2007年10月05日

◇少女の決意

秋の日差しが濃くなった夕暮れ。
店の前で立ち止まり、窓越しに覗き込む少女がいる。その視線の先には・・・。
いつもはそのまま通り過ぎるように立ち去るのだが、今日は違った。
何かを決意したように顔を上げると入り口の扉に手をかける。

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「窓際のカップル、可愛いな〜。中学生だろ?あれは私立○○女子中の制服だよな。男のほうは公立の制服だな。あんな頃あったんだよな〜俺たちにも。」
「そうだな。仲間には内緒で、文化祭や学校外のイベントで知り合った他校の女子と喫茶店デートって定番だったよな。ちょっと大人びた映画に誘ったりする前の手続きって言うか・・・。」
「でも、大概知り合ったとき一緒だった奴らと合同のグループ交際がほとんど。抜け駆けできる奴が羨ましかったなあ。」
「ああ?そうそう、仲間内から突き上げ食ってな、大変だったなぁ。」
「ん?回想の色合いがなんだか微妙に異なる気がするのは気のせいか?」
「お前とは中学生時代には面識が無いからな、地域性もあるんだろ。」
「『も』って言い方、ちょっと気になる・・・」
「だって、お前がソロ踏めるとは思えないし。」
「やっぱりか、いつもいつもおめぇって奴は、人がもてないのをネタにしやがって。」
「怒るなって。怒ったってお前がもてないことに変わりは無いよ。いい加減学習しろ。」
「腹立つ・・・が、事実だから何にも言い返せないことが情けない。ちっきしょうめ、今日はお前のおごりな。」
「あ、ずるいぞ。親と同居しているんだ、俺よりずっと裕福なくせに。」
「精神的苦痛のための慰謝料だ。相手の嫌がる軽口癖、直したほうがいいぞ。」
「お前にしかいわねえよ。あれっ?誰か探してるのかな?覗き込んでる娘がいるよ。待ち合わせに遅れたのかな?」
「あっ、また来てるんだ、あの娘。」
「またってどういう事だ?」
「何回か見かけてるんだ。お姐さんが様子を見に行ったらあわてて逃げちゃったって。誰を探してるのか、待ち合わせてるんだか皆目わからないんだ。」
「す、ストーカー予備軍?俺は身に覚えは無いぞ。対象範囲外だ。でもな、知り合っていなくてもストーキングする奴はいるからな。やだやだ。」
「どこまで自意識過剰な奴なんだ。多分たずね人はお前じゃないよ。今日まで知らなかったんだろう?あの子を他の店の前でも見たって情報もあるしね。」
「ふ〜ん、残念。あと5年もすればいい子になりそうなんだけど。そんな頃に再会したいね。劇的な出会いを演出する準備でもしておこう。」
「気の長い話だな。でも、1週間したら忘れてるだろ、お前は?」
「だからいいんじゃないか。5年後に出会って、ふとしたきっかけで今の頃を思い出す。共通の話題で盛り上がり、親密度急上昇!ってのがあると嬉しいじゃん?アドバンテージがあるみたいでさ。」
「勝手に盛り上がってろ。俺にはわからん!・・・おやっ?入ってきた?目当ての人物がいたのかな?」
「や、やっぱり俺か?そ、そんな急展開はちょっと困る・・・。ああ、どうしよう。中学生じゃ話題選ばなきゃ・・・。」
「何一人で慌ててるんだ。お前の過剰な自意識はちょっとおいとけ。ふふん、残念だったな、お目当ては窓際のカップルだぜ。」
「火花散る三角関係勃発?それはそれで興味があるぞ。以前あった、『振られ男の哀愁』よりは見ごたえがありそうだ。」
「でも、火花散る展開にはなりそうじゃないぞ、二人ともに知り合いのようだし。私立と公立で分かれちゃった小学校時代の親友と、同じクラスの男子って感じじゃないか?」
「それだけだったら探して追っかけて、お店を覗く様なことする必要ないじゃん。今までは覗いていただけだった。ところが今日は相対するようにお店に入った。この違いは大きいと思うぞ。」
「考えすぎだろ?ほら、和やかに談笑しているぜ。」
「だからお前はもてないんだよ!見てろよ、2〜3ヵ月後には組み合わせが変わってるはずさ。そのころには彼氏の脇に私立の娘はいないよ。」
「まさか?」
「そんな決意をして店に入ったんだよ、彼女は。第3者から関係者になるために踏み出したんだ。」
「そんなもんかね。よ〜し、そんなに言うんだったらここの珈琲1ヶ月でどうだ?」
「受けた。確認できない場合はドローでいいな?」

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2007年10月09日

◆応用編 1.注湯方法

さて、今回からは応用編が始まります。
淹れ方や粉の量、焙煎度やメッシュの度合いを変えて、抽出される珈琲液の違いを確認していきます。
基本の抽出法で抽出した珈琲との違いを味わってみてください。

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「お久しぶりです。忘れられそうなので真っ先に登場しました、ウエイトレスで〜す。今回は抽出法の応用編第1回ですよ。」
「やっぱり始めるのか・・・。ま、しょうがねえな。オーナーの肝いりだ、手抜きしたらあとが怖い。」
「ところで今回のタイトルですが、『注湯方法』となっていますが基礎編でやってきたことの復習ですか?」
「いや、そうじゃない。同じペーパードリップでも注湯方法を変えて抽出してみるつもりだ。」
「あ、コメント欄でカブ子さんがおっしゃってた方法ですか?」
「そうだ、せっかくああいうコメントを頂いたんだ。きちんと抽出するための方法と意味を早めに説明しておいた方がいいかと思ってな。」
「ふ〜ん、一気にお湯を注ぐ方法でしたよね。蒸らしを行わなくって大丈夫なんですか?」
「まあ、やってみればわかる・・・かな。準備の方はいいか?」
「はい、いつものように2〜3杯用のドリッパーを用意しています。豆もミディアムローストを準備しました。」
「よし、じゃあいつものように淹れてみろ。」
「はい、粉22gを濾紙に入れて・・・お湯を細くして全体に静かに注いで・・・ドームがしぼみ始めたら2投目を入れて・・・お湯の高さを8分目まで上げたらそのままキープ・・・っとできました!」
「まあ、いいだろう。でもなぁ、いちいち手順を口に出さなくていいぞ。」
「だって、言っとかないとちゃんと淹れてるのか疑問視する方が出てきそうなんですもん。入れたふりして脇から準備してあるやつを出してるって思われるの、イヤなんです。」
「誰もお前が淹れてないなんて思ってないから気にするな。」
「でも・・・。」
「ちゃんと淹れられるようになってるから心配するな。じゃあ別の淹れ方をやってみるか。」
「はい。豆の量とドリッパーは同じでいいですか?」
「当たり前だ。そこを同じにしておかなければ比較にならんだろうが。ちゃっちゃと用意しろ。」
「はい、今淹れたのはカップに取り分けておいておきます。」
「細めに絞った湯をどんどん入れて、ドリッパーの淵一杯まで湯面を上げろ。そうだ、その際濾紙に直接湯が当たらないように気をつけてな。あとは湯面が1分目下がったらお湯を足す。その繰り返しを続ける。」
「え?それだけですか?」
「ああ、気をつけなきゃならんのは最初の注湯の際にドリッパーの中でよく粉を攪拌することだ。その後上まで行ってからは静かにお湯を差すようにすればいい。」
「2杯分入ったんでドリッパーを外します。本当にこれでいいんですか?」
「大丈夫だ。じゃあカップに取り分けてさっき淹れたのと飲み比べてみろ。」
「はい。・・・あれ?なんだかこれ、すごく軽くないですか?苦味も少ないし。」
「ちゃんと淹れられたようだな。そうなるはずなんだ。これで蒸らしが重要だってことがよくわかっただろう?」
「でも、これはこれでいいですね。少し苦味が弱まって苦味に隠れていたいろんな味がわかるような気がします。」
「違いがわかるようになってきたか。豆の癖を見るのにも丁度いいんだ。だが、この淹れ方は店では他に使うんだ。」
「アメリカンですね。朝なんかよく『お湯が足らなくなる』ってよく叫んでいるじゃないですか。」
「そうだ、苦味が少なくなるんでこの淹れ方が一番都合がいいんだ。」
「でも、アメリカンって元々浅煎りの豆を使っているんでしょ?苦味なんてあまり無いんじゃ?」
「蒸らすことで苦味は強くなるんだ。浅煎りだと変な苦味になりがちなんでな。だが、カフェインや酸味は最も早く抽出される成分なので充分な珈琲の味が抽出できる。」
「へ〜。マスターも考えてるんですね・・・あっそんな意味じゃないんです。ごめんなさい、口が滑りました。牛刀はしまってくださいよ〜。」

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2007年10月15日

▽常連の壮行会

徐々に日が短くなって来た秋の日。
とっくに閉店時間を過ぎたが、店内からは明かりが伸びている。
荷物を抱えた女性の常連客が慌てた様子で店の扉を開ける。

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「みんなまだ居ますか?」
「ああ、お前さんが来るまでは帰らないって奥のほうでとぐろ巻いてるよ。」
「ああよかった。ちゃんとお別れが言えないかと心配していたの。マスターにもご迷惑掛けて済みません。あ、これ石鹸ですけど使って下さい。」
「なあに、いいよ。それより本当に突然だったなぁ。旦那さんの都合だって?最初聞いたときはお前さんのことだ、旦那を単身赴任で放り出すんじゃないかって噂してたんだ。」
「何よそれ、ひど〜い。」
「だって、娘さんのこともあるから、転居なんてましてや地方になんて絶対行かないと思ってたのにな。」
「マスタ〜、私のことどんな風に思ってたのよ!」
「ん?ここでの普段のお前さんを見ていると、田舎暮らしは絶対無理だと思ったんだ。ご近所さんとの濃密な関係は疲れるぞ、お前の性格からしたら・・・」
「それはそうね、すぐに深入りしてなんもかんも背負い込んじゃいそう・・・って何言わせんのよ。」
「そうそう、そんなんじゃあ関西では笑いも取れんしな。」
「あ〜もうマスターったら。私が引っ越すのはお笑いの修行のためじゃないし、引越し先は関西じゃないの。わかってる?私が来なくなると寂しいからって、常連のあの子達みたいなノリで別れの雰囲気ぶち壊さないで!」
「別に、寂しいのは俺じゃなくってお前のほうだろ?お店のマスターってのはな、待つのが仕事なんだ。極端な例を出せば、亡くなったことがわかっている常連だって俺は待ってるんだ。この店の中では普段の生活がどうでも関係ない。この店に一歩入れば俺のリアルなんだ。そしてその「リアル」を共有したいと集まってくるのが常連だろう。」
「マスターのバカ。解ってるわよそんなこと。旦那に付いて行くって決めたのは私だし、娘を説得したのも私なんだからここに通えなくなる寂しさを一番解ってるのは私よ。連中の優しい言葉聞いたらここでの『私』じゃなくなりそうだから、それまではどうしても『私』でいたかったのに。」
「悪いな、ガキ共に頼まれたんだ。連中はお前ほど店の中と外での顔は違わない。これからも連絡を取るにせよ、お前さんの本当の顔を見ときたかったんだろ。飄々と引っ越すことを伝えて帰っちまったからな、この間は。」
「マスター、覚えてなさいね。私は「素」のほうがキッツイんだから。ぜ〜たいお返ししてやるんだから。」
「おっと、それは勘弁しろ。ほら、連中が待ちくたびれてるぞ。早く行ってやれ。」
「なんだか肩の力が抜けちゃった。そうだ、まだ珈琲のオーダーは大丈夫?」
「ああ、うちにないもの以外ならなんだって作ってやる。とりあえず最後だからな。」
「それじゃあ今までの私じゃ絶対に頼めなかった『カフェキュラソー』がいいわ。」
「クールじゃないが砂糖のような甘さではない、今のお前にはぴったりなチョイスだな。爽やかなオレンジの香りもにくい演出だ。」
「私のために遅くまで本当にありがとうございます、マスター。豆の注文は以前に教えていただいたアドレスでよかったんですよね。」
「ああ、OKだ。メ〜ルは気長に待っててやるよ。どうせ引越しでごたついてるんだろうしな。落ち着いたら連絡してこい。引っ越し祝いぐらい贈ってやるから。」
「うん、じゃあ連中に本音でお別れ言ってきます。ほら、もう泣きそう・・・」
「ああ、珈琲はすぐ持って行ってやるからな。」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☀| Comment(2) | TrackBack(1) | 珈琲店の常連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月20日

◇出会いは1通のメールから

ある秋の日の夕方。
駅前の交番で道を尋ねていた女性が店の前の通りにたどり着いた。
立ち止まり店の外観を眺めた後、表の掲示板にあるメニューを見つめる。
何に納得したのか、頷くとバックから一枚のコピー用紙を取り出し、手に持ったまま店のドアを開けた。

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「いらっしゃいませ〜。お待ち合わせですか?」
「こちらに、Nさんって方おみえになりますか?」
「ああ、わたしです。えっと、どちら様でしたっけ?ごめんなさい、思い出せないんです。あっ、マスター。少し休憩いいですか?・・・わかりました、気をつけてます。あ、すみません、お店の許可貰ったんで立ち話もなんですからお席にどうぞ。」
「ああ、ほんとにいいんです・・・あっありがとうございます。」
「まあ座って座って。今珈琲持ってくるからちょっとだけ待っててね。」
「はぁ・・・。それじゃあ。」
「従業員用のアメリカンですけど、どうぞ。」
「ありがとうございます。頂きます。」
「それで?私は思い出せないんだけどお会いしたことあったかしら?」
「いいえ。実はこのところ忙しくて、しばらくメールチェックしていなかったんですが、今日のお昼に久しぶりに見てみたんです。そうしたらこのメールがあったんです。頂いてから随分経っていたし、文面にある約束の期日は今晩だったので、返信で連絡しても遅いと思ったので。」
「え?今日の約束のメール?どれどれ・・・あ〜っ思い出した!あいつに出して返事がないからおかしいなって思ってたやつっ!どうしてあなたのところに?ってあなたに聞いてもわからないわよね。」
「私にも何がなんだか。それで待ち合わせの場所のここにこれば何か判るかと・・・。」
「でも、よくわかったわね、この店。ネットで紹介もされてないし、広告もあまり出てないでしょ。」
「でも、電話番号が書いてあったんで・・・私、はじめて電話帳を開きました。」
「いまどきそんなアナログな方法を?でもそれしかないわね。」
「あんなにたくさんの電話番号見たのはじめてで、始めは最初のペ−ジから順に調べちゃいました。索引に気付くまでしばらく・・・。喫茶店の項でようやく見つけました。」
「ご苦労様、でも来るのに不安じゃなかった?へんなお店だったらとか、ただのSPAMだったらとか。もしかすると変なお兄さんたちが待ち構えていたかもよ?」
「それはあまり考えませんでした。一目見て宛先違いのメールだってわかったんです。そういう類のメールとは明らかに違ってましたから。」
「えっと、ちょっとみせて。あっちゃ〜急いで書いてたから誤字が一杯。ひどいね〜。これじゃあ本人に届いてもどうかって思われるよ〜。」
「それに、宛名が私じゃないんですもの。」
「あっそっか〜!そうだよね。あらら、アドレスのiとuタイプミスしてる〜。」
「それで、放っておいた私のためにお友達と会えないんじゃ申し訳ないと思ったのでお知らせに上がったんです。」
「ありがとう、でもそれはもうよくなったの。折角来ていただいたのにごめんなさい。」
「いえ、メールの文面からどんな方なのかすごく興味がありましたし、こんな素敵なお店に出会えたんですもの、それだけで来た甲斐がありました。そんなに遠くないんでまたお邪魔できると思います。」
「こんどは、正しくあなた宛にメールするね。」
「本来の宛先の方は?いいんですか?」
「逃げられちゃったんだ。ま〜たいい男捜さなくっちゃ。ね、お友達紹介して?」
「切り替え、早いんですね・・・。」
「まあ、折角来たんだからゆっくりして行ってね。まだ何か飲む?」
「さっき、表のメニューを拝見したんですけど、『オレンジマシュマロコーヒー』がすごく気になったんです。珍しいですね。」
「そうね、お店に出しているところはあまり見かけないわね。マシュマロはマスターのお手製なんで、ないこともあるのよ。昨日作ってたから今日は大丈夫ね。」
「それじゃあお願いします。」
「私のほうも、お願いね!見た目はあまり気にしないから・・・。」
「ほ、本気だったんですか?」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☔| Comment(5) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月29日

▽NZからの香り

11月も程近い秋の日の午後。
いつもならお昼の後の片付けと夕方に向けての準備に余念のないマスターが、洗い物もせずフィルターの中に量り入れた珈琲の豆を見つめている。
いつまでも片付かないカウンターの中に気付いたウエイトレスが声を掛ける。

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「あらっ?マスター、いつもと違う香りがしませんか?」
「チッ!気付きやがったか。ちょっと試しに飲んでみようと思っていたのにな。」
「ずるい、マスター。私にも飲ませてくださいよぉ。」
「最近敏感だな。多少は珈琲の味がわかってきたのかな?」
「食い意地が張ってるだけですよ。でもどうされたんですか?普段はこんなことしないのに。」
「NZのYさんのお土産さ。帰国前に味見して感想を伝えたいからな。営業中にもかかわらず封を開けちまった。」
「マスターも・・・我慢って物がないんですか?とりあえず休憩時間まで待てなかったんですか?」
「だって3袋もあるんだぜ?気に入った豆があったら最後にもう1度Yさんにお願いして少し多めに手に入れたいからな。」
「えっ?最後って・・・Yさん、また別の国に移っちゃうんですか?NZにいらっしゃるうちにって今、旅行費用貯めてるんですよ。向こうでお世話してもらおうと考えていたのに・・・。で、今度はどこなんですか?この前は中東だったんでしょ?このところシンガポールからも連絡して来てましたよね?ひょっとしてそっちに転勤なんですか?」
「いや、帰って来るんだ、東京に。15年ぶりの本社勤務なんだと。随分と箔が付いて帰ってくるんじゃないか?」
「え〜?格好良い〜!それじゃあもう少し頻繁に来てくれるかなぁ。」
「お前、また守備範囲広げたのか?相手にもしてもらえんだろうがな。」
「違いますよ。素敵なCDを紹介していただこうと思って。このお店のBGMもマンネリでしょう?たまにはいいかなって思って。」
「それは駄目だからな。紹介してもらっても自分ちで聞けよ。まあ、これまでよりは来れるだろうな。帰国して、仕事の合間を縫うように通ってくるわけじゃないからな。時間的な制約が少なくなるだろうし・・・っておいっ、俺の作業の手を止めさせるな。きちんと淹れられたら飲ませてやるから。」
「もう淹れ終わったんじゃないんですか?」
「馬鹿言ってるんじゃない。1杯分づつメッシュや注湯方法を変えて一番美味しい淹れ方を見つけなきゃならんのだぞ。ちょっと30分ぐらい放っておいてくれ。」
「お客さん、来ますよ。」
「常連だったら待たせとけ。マスターに怒鳴られるとでも言っておけよ。」
「いいんですか?オーナーに言いつけちゃうぞ。」
「うるさいぞ、静かにしていろ。」
「あ〜あ、もうこうなったら何言っても無駄ね。本当に知らないから・・・。」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☀| Comment(5) | TrackBack(0) | 珈琲店の常連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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