2007年11月30日

◇「今夜こそは」と思うだけの道程

晩秋の陽は既に地平の下に隠れ去っている時間。
店内の窓際のテーブル席から、残る二人に挨拶をした女性が扉を開けて出てくる。
ごく普通の足取りで駅に向かって歩み去る。
残った男性のうち一人が迷った挙句立ち上がった。
その姿を見上げながらもう一人はテーブルに置かれたケースから細巻きの葉巻を取り出し咥えて火をつける。

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「や、やっぱり俺行って来る。戻ってくるからな、ま、待ってろよ!」
「ああ、行って来い行って来い。こいつのストックがなくなるまではちゃーんと待っていてやるよ。」
「どうしたんだ?慌てて飛び出していったが。はは〜ん、またいつもの定期便か?」
「あ、マスター。当たり〜。いつもの彼女の騎士になりにいったよ。ナイト以上になるために勇気を振り絞ることもできないのに。『待ってろよ』ってのは『何にもなくてすごすご戻ってきます』って行く前から宣言してるってことに気付かないんだから。」
「まあそう言ってやるな。あいつらしいって言うか、お前とは全然タイプが違うんだからしょうがないさ。自分に自信がもてないんだろう、特にお前なんかといつも一緒にいればな。」
「いい子なんですけどね、彼女。でも僕の趣味には合わないんですよね。あの娘があいつを見る眼は『お友達』以上ではないよね。」
「どちらかと言えば興味はお前の方にありそうだよな。でもお前も男としては見られてないように思うぞ。」
「わかってますって。あえてそうなるように影で努力してるんですよ。親友の想い人の興味を全て自分に向けさせちゃったら、ここからの帰り道、危なくってしょうがないじゃないですか。」
「多少手を貸してやったらどうなんだ?情けなくって見てられないぞ。」
「あいつは僕のそっち方面は認めてないんだ。だから僕が手を貸すことは許してはくれないよ。」
「ああもうじれったい奴らだな。何でも一人で何とかなると思ってるのか、あいつは?」
「ひょっすると今のままで居たいんじゃないかな?告って振られるよりもって考えてんだろうね。普段はあんなに自信たっぷりなヤツなのに、女の子が絡むと一変にこれだもんな。わっかんないよね〜。」
「もうどの位あのままなんだ?中坊じゃないんだから『見ているだけで・・・』なんてのは通じないぜ。」
「知り合ったのは新歓の頃だったけど、くっついて行動するようになったのは梅雨前辺りかな。」
「進展するには都合のいい夏も過ぎ、気分の盛り上がる秋も終わろうとしてるのに何やってんだあいつは?そういったアクションを起こさないのか?」
「そういえば前にあったあった。なんだかすごく落ち込んでたんで吐かせたら、その日朝から一日中一緒で、あいつも浮かれてたんだろうな。信号待ちをしていた人出の多い交差点で『好きだ』みたいなことを言ったらしいんだ。そしたら悪い冗談のように笑ってあっさり流されちまったって。それ以降、頑なにナイトの位置から動こうとはしなくなったと思う。」
「おいおい、それじゃあいつまでたっても平行線のままじゃないか。周りがお膳立てして、あの子に『私の彼氏はあいつしかいない』って認識させてやる方がいいんじゃないのか?」
「ほっといていいよ。時間が解決するだろうし、傍で見ていて面白いんだ、普段は見れないあいつのあたふたした顔が見られて・・・。」
「なんていう友達がいのない奴なんだ。もうこの店への出入りも考えてもらわなきゃなんないかな。」
「ちょっと待ってよ、マスター。あいつに免疫がないのが問題なんでしょ?こんな辛い想いをした経験が次の役に立つってもんでしょうが。俺の立場だって微妙なんだからそんな風にいじめないでよ。」
「ははっ、まあな。お前があの子を少しでも避けるような素振りをしたら今の関係は続けられんだろうな。だからといって放っておくのもあんまりだろう。あいつに気付かれないような援護射撃ぐらいはできるんじゃないか?」
「本人にその気がないんじゃしょうがないんじゃないかなぁ。しかし、妙な関係ですよ。彼女のご両親も公認だってのに。」
「はぁ???」
「何回か送っていったときに上がりこんで食事までご馳走になったって言ってた。」
「あちらの親も公認の恋人未満、ってなんだよ?わかった、お前が放っておく理由がなんとなくな。」
「周りが盛り上がるほど彼女には意識されてないってことですよ。彼女にとっては都合のいい兄貴なんでしょうね。あいつがそれに気付くまでそのままにしておいた方がいいんですよ。」
「わかった、納得。彼女から他の男に告白したいって相談されたらあいつ、どうするんだろうな・・・?」
「その時になって僕の存在意義が出てくるんですよ。親友としてね。」
「そこまで見越してるんなら、みんなの前で躍らせとくのがいいか、可哀相だがな。お前も大変だな、珈琲お代わり持ってきてやるよ。あいつが戻るまでまだ時間はかかるだろう。煙草は大丈夫か?」
「ご馳走様です。これはそこらじゃ売ってないんで、いつも予備を2〜3個かばんの中に入れてあります。明日の朝までだってもちますよ。」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☁| Comment(8) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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