2007年11月14日

◇耳に障らない雑音

晩秋の夕方。
i-podのコードを耳から外しながら店の前に立つ青年。
巻き取ったコードをポケットにしまいながら店の扉に手を掛ける。
ちらとガラス越しに店の中をのぞくが中の様子がわからなかったのか首を振って取っ手に掛けた手をひいた。
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「マスター、あの席空いてる?」
「ああ、珈琲はいつものコロンビアで・・・。」
「うん。」
「しかし、どうしてあそこの席なんだ?人の行き来は多いし、あまり落ち着けないだろう?」
「そんなことは問題じゃないんだ。僕は気にならない。それよりも音なんだ。あそこがこの店で一番心地良い場所なんだ。」
「ん?音?BGMのスピーカーの配置だったら、もっと表に寄った辺りが一番良いはずだけどな。」
「BGMだけじゃないんだ。店の中のいろんな音、マスターやお客の声・食器の音・空調の低音、いろんな音が混じり合った『この店の音』が聞けるのがあの位置だと思うんだ。全てがノイズで全てがそうじゃない、そんな環境に浸れるんだ。」
「ふうん、あまりそんなつもりで店の中に座ったことはないな。」
「この席に座った客って長居しないかな?ここで耳にする音って気持ち良いんだよ。本を読んでいても打ち合わせをしていても、耳から入る音が気になったら集中できないでしょ?」
「確かに他所の店に行っても、座る場所によって落ち着くこととそうでないことがあるからな。一概に否定はできんな。」
「僕んちは工場が隣接していたんでノイズには慣れてるんだ。家の中でもノイズが全く気にならなくなるポイントがあって、そこに居ると落ち着けるんだ。」
「音の干渉とか減衰とか、複雑な話が絡んできそうだな。俺の領分ではないぞ。」
「多分、計算で出せるようなものじゃないと思うよ。耳も人それぞれだし。この席は僕にとって心地いいってだけかもしれないから。」
「ま、珈琲の好みも同じようなもんか。体調によっても左右されるしな。」
「あれっ?奥のスピーカー、音が変だ。高音にチリチリしたノイズが乗ってる。」
「スピーカー?聞き違いじゃないのか?」
「ううん、絶対ヘンだよ。この感じだと早晩音が出なくなるよ。場合によってはハードがその影響で壊れるかも・・・。」
「ええっ?本当か?やだなあ。脅かすなよ。」
「原因は見ないと判らないなぁ、スピーカーかコードかアンプか・・・。今晩閉店後にチェックしてあげるよ。」
「すまんな、手を貸してくれ。スピーカーやアンプなら交換できるが配線だと面倒だな。業者入れなきゃなんなくなる。原因が判明した上でオーナーに連絡することにしよう。」
「じゃあ、一旦帰って閉店頃にまた来るね。」
「おいおい、そう慌てて帰らなくってもいいよ。淹れちまった珈琲ぐらい飲んでいけ。」
「あ、そうか。マスターの役に立てるって思ったら焦っちゃったよ。往復に1時間2時間とかかるわけじゃないのにね。それじゃあゆっくり飲んでからいってきます。」
「終わったら後で飯でも食いに行くか?」
「うれしいなぁ。行きますよ、お供しま〜す。」


 

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☀| Comment(8) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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