2007年11月02日

◇思い出は繰り返す 〜風の唄〜

やや強めの雨が窓の外にカーテンを引いたような夜。
客足も途絶え、閉店時間が近い。
傘も差さず濡れそぼった女性が商店街から店の前までたどり着いた。
化粧も流れてしまった顔には雨の雫ではない水滴が混じっている。

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「ただいま〜。マスタ〜・・・」
「いらっしゃい・・・おい、どうした。そんなところに突っ立ってないでそこに座れ。傘は差して来なかったのか、びしょ濡れじゃないか。今タオル出してやるから。」
「あの人のライブ行ってきたの・・・」
「お前、やっぱり行ってたのか・・・。なんでそんな辛い想いまでして行くんだ?」
「だって、好きなことには変わりがないんだもん。ライブの噂聞いちゃうと結局チケット買っちゃうの。」
「もう2年だろ?あいつが出てってから。ほら、ホットミルクだ、これであったまれ。」
「ありがとう、マスター。見て!このマッチだけは濡らさなかったんだよ。」
「お前なあ、そんなもん未だに持ってるから忘れられんのだろうが。」
「でも、もう彼と繋がってるのはこれだけなんだよ。この先のお店もなくなっちゃったし・・・。今年はギターも変わってた。」
「ああ、あのSUZUKIのアコースティックか?あの頃から乾いた音を出してたっけな。もう随分使ってきたようなギターだったな。」
「ギターを教えてもらった先輩の遺品なんだってずっと大事にしてたのに。」
「歌う曲が変わってきて、あのギターじゃ合わなくなってきたんだろ?処分したわけじゃないよ。何本も持っている奴はゴマンと居るよ。以前の唄を歌う場合は持ち出すんじゃないか?」
「今回も、あの頃の唄は一曲もなかったの。去年のライブからはそれまでずっとアンコールで歌ってたあの歌も別のに変わっちゃったんだ。もうあの頃なんか振り返りたくないって思ってるのかな。」
「昔の自分の姿が惨めだと思っているやつはそうだな。でもな、そんな頃があったから今の自分があるんだって思えるようになるには時間はかかるだろうな。」
「わたし、彼の今の歌嫌い・・・。けばけばしいだけで彼の声が届いてこないの。ギターだって、ほとんど自分では弾いてないのよ。ただ、小鳥のように歌ってるだけ。」
「歌うことに集中させてもらえるようになったんだろ。メジャーデビューも近いのかな。いいか?もう忘れちまえ、昔のことなんか。新しい彼氏ができればすぐ忘れられるだろうにな。」
「忘れられないの・・・、こんな雨の降る夜は特に・・・。一人で傘を差してるのがつらいの。」
「雨に濡れて来たのはそのせいか・・・。本当に新しい彼氏でも見つからんとおまえ自身がやばいな。」
「でもね、今日は『このままあんな歌を歌い続けてるなら忘れられるかも』って気がちょっとだけしたの。違いすぎるもん。詩も曲も昔の雰囲気はなくなっちゃったから。」
「それがいいな。人はそれぞれ変わっていく。同じ方向に変わっていけなければ別の道を進むしかないからな。もうあいつとの道は交わることはないんだろうから、お前も新しい道を見つけろ。」
「ずっとそうは思ってきたんだけど・・・。私も変わってきたのかな。」
「多分な。普段に聞く音楽を変えるだけでも気分は変わるぞ。うまくコントロールしてみるんだな。カウンセラーじゃないんでこんなことぐらいしか言ってやれないが・・・。」
「ううん、ホットミルクとマスターの声で今夜は落ち着けた・・・。ありがとうマスター。お店が開いてる時間で本当に良かった。また来るね。お代は・・・?」
「いいって。こんなの気にするな。それよりこのあとは必ず傘を差して帰るんだぞ。」
「はい。あっ、シート濡らしちゃってごめんなさい。それじゃあ、おやすみなさい。」
「ああ、元気出せよ。」

まだ続きます
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2007年11月08日

◆応用編 2.焙煎度

今回は応用編の第2回です。
前回は注湯方法を変えるとどうなるかがポイントでしたが、今回は豆の焙煎度が変わるとどうなるかを見てゆきます。
基本の抽出方法を変えずに淹れて、味わってみましょう。

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「ああっ!いい香りがしますね。おととい入荷した豆ですか?」
「ああ、今回の講習用に特別に焙煎してもらったものだ。」
「そっか〜。今回は『焙煎度の違いによる味の変化』でしたね。特別に焙煎してもらったっておっしゃいましたよね。いつもの豆じゃ駄目なんですか?」
「いつもはミディアムローストのレギュラーブレンドだろ?焙煎度の違いを比較したいんだからしょうがないんだ。」
「お店には焙煎度の違うブレンドがあるんじゃ・・・?」
「駄目なんだよ。あれらは専用にブレンドが変えてあるんだ。同じブレンドの豆の焙煎度を変えて淹れてみないとな。」
「ええっ?アメリカンもフレンチもブレンドが違うんですか?」
「ああ、これを決めるのにオーナーと1月かかったかな。豆屋にも随分無理を言った。今回のことも豆屋はあきれていたよ。」
「やる気なさそうにしてるのに随分気合入ってませんか?」
「やることだけはきちんとする性質でな。さあ、始めようか。」
「はい、お湯の用意は出来ています。いつものように淹れていいんですか?」
「そうだな。まずは基準になる珈琲を淹れてみようか。」
「わかりました。(落ち付け落ち付け・・・・)」
「お前なぁ、いい加減自然に淹れられる様になれよ。毎回突っ込まなきゃならないおれの身になってくれ。」
「だって・・・。前回なんてコメントいただいたの御一方だけですよ。『でしゃばって登場したのがいけなかったのかなぁ』とか、『きちんと淹れられ過ぎなのかなぁ』とか色々悩んじゃって・・・嫌々でもちゃんと準備していただいているマスターに申し訳なくって。」
「あほか、全く何余計なことを考えているんだ。俺は応用編になってPVが減るかと思っていたんだが大して減っていないことに驚いているんだ。」
「そうなんですか?」
「ああ、応用編は珈琲の味に対する微調整のテクニックだ。基礎編に比べればハードルはかなり高い。せっかく購入した豆を無駄にすることにもなりかねんからな。だからコメント数なんかは気にするな。応用編は『読んで記憶に引っかかってくれればいい』んだ。それよりも正確な情報を伝えるほうが重要だからな。基本に忠実に珈琲の抽出を頼む。」
「はい、きちんとお手伝いさせていただきます。」
「基準のものを淹れ終わったら、カップに移してすぐ次のに取り掛かれ。フレンチ・アメリカン同時に淹れてもいいぞ。」
「ど、同時?私、きき腕は1本しかありません。ケトル2つも同時に注げませんよ。」
「俺がいつも午前中にやってるの見てるだろう。第1投目を少し時間差を置いて注げばいいんだ。」
「はい、こうですね。ああ、なるほど・・・交互にお湯を注していけばいいんですね。でも忙しいですよ。」
「当たり前だ、ほらお湯が冷めるぞ、ケトルを交換しろ。ケトルも交互に使っていけば湯温を必要以上に下げることはなくなるわけだ。」
「できました。マスター味見をお願いします。」
「俺がやっても意味ないだろうが。お前の舌で感じたことを伝えればいいんだ。」
「は〜い。じゃあまずアメリカンローストから。」
「ああ、どんな風に感じる?」
「香りはいつもと変わりませんね。色は随分赤い・・・。味は・・・うわっ酸味が強っ!苦味は和らいでいますね、でも少し渋めです。甘さはありません。」
「うん、概ねよろしい。ではレギュラーを一旦飲んでからフレンチローストに移ろう。」
「えっ?違いがはっきりするからそのまま飲んだほうがいいんじゃ・・・?」
「基準に対してどうかを見なきゃ意味ないだろ?さっさと次にいけ。」
「は〜い。じゃあフレンチローストです。色は濃いですね、香りは甘さよりも焦げた感じの匂いが強く感じます。味は酸味がほとんどありません。苦味だけがすごく強いです。それも私の嫌いな苦味ですね。でも喉を通った後、口の中に甘さが残ります。」
「本当に珈琲の味がわかるようになったな。抽出講座はそれだけでも無駄じゃなかったってことだな。」
「ううっ、褒められてる感じがしないのは気のせいかしら。」
「このように同じ豆のブレンドを使っても焙煎度によって表出する味が大きく変わってくるんだ。ただ焦がしているわけじゃない、内部の化学変化を促進させるために熱を加えているんだな。そのいい例が『甘さ』だ。フレンチローストで強く出ているがアメリカンでは感じなかった。豆そのものの持つものではないと言うことだ。香りと酸味は熱を加えることによって失われてしまうが、甘さは熱で作られたと言っていい。」
「ひょっとして1ヶ月間、オーナーとこんなことばかりやってたんですか?」
「ああ、豆の配合具合を変え、焙煎度を変えて飲み比べてみて決めたのがうちのブレンドたちなんだ。手間のかけ方はストレートの比じゃないんだぞ。」
「付き合いきれない・・・。オープン時に関わっていなくてよかった。」
「今回の講座は教養講座でしかなかったな。まあ、生豆を買って自分で焙煎してみようと思う人だけ覚えてくれればいいか。」
「でも、自家焙煎しているお店で買うときの指標にもなりますよ。」
「そうか、自分にあった豆を選ぶ際に活用していただければいいかな。」
「ちゃんと皆さんのためになる講座ですよ。マスター、次回もよろしくお願いします。」

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2007年11月14日

◇耳に障らない雑音

晩秋の夕方。
i-podのコードを耳から外しながら店の前に立つ青年。
巻き取ったコードをポケットにしまいながら店の扉に手を掛ける。
ちらとガラス越しに店の中をのぞくが中の様子がわからなかったのか首を振って取っ手に掛けた手をひいた。
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「マスター、あの席空いてる?」
「ああ、珈琲はいつものコロンビアで・・・。」
「うん。」
「しかし、どうしてあそこの席なんだ?人の行き来は多いし、あまり落ち着けないだろう?」
「そんなことは問題じゃないんだ。僕は気にならない。それよりも音なんだ。あそこがこの店で一番心地良い場所なんだ。」
「ん?音?BGMのスピーカーの配置だったら、もっと表に寄った辺りが一番良いはずだけどな。」
「BGMだけじゃないんだ。店の中のいろんな音、マスターやお客の声・食器の音・空調の低音、いろんな音が混じり合った『この店の音』が聞けるのがあの位置だと思うんだ。全てがノイズで全てがそうじゃない、そんな環境に浸れるんだ。」
「ふうん、あまりそんなつもりで店の中に座ったことはないな。」
「この席に座った客って長居しないかな?ここで耳にする音って気持ち良いんだよ。本を読んでいても打ち合わせをしていても、耳から入る音が気になったら集中できないでしょ?」
「確かに他所の店に行っても、座る場所によって落ち着くこととそうでないことがあるからな。一概に否定はできんな。」
「僕んちは工場が隣接していたんでノイズには慣れてるんだ。家の中でもノイズが全く気にならなくなるポイントがあって、そこに居ると落ち着けるんだ。」
「音の干渉とか減衰とか、複雑な話が絡んできそうだな。俺の領分ではないぞ。」
「多分、計算で出せるようなものじゃないと思うよ。耳も人それぞれだし。この席は僕にとって心地いいってだけかもしれないから。」
「ま、珈琲の好みも同じようなもんか。体調によっても左右されるしな。」
「あれっ?奥のスピーカー、音が変だ。高音にチリチリしたノイズが乗ってる。」
「スピーカー?聞き違いじゃないのか?」
「ううん、絶対ヘンだよ。この感じだと早晩音が出なくなるよ。場合によってはハードがその影響で壊れるかも・・・。」
「ええっ?本当か?やだなあ。脅かすなよ。」
「原因は見ないと判らないなぁ、スピーカーかコードかアンプか・・・。今晩閉店後にチェックしてあげるよ。」
「すまんな、手を貸してくれ。スピーカーやアンプなら交換できるが配線だと面倒だな。業者入れなきゃなんなくなる。原因が判明した上でオーナーに連絡することにしよう。」
「じゃあ、一旦帰って閉店頃にまた来るね。」
「おいおい、そう慌てて帰らなくってもいいよ。淹れちまった珈琲ぐらい飲んでいけ。」
「あ、そうか。マスターの役に立てるって思ったら焦っちゃったよ。往復に1時間2時間とかかるわけじゃないのにね。それじゃあゆっくり飲んでからいってきます。」
「終わったら後で飯でも食いに行くか?」
「うれしいなぁ。行きますよ、お供しま〜す。」


 

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2007年11月19日

▽オーナーからの宿題

とある平日の夜半、閉店も程近い時刻。
店内にはマスター一人が座席に座っている。ウエイトレスはトイレなどを掃除しているのか姿がみえない。
表の扉を開けて常連の女性がそっと入ってくる。
マスターの姿を見つけるがマスターが気付かないのでそっと近寄っていく。
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「箱のサイズに水周りは変えられないって条件かなぁ・・・。だとしたら・・・。」
「マスター、さっきから何をブツブツ言っているんですか?定規や色鉛筆まで広げて、ポスターでも作るんですか?」
「あぁ?おお、いいところへ来たな。珈琲一杯奢るからちょっと相談に乗ってくれ。ただし口の堅いお前だから相談するんだからな。」
「え?良いですよ。いつもお世話になってるんですから珈琲は自分で払いますよ。マスターの相談に乗れるなんてちょっと気分が良いですもんね。」
「それじゃあ、珈琲を淹れてくるんで待っててくれ。」
「なんでしょう?ワクワクしてきますね。」

・・・・・・・・・

「お待たせ、お前が好きだって言ってたヤツでいいな。ほい、メキシカンホット。」
「うわぁ、ありがとうございます。ブレンドでよかったのに・・・それで、相談ってなんです?」
「ああ、オーナーから『お前の理想とする店のデザイン案』を提出するように言われたんだ。」
「ええ〜?!このお店、改装するんですか?」
「し〜!あいつに知られたらみんなにバレて大騒ぎになる。果ては常連全てを巻き込んだお祭り騒ぎになることは目に見えてるから、誰にも言ってないんだ。内緒だぞ。」
「なんだか機密事項に触れるってどきどき感があっていいですね。」
「多分オーナーは『改装』を目指しているのとは違うんだろうと思っているんだ。」
「そうだとすると、オーナーさんの意図はどこにあると思ってらっしゃるんです?」
「端的に言えば俺の器量を測ろうってことだろうと思っている。」
「器量?どういうことです?」
「多分俺が切り盛りできる店のキャパの大きさを見たいんだろ?」
「それとデザイン案とどう結びつくのかしら?」
「俺は現在こうしてこの店を切り盛りしているわけだが、理想的なといわれたときに俺が描く店のサイズで、今のクオリティを維持したままでの限界点を無意識に考えるもんだと思ったんだろうな。またそれによって何を重視して限界値を出してくるのかも見たいんだと思う。」
「ふーん。オーナーさんとしてもマスターの力量を知っておきたいって訳なのね。」
「この店で俺は本当に好きにやらせてもらっている。ほとんど俺の意向でこの店のスタイルはできているって言ってもいい。実際にオーナーからは『地域への貢献』としての講習会の開催指示はあったが、他には何もない。ノルマすらだ。実際月々の売上目標だって、俺が勝手に決めてるんだ。しかも俺都合の臨時休業も自由なんだ。ある意味俺の理想像以上なんだよな。」
「普通に考えても恵まれすぎた職環境よね。そんな状態なのに『理想』って言われてマスターは頭抱えちゃってるのね?」
「ああ、店の規模が大きければ品質に責任が持てなくなるが、上がりは良くなる。現状より小さくすれば経費をペイできなくなる。収支・品質どの面から考えても今のままの規模がいいんだよな。始める前にその点ではオーナーと何度も徹夜して検討したんだ。だから余計に困っているんだよ。」
「マスターはどう思ってるの?重要なのは品質?売り上げ?それとも他にあるの?」
「売り上げじゃないことは確かだな。珈琲の品質の他に何があるんだ?」
「わたし、なんとなくわかってきましたよ、オーナーの意図。多分問題なのはマスターがそれに気付かないふりをしていることじゃないかなぁ?」
「特に売り上げ落ちているんでもないし、かえって増えているはずなんだ。珈琲豆の検査だって欠かさないし、クオリティの意味でも下がっている訳はないはずだ。なのに何で・・・。」
「オーナーさんは今のマスターに満足されていないんじゃないですか?」
「どういうことだ?俺は手を抜くようなことはしてないぞ?」
「そういうことじゃないんです、多分。マスターってこのお店を始める前にオーナーと随分話し合われたんですよね?」
「ああ、俺の珈琲に対する姿勢から店にかける意気込みまで腹を割って話した。何日もかけてな。その思いは今だって変わらない。」
「その『変わらない』って所じゃないですか?オーナーが気にしていらっしゃるのは。」
「だってなあ、変えちゃったらまずいだろう?」
「そうじゃないですよ。この店をここまでにしたのはマスターの最初の頃の理想だったと思います。でも、オーナーとしてはマスターの目標をもっと上に見続けて欲しいんじゃないでしょうか?この店のことだけじゃなく。」
「・・・」
「こんなにマスターを優遇してくださっているのは、この店を維持するためだけじゃないと思います。そのことをマスターに気付いて欲しかったんじゃないですか?マスターにこの店だけで満足して欲しくなかったんだと思いますよ。」
「・・・だがなぁ・・・。」
「抽出法の講座だってマスターに後継者を育てることを気付いて欲しかったんじゃないですか?マスターに小っちゃくまとまって欲しくないんですよ。」
「ここで俺に何ができるってんだ・・・。珈琲を淹れるしか能はないぜ?」
「オーナーはマスターの次の提案を待ってみえますよ。それがこの宿題の答えですって。」
「そうなのか・・・?それならそれではっきり言ってくれればいいのにな。俺はここを動いちゃいかんと思い込んでたから、この店の改装や近所に移転して店の拡大ぐらいしか考えてなかった。やりたいことはいくらもあるが、手を封じられていると思い込んでいたよ。勝手に枠を嵌めてたんだな。うん、ありがとう。相談してみてよかったよ。」
「でも、マスターがいなくなると寂しいですよ。」
「ふん、俺がこの店を離れるはずがないだろう。ここは俺の城だ、誰にも明け渡さないよ。ただ、手助けしてくれるヤツは必要だな。新しい顔ぶれが入ってきても意地悪すんなよ。俺がしっかり鍛えるんだからな。」
「あっ、マスター元気になりましたね。その勢いでお願いしますね。マスターには途方にくれたような顔は似合いませんよ。」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☁| Comment(6) | TrackBack(0) | 珈琲店の常連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年11月26日

◆応用編 3.粉のメッシュ

いつも講習会にご参加頂きありがとうございます。
今回は応用編の3回目、「粉のメッシュ」いわゆる粉の細かさについて実験していこうと思います。
いつものブレンド豆を粗挽きから超細挽きまで挽き具合を変えて抽出してみます。
想像してみてもある程度はわかると思いますが、飲んでみるとまた新しい発見があると思います。おうちにミルをお持ちの方は是非試してみてください。豆によっては驚くほど変化がある場合があります。

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「えっと、ここが「粗」でここが「中」、それでここが「細」でいいわね。」
「オイ、何やって・・・ああ、俺の個人用のミルに何書いてやがる!!油性マジックで書くな〜っ!!」
「だってこれ、表示が点だけで判りづらいじゃないですか。今日の講習の際も使用するんでしょうから判り易くしとこうと思ったんです。」
「だからって汚い字をマジックで書かんでもいいだろう。あ〜あ〜・・・。もうこれ生産されていないんだぞ。パーツのガワだけが手に入るかなぁ。」
「ひどいっ!私だって一生懸命考えて少しでもスムーズに講習を進めようと思っていたのに・・・(グスン)」
「わ、わ、な、泣くな、わかった、わかったから。もういいから。なっ?」
「な〜んてね。やっぱりマスターも女の子の涙には慌てるんだ。覚えとこうっと。」
「お、お前!これからのしごきは覚悟しとけよ。もうすぐ新人を採用しようってのに先輩風を吹かしたくないのかな?君は。」
「え?そんな話があるんですか?カッコいいイケメンですか?何人?」
「まだこれから募集するんだ。オーナーとどんな人材がいいのか検討中だ。当面は一人しか雇う余裕はないな。」
「ふ〜ん、またマスター楽しようとしてるんですね。隠居の準備ですか?」
「誰が隠居するんだ!オーナーとあたら・・・あわわ・・・余計なことお喋りに教えちまうとこだった。」
「何か企んでますね、マスター。まあいいです、カッコいいボウヤと一緒にお仕事できるらしいし、バイト代上げてくれそうだから。」
「そんなことは一言も言ってない。お前のせいで客足が遠のいたらバイト代は悲しいことになりそうだな。」
「え〜っ、そんな〜。」
「おしゃべりばっかりしていないでさっさと講習始めるぞ。準備はいいか?」
「お湯は沸いてますよ。豆はどうしましょう。」
「ん、店で挽いてきたぞ。いつものレギュラーを4段階に挽分けておいた。」
「え?挽いてきてあるんですか?折角マスターを泣かせてまでしてミルに印つけたのに。しかも4段階?細挽と中挽、粗挽のほかにまだ用意されたんですか?」
「ああ、極細挽を追加しておいた。エスプレッソで使うメッシュだな。挽いてきたのは挽いてる間待ってるのも時間の無駄だしな。」
「もう、めんどくさがりですね。じゃあ始めますよ。まず中挽からでいいですか?」
「ああ、基準を最初にな。」
「わかりました。・・・かなりスムーズに淹れられるようになったと思いませんか?」
「余計なことはいい。終わったら細挽と粗挽を同時に落とせ。」
「ハイ、前回の復習はちゃんとやってますよ。あれ?大変です、粗挽が膨らみません。マスター豆が古かったんじゃないですか?」
「馬鹿いうな!粗ければお湯の浸透が進まないからガスがなかなか出てこないんだ。しっかり表面を見て、引けてきたら第二投だ。ほら、細挽が落っこちるぞ。湯面を下げすぎるな。何やってんだ、全く・・・。」
「ふぇっ!難しい〜。ますた〜済みません、いい気になってました。淹れなおします。」
「ああ、ちょっと難しかったな。このようにメッシュが違うと同じ豆から挽いた粉でもタイミングは大きく変わる。さては気付いてなかったな、俺が淹れてるときメッシュが違うオーダーは必ず分けて淹れてたって事。」
「あ、ずるい。自分でもやらないことをやらせたんですね。」
「でも、一緒にやって初めてわかったろ?ここで失敗するのはなんでもない。自分で飲むだけだからな。」
「ふんっ、勉強になりましたっ!それじゃあ淹れなおしますよ。」
「あ、淹れなおさなくてもいいよ。どんな風になるかが判ればいいんだ。飲み比べてみろ。」
「はい、基準を確認してからですね。えっと、できれば細挽は飲みたくないっていうか失敗しましたし・・・。はい、睨まないでくださいよ判りましたから。細挽のほうは
・・・うわっ、苦い、渋い、濃い・・・美味しくない〜。」
「途中で絞っちまってるからちょっと渋いだろうな、苦くて濃いのはメッシュのせいだ。酸味はどうだ?」
「酸味も強いです〜、苦手なのに・・・。」
「まあそんなもんだ。細挽あたりだと同じ手順で淹れると中挽の要素をかなり強調してくれる。ただし、余計なものまで抽出されちまうから嫌なエグ味が追加される。それじゃあ粗挽はどうだ?」
「はい、お水で口をゆすいでっと。」
「ちょっと待て、ゆすぐんならお湯にしろ。」
「えっ?何でです?」
「口の中の温度が急に下がると味覚に影響が出る。まあ、そんな厳密な検査じゃないからいいが、な。」
「結構細かいものなんですね。」
「まあな、淹れる条件で微妙に変化する珈琲だから他の条件は統一しておかないといけないからな。」
「それじゃあ粗挽、飲んでみます・・・あれ?飲みやすい。でも薄いっていうか味も素っ気もないですね。力強さは全くありません、ちゃらちゃらした若いお兄ちゃんみたい。」
「やっぱり男に例えるのか・・・。まあいい、大方正確だ。まだまだ抽出不足の感じだろ?」
「そうですね、これじゃあやっぱり美味しくないです。何でこんな風にメッシュを変える必要があるんですか?」
「ローストの具合によって変えるんだ。浅ければ抽出力の高い細挽、深ければ抽出力を抑えられる粗挽ってな具合でな。これに次回の講習でやる湯面の高さを組合わせて丁度いい抽出を行うんだ。」
「頭こんがらがりませんか?」
「色々試しているときは大きな紙に表作って書き込んでかないとわかんなくなるな。しかも、定石に当てはまらないのもたまに出てくることがあるんだ。」
「ひょっとしてそんな手間をかけた中から選ばれたブレンドなんですか、うちのって?」
「ああ、メッシュやローストの具合を決めるのにどれだけ豆を使ったか判らんよ。オーナーもずっと付き合って飲み比べてた。」
「ほんとに好きなんですね、お二人とも。これだけやってれば、文句つけるような客を追い出したくなるのわかる気がしてきました。ところで、まだ淹れてない粉があるんですけど。」
「ああ、これは同じように淹れたら珈琲が嫌いになっちまうからな。アイスにしてどうなるか味わわせてやろうかと思ったんだ。」
「私、アイスの淹れ方はまだ・・・。」
「淹れてやるよ。氷はあるよな。」
「はい、足元のストッカーにあります。でもこれレギュラーブレンドですよね?確かいつもはフレンチを使っていたと思ったんですけど。」
「ああ、よく覚えていたな。それとの違いを味わってみろ。」
「はい。へ〜こんなに低い湯面で淹れるんですか、あれ?もうおしまいですか?通常の1/2もありませんよ。」
「これをグラスに氷を満たした上から一気に注げば氷が解けて丁度いい具合になる。」
「出来上がりですか?じゃあ、いっただっきま〜す!」
「おい、普通のアイスじゃないから気をつけろ・・・って遅かったか。」
「ま〜すた〜、苦味があまり無くって酸味だけがものすごく強いです〜。残り捨てていいですか〜。これ以上飲めませ〜ん。」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☀| Comment(6) | TrackBack(0) | 珈琲抽出研修会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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