挽き置きする時だって300g挽いてもこんなにかかんないですよね。」
「それが価格と性能の差ってやつだ。全部挽けたらペーパーに移して、秤に乗せてみな。容器を叩くなよ、折角分離した微粉とかスキンが混じるぞ。」
「どうしてうまく分かれるんですか?」
「これら電動のミルは静電気でやっているな。微粉もスキンも軽いから静電気で吸い寄せて集めることができるんだ。でも全てを取れるわけじゃない。それより挽いた後何グラムになった?」
「22.5g・・・です。あ、ちょっと多いですね。」
「軽く上下に振って粉が浮いてるところに息を吹きかけて、残っている微粉とスキンを飛ばせばいいぞ。必要な粉まで飛ばすなよ。」
「やってますよ。これぐらいでいいですか?」
「大丈夫だ。今日はここまで。じゃあ、次回はやっとお湯を使うぞ。」
「この挽いた豆はどうするんですか?」
「オレが後で淹れてやるから、飲むだろ?」
「いただきま〜す。」
「あ、そうだ、次回始める前にお湯沸かしとけよ。水道の水ヤカンで構わないからな。」
「解りました。」

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2007年07月25日

◇見知らぬ常連客

日の長くなった夕暮れ。
商店街から店の前までを行きつ戻りつして周りの風景を確かめていた、仕事帰りらしい初老の男性が意を決したように店の入り口に立ち止まった。
だが、まだ迷っているのかしばらく立ちつくしている。どうしても自分の覚えている風景に合致しない様子だった。
やがて、それでも自分の中で納得するものがあったのか、扉に手をかけ店の中に入っていった。

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「マスター?この店代替わりしたんだね。」
「そうですね、私はこの店のオープンした10年まえからですから、それ以前のことは余り解りかねますが、15年ぐらい前までは純喫茶だったことだけは伺っています。」
「そうか、25年は長いものだな。この辺りは昔の面影はまるで残っていないものな。」
「そのようですね。商店街の皆さんも同じようにおっしゃいます。駅が大きくなったのが12年前ですから、商店街もどんどん変わっていったのでしょうね。」
「この先に在ったキャンパスも移ってしまったしな。学生の頃はこの商店街には良く世話になった。」
「今はもうこの辺りで大学生の姿は見られないですよ。地元の高校のOB会やクラス会で集まってるのを見かける程度でしょうね。」
「あの頃は商店街どこの店に行っても知り合いがごろごろしてたっけな。パチンコ・雀荘・定食屋、ここだってそうだった。」
「そんな頃でしたら私にも覚えがあります。ここら辺りじゃないんですが、やっぱり喫茶店や雀荘をはしごして、深夜になると友人の下宿に集まって青臭い議論を延々と続けてましたっけ。」
「そんな時代だったんだろうな。しばらくぶりにこの路線に乗ったら、懐かしさに惹かれてここまでたどり着いたんだ。何にも残っていないんで逆に安心したというか、自分の気恥ずかしい過去には直面しないですんでホッとしたって感じがするよ。」
「そんな面もありますね。ちなみにお客様の懐かしい珈琲の味ってどんなものでしょう?」
「ああ、すまんね。まだ注文さえしてなかったな。そういえばどんな味だったんだろう。さっぱり覚えていないよ。集まっていた仲間の顔や、二人きりで店の隅に隠れるように座っていたときに流れていたボブ・ディランのことは覚えているのにな。」
「私も以前のお店のことはよくわからないのでお伺いしたいんですが、看板とか店の中のポスターとかご記憶にありませんか?」
「そうだな・・・みんなぼんやりしてしまって・・・。役に立てそうにないな。私は本当に友たちと語り合うためだけにここに来ていたみたいだ。」
「そうですか、残念・・・あっ、いや、余計な詮索をして申し訳ありません。」
「いいんだ、マスターは私の記憶に残る味を再現して喜ばせてくれようとしてくれたんだろう。私も昔を振り返って新たな発見があって楽しいよ。そうだ、マスターの懐かしい珈琲の味でお願いできるかな。うん、それがいい。」
「承知いたしました。でも、昔は酸味・甘味など考慮に入れられてなかったので、今の珈琲から考えると苦味だけが強調されたものになってしまうと思いますので覚悟してくださいね。」
「昔の珈琲は今よりもっと苦かったんだね。そうか、そんなことも気にせず飲んでいたんだな。今日は味わって飲むことにしよう。マスター、期待しているよ。」
「はい、お任せください。・・・ではこちらをどうぞ。美味しいと思っていただければよろしいんですが。」
「ん・・・うまいよマスター。もっともこんなに楽しく過すのは久しぶりだ。こんな気分で珈琲を飲んで美味しくないわけがないよ。ありがとう、また寄らせてもらってもいいかな?」
「お気に入りいただけて光栄です。珈琲と会話を楽しんでいただける方ならいつも大歓迎ですよ。また昔話に花を咲かせましょう。」
「ああ、必ず寄らせてもらうよ。本当にありがとう。」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ????| Comment(15) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする