2007年12月06日

テイスティング報告 to yasさん

今回は個人的なお礼を含めた記事です。
興味のないかた、訳がわからないとおっしゃる方、読み飛ばしていただいて結構です。

10月末のyasさんの帰国に合わせたオフ会のとき、珈琲豆をNZから届けていただいたことは以前の記事(NZからの香り)にも書いた。

見慣れぬパッケージに封入された異国の豆は全てがフレンチ以上の高焙煎豆であろうことはわかっていた。私自身はNZで普通に売られている豆の味に興味があって、できれば3袋とも開けて早く味見がしたかった。
だが、現実問題を考えるとなかなかパッケージを開ける勇気が湧いて来なかった。
どちらかというと浅いローストで酸味・香りを楽しむのが好きなかみさんに、それぞれ1週間も続けて苦味の強い珈琲を飲ませ続けることになるのが、どんな怒りを買うかわからないって言うのが本音のところであった。

それでも、これまで飲んでいた豆が切れたのを機会にやっと1袋目の封を開ける事ができた。


「Ultimo」
袋を開けた際の焦げたような香りは、日本で好まれる「炭火焙煎」とは違うスモーキー感のないすっきりした香りであった。ミルで挽き始めると家のどこにいてもわかるほどに香りが立つ。
通常の手順で抽出してみるが、「苦味」が前面に出てしまい他の味がわからなくなった。
迷わずメッシュを極端に粗く設定し再度挑戦、湯面の高さも低く抑えじっくりと抽出する。
これが今回手に入れた3種類の豆の基本的な抽出法となった。
味は苦味が和らいだおかげで随分と飲みやすく変化した。
苦味の質も変わり舌と喉を刺激していたものから舌を心地よく痺れさせる程度に落ち着いた。加えて焙煎による甘さも加わり、若干の酸味も感じられるようになった。

「PRIMO」
先の豆を使いきったところで新たに封を開けた。
若干ローストによる香りではない、豆の持つ香りがかすかに感じられる。焙煎度は「Ultimo」に比べて浅い(比較上の違い。シティーまで浅くなったということではない)ようだ。
「Ultimo」抽出時に決めた抽出法で落としてみる。豆の状態からもわかるとおり苦味が若干弱い、刺激も少ない。若干薄っぺらくなったように感じていた。
だが、その後の変化は急激だった。
飲みかけた珈琲を置いたまま器具を洗うため流しに戻り、ドリッパー・サーバーをすすいで戻ってみると息子が私の珈琲を飲んでいた。苦味に嫌な顔をすることもなく「お父さん、今回の珈琲、前のよりずっと飲みやすいよ。それに飲んだあと口の中にふわっと甘さが広がってくる。」と言っている。刺激が弱くなったので飲みやすくなったのかと思い自分でももう一度味わってみる。するとどうだろう、強烈に甘味が強くなっているのだ。喉まで通り過ぎたあと口じゅうに広がる甘さはどこから来たのだろう。
そして気付いた。私はかなり熱めの珈琲を飲むのだが、作業中に温度が下がり子供が飲める温度になっていたのだ。この豆の適温は低かったのだ。自分の至らなさを感じた瞬間だった。あれほど「研修会」で温度について触れていながら、自分の抽出で確認を忘れるなんて・・・。

「JUMP START」
先の「PRIMO」は非常に美味しいと感じたためか豆がなくなるのも早かった。そして最後になったこれの封を切る。
立ち上がる香りは焙煎によるもので豆本来の持つ香りは全く感じられない。
豆の表面にはてらてらと光る油が纏いつき、ざらざらという感じには豆は動かない。純粋にイタリアンローストされた豆だった。
この時点で既に私の心は引いている。なんだかおざなりのカップテストしかできそうもないぐらいだ。
同じように淹れてみるが、心は躍らない。思ったとおりの味、しかし前回のこともあるため少し冷めるまで待って再度味わう。が、エグ味が増しただけでふくよかな味の広がりが増すことはなかった。これはやはりエスプレッソや、豆の油も浸透させることができるフィルターを使用したドリップでなければ美味しく淹れられないという結論に達した。

今回yasさんにお願いして3種の豆を手に入れたことにより、珈琲タイムがエンジョイできた以上の成果が充分に有った。
思った以上に自分の抽出感覚が「錆付いて」いること。そして、目と頭で味を判断してしまいがちなこと。この2点がはっきり自覚できたことは良かったと思う。
慢心してはいけませんね。

その後、「JUMP START」はアイスコーヒーを淹れるために冷凍庫で出番を待っているのを報告しておこう。

最後にyasさん、荷物が増えて大変なところ、3種類もお届けくださり感謝にたえません。それぞれの味わいの違い、堪能させていただきました。お礼と報告に代えてこの記事を掲載させていただきます。

ありがとうございました。

posted by 銕三郎 at 12:00| 東京 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 連絡用掲示板 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年12月10日

◇クリスマス商戦への準備

木枯らしが吹きぬける、夕暮れの近い時間帯。
商店街からはクリスマスソングが聞こえてくる。
半袖の制服のまま店から出てきたウエイトレスがメニュー板にビラを貼り付けている。風に飛ばされることがないようにと念入りに止めているようだ。
そろそろ年末のイベントが始まるらしい。

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「マスター、貼ってきましたよ〜!」
「うん、ご苦労さん。外は寒かっただろう。ちょっと休憩してていいぞ。ココアでも作ってやろうか?」
「あれ?今日は優しいですね。何かあったんですか?」
「いや、これからクリスマス、年越し、正月と忙しいのが続くからな。その最初のイベントが始まったなと思ったから、つい、な。」
「でもこの『クリスマス・ケーキ購入券抽選会』ってなんでですか?予約していただいてたくさん販売すればいいじゃないですか。」
「ダメだ、うちは珈琲屋だ、ケーキ屋じゃない。なんて強がってもいいが、実際はタマがないんだよ。」
「えっ?発注すればいいんじゃないんですか?」
「そんな工場みたいなところから仕入れていると思うのか?」
「まあ確かに、マスターのことだからこだわりがあるんでしょうから、普通のケーキ屋さんじゃないことは確かですよね。」
「聴いて驚け・・・と言って詳しく教えるわけにはいかんのだった。まあ、毎年やっているから何回か当たったことのあるお客はどういった代物だかだいたいわかってるだろうがな。」
「えっ?そんな有名なお店のなんですか?」
「店じゃない、パティシエって言うかケーキデザイナーなんだよ。コンペ用に作ったケーキを量産するためにレシピとして書き下ろすんだが、その際にプロトタイプとして作ってみるんだと。それは納品するものじゃないってんで俺んとこに廻してくれるんだ。」
「ゆ、有名な方なんですか?」
「そこそこだな。多分お前も名前ぐらいは聞いたことはあると思うな。」
「そんなレアなケーキをあの値段で販売していいんですか?」
「このイベントは店からいつも来ていただいているお客さんへのサービスのつもりなんだよ。俺は奴から請求された金額程度しかお客から頂いてないんだからな。だが、俺んとこに廻さなきゃ捨てるもんだなんて奴は言ってるが、実際はわざわざ作りなおしてくれてるよ、どう考えても時期が合わないからな。だから本来ならば倍以上の金額をつけてもおかしくはないものだぞ。」
「マスターがそんな有名人と知り合いなんて・・・。また後ろ暗い方から手を回したんじゃないんでしょうね?」
「馬鹿いうな。昔々の仲間だ。あいつは自分を俺の後輩と思っているようだがな。」
「学校ですか?」
「いや、バイトしてた店のホールチーフと新人カウンターって関係だった。部署が違うんで俺はあいつを後輩とは思っていない。そんなことで先輩面すんのは嫌いだ。」
「ひょっとしていつも出してるケーキも・・・?」
「ああ、開店当時どこで聞いたのか訪ねてきて、『先輩の店だったら、ケーキの面倒は僕に見させてください!』って言ってくれたんだよ。あいつも今ほどではないが、そこそこ忙しくなってきていたのにな。俺もケーキに関しては素人と変わらんから、『渡りに船』で厚意に甘えさせてもらった。そのまま今日まで続いているんだ。」
「このマスターのどこに惚れ込んだんですか?その方は?」
「さあな、俺が訊いても笑ってるだけなんだ。だが大いに助かっているよ。それどころか、いくら感謝しても足りないぐらいだ。特にパーティの際のデコレーションケーキなんて、時間がなくても予算が厳しくても必ず客のニーズにあった季節感のあるものを用意してくれている。忙しいはずなのにな。こんな注文、普通の業者には発注できねえよ。」
「過去になにやらかしたんでしょうねぇ、私はそっちのほうが興味がありますよ。そこまでマスターに心酔しているなんて・・・。」
「会うことがあったら訊いといてくれ。知らないうちはこのまま付き合っていけばいいと思うが、場合によっては礼の仕方や対価も考え直さなきゃならんからな。」
「私でわかるんですか?」
「どうかな?多分無理だろうが、わかればってことでいいのさ。その方があいつとの関係が変わらなくて済む。」
「うわっ、すっごくマスターらしい!!でもとってもいい関係なんですね!ケーキ、おいしそうだし私も抽選会に参加していいですか?」
「構わないが、5号のホールだぞ。誰と食べるんだ?また親父さんとかい?あいにくと常連のガキ共もイブは埋まってるようだぞ。」
「マスターってば、ひどい・・・。」

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2007年12月13日

◇ラストオーダー

いらっしゃいませ。いつも足をお運び頂きありがとうございます。
今回で通算50回となりました。これほど続けられるとは思ってもいなかったので自分なりに驚いています。読者がいてくださるというのは本当に励みになるんですね。今後ともよろしくお願いいたします。

実は記念の回なのでオールキャストのパーティーものにするか、応用編のまとめにしようと思っておりました。しかしながらまだクリスマスパーティにはやや早いようですし、応用編は依然「まとめ」までたどり着いておりません。
そこで今回は、随分前に仕上ったんですが発表するのを逡巡していたものを50回記念として見ていただく事にしました。
少し形式が変わっていますし、主演が珍しく女性だったもので、本当にこれでいいのか随分迷っていたものです。

ご意見ご感想をいただければと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
銕三郎
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冷たい雨の降る深夜。
店の周りに灯が点いている店は無くなり、商店街の明かりも消えた頃。
静かに話し込んでいた窓際のカップルのうちの男性が立ち上がり、会計を済ませて宵闇に消えていった。
残された女性はしばらくじっと俯いていたが、テーブルに光る粒が落ち始め、突っ伏してしまった。
ラストオーダーの時刻はもうすぐそこまで近づいている。

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「あれっ?なんで涙なんか・・・。もうダメだってわかってたからあきらめられたし、彼のほうから言い出してくれるのを待っていたはずなのに・・・。」

「ドラマみたいにきれいにさっぱりと振られて、明るくお別れできるつもりだったのに・・・。」

「彼が立ち上がっても全然平気だったのに・・・。窓越しに見送っていたら、思い出がいくつもいくつもよみがえってきて、目の前でにじんでいくのがわかる・・・。」

「泣き止まなくっちゃ。恥ずかしい・・・何度も通ったお店だもの、マスターだって覚えているわね。それにこんな入り口の席で泣いていたら迷惑よね・・・。」

「だからって、慰められたり励まされたりされても困る。今は放っておいてほしい。涙さえ止まれば元気に立ち上がれると思う・・・。」

「ああ、このお店大好きだったけど、もうこられないわね・・・。彼との思い出が多すぎる・・・、それに結構恥ずかしい・・・。いっそのこと彼との思い出と一緒につぶれちゃえばいいのに・・・。」

「私はまた素敵な彼を見つけるの、あんな彼なんか忘れて・・・。でも、次々に涙が溢れてくる・・・。止められない・・・。」

「ああ、もうマスカラも口紅もめちゃくちゃ。こんな顔で電車に乗れるかしら・・・。ひそひそと噂してるぐらいなら誰か一人ぐらい車で送ってやろうって気になってくれないかなぁ・・・。」

「えっ?お店の若いウエイターさん??気付いてくれたのかなぁ・・・。こっちに来る・・・。」

「こんなときは営業スマイルでも嬉しいわ、涙も止まってくれそう。でも声、聞き取れない・・・もう少し大きな声で・・・。」

「あの〜申し訳ございませんが、お客様?これでラストオーダーになります。お会計はお済みになっておられますが、追加でお入用なものはございますか?といってもお飲み物以外はタオルぐらいしかお持ちすることはできませんが・・・。」

*******

「あれから3年かぁ。あの時、彼の笑顔と間の抜けた生真面目な科白に噴出しちゃって、悲しいの通り越しちゃったのね。私何を期待してたんだろう?」
「あいつだって必死だったんだぞ。沈みきっているお客さんの気分を変えてあげようと、カウンターの陰でいくつかパターンを考えて、何度もブツブツ繰り返していたんだからな。」
「どうせマスターが『閉店だからお前が何とかしろ!』とかいってやらせたんでしょ。わかってるわよ。」
「当たり前だ、フロアのことはフロア担当がやらなくてどうする。そのあとちゃんと俺がうちまで送って行ってやったろうが。俺への感謝はどこいったんだ?」
「でも、そうやっていじめるから辞めちゃったんじゃないの、あの子。」
「馬鹿言え、卒業・就職で仕方なくだ。でも代わりにお前がここで仕事するとは思わなかったよ。」
「なんとなく、ね。お店を閉めるまで待っている間に頂いた、ピンク色の甘い珈琲も美味しかったし、なによりあの子の気遣いが優しかったからかな。いいお店だなぁって改めて思ったの。」
「そういえばどうしてるのかな、あいつは。」
「連絡取ってないの?信じられない。いい男に育っていそうなのに、もったいない。」
「今頃どこで何やってんだかなぁ。そのうちひょっこり顔出すだろ。」
「新人君はあの子以上の逸材を見つけてね。期待してるんだから。」

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2007年12月21日

◇聖夜の予定

12月24日のお昼過ぎ、そろそろ日が傾き始め空気が冷たくなってくる。
商店街のスピーカーからはクリスマスソングが聞こえてくるが、この店の前にはツリーなどは置かれていない。
店頭に置かれたテーブルの上にはクリスマスケーキの箱が積まれていたが、既に大半は持ち帰られ、わずかな残りが引換券を待っているだけになっている。
また一組の親子が訪れ、引換券と現金を渡してケーキを受け取ってゆく。
テーブルの後ろにはサンタ風の衣装を羽織った若い女性。子供に話しかけたりしながら笑顔で応対している。

最後の1つを渡し終えた彼女が店の扉を開けてウエイトレスに声をかける。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「全部渡し終わりました。何から片付けましょうか?」
「寒かったでしょう。とりあえずお金と引換券だけ持って店の中に入っていらっしゃいよ。マスターが温かい物をご馳走してくれるわよ。」

*****

「お疲れ様、どうだった?うちでのバイトは。」
「声をかけていただいて感謝しています。楽しかったですよ。お子さんが眼をキラキラさせて待っている姿を見ていたら元気が出てきました。」
「クリスマスイヴに悪いとは思ったんだがな。当てにしていた奴が体調を崩しちまって、頼めるのがいなかったんだよ。遊びに出かける用とかはなかったのか?」
「はい、今年は・・・。今日1日どうしようかなぁって思ってたんです。買い物に出ても幸せそうなカップルや家族連れで一杯でしょうから。」
「おいおい、よく一緒に来ていた彼氏はどうしたんだ?そういえばここ1〜2ヶ月顔見せてないなぁ。」
「喧嘩したままなんです。それも長期出張の直前に・・・。」
「それでか、来るたびに暗い表情を見せていたのは。付き合い始めた頃からデートの帰りは変わらずここだったからな。いつも嬉しそうにしていたのを覚えてるよ。」
「ええ、マスターに話を聞いてもらうのが楽しみだったんです。マスターの一言二言が背中を押してくれたり、引き戻してくれてたりしたんです。だから、今日来てみたんです。マスターが何か言ってくださるんじゃないかって・・・。」
「あ・・・、それじゃあ悪い事したな、バイトなんか頼んで。」
「いえ、別のことに集中できて、お客さんの笑顔がたくさん見られてすごく楽になりました。ちっちゃな子が、『お父さんは今夜も仕事だよ、でも寂しくないよ。サンタさんと約束したんだ。いい子にしてますって』って言っていたんですよ。大人の私が彼のいないクリスマスが寂しいなんていってるのが恥ずかしくなっちゃいました。」
「まあ、仲直りするのが先決ってことだな。電話とかしてないのか?」
「謝ってくるまで許さないつもりだったんで全然・・・。」
「あいつのほうもそう思っていたらどうするんだ。こういう場合先に謝ったほうがこの先有利なんだぞ。相手だって謝るタイミングを逸して困っているんだろうからな。」
「でも・・・。」
「今電話掛けてふられりゃ諦めも付くだろうが。ま、お前らに限ってそんなことにはならんと思ってるがな。」
「だって、なんて言ったら・・・。」
「ああ、もういい。俺が電話する。謝らないんだな!」
「えっ?ダメです、私が今します。」
「そうやってもっと早く素直になってりゃ良かったんだ。そうすりゃあ2ヶ月も寂しい思いしなくても済んだのにな。」
「あ、もしもし?私。ごめんね・・・えっ?マスターに・・・?どういうこと?・・・どこですって?あ、切れちゃった・・・。マスター?ねえ、どういうことかしら?『マスターにありがとうって言っといて』ですって?」
「あ・・・、うん、それは・・・だな。あいつに相談されたんだ、どうしたらいい?ってな。実は昨日の夕方から明日の朝まで思いがけず休暇になったそうだ。でもいきなり会いに帰っても喧嘩したままなので会ってくれるかもわからない。そこで俺のところに連絡があったんだ。」
「まあ、それじゃあマスターは全部知ってて・・・?」
「ああ、そうさ。お前が今日店に来なかったらどうしようかとハラハラしたんだぜ。来なけりゃ夕方お前んちにあいつと出かけるつもりだったんだがな。あいつの手作りのケーキを携えてな。」
「彼は今どこに?手作りって・・・?」
「多分ホテルに戻った頃だろ。今日半日ケーキ作りでしごかれてたはずさ。」
「えっ?しごかれてって?」
「お前が今日手渡してたケーキの製作者のところさ。無理言って今日だけ預かってもらった。訳を話したら喜んでしごきを引き受けてくれたよ。お前は一人きりのクリスマスにケーキなんか買ってないだろうし、謝罪を形にしたいって言うから自分で作ることになったんだ。」
「そんなこと・・・。顔を見られるだけで嬉しいのに・・・。わざわざ遠くから帰ってきてくれるだけで嬉しいのに・・・。マスター、私たちのためにあれこれ手配してくださったんでしょう?ありがとうございます。」
「いや、あいつが真剣にお前のことを案じていたからな。あいつが自分から行動に移さなかったら俺は動かなかったんだ。あいつの気持ちを大切にしてやるんだな。この封筒に今日のバイト代とあいつからの手紙、そしてホテルの部屋番号が入ってる。今日1日はまだまだ終わってないぞ。急いで行って、ちゃんと話をして来い。明日の1番で帰るって言ってたからな。」
「マスター、私、行って彼にしっかり甘えてきます。今日は本当にありがとうございました。また改めてお礼に伺います。」
「礼なんていいよ。早く行ってやれ。ケーキの生クリームが溶けちまうぞ。気をつけてな。」
「はい、行ってきま〜す。」

「ああ・・・行っちゃった。いいよなぁ、羨ましいよなぁ。ますた〜、ここにも寂しがってる女の子がいるんですよ〜。わかってますか〜?」
「それで俺にどうしろと?」
「うふん、終わってからクリスマス・ディナーに連れてってくださいよ〜。」
「ダ〜メ、俺だって今夜は早く帰るんだ、子供たちが起きて待っているからな。絶対付きあわねえぞ、勝手にするんだな。」
「あっ、最後の糸も・・・。しょうがない、酒でも持って父ちゃん家行くか・・・。」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年12月25日

◇聖夜が明けた朝

イブから明けた25日。
昨夜の名残もなく新しい1日が始まろうとしている。
開店準備をしているマスターは、時計を見ながらそろそろ出勤してくるであろうウエイトレスのために珈琲を淹れはじめる。
時間ぴったりに駆け込んできたウエイトレスは、そのままカウンター前でまくし立てる。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「マスター、聞いてくださいよ!」
「なんだ、朝っパラから?一体なんだ?」
「もう、ほんとにひどいんだから。許せない!」
「だから、何だってんだ?」
「こんなに寂しい思いでクリスマスを過ごしているって言うのに、サンタクロースがプレゼントを置いて行かなかったんですよ!もう信じられない!」
「はぁ?・・・プッ・・・ぶぁはっはっは・・・、サンタってお前・・・」
「そうですよ。サンタクロースですよ。何か問題でも?」
「お前なぁ、今時小学生でもそんなことを言い出す奴はいねぇよ。」
「そんなことはわかってますよ。問題はそのあとです!!」
「ん?そうか、そっちか。寂しい思いをしてるのにプレゼントすら誰もくれないって怒ってるわけだな?」
「そうです。昨日の彼女だって、マスターだって、それどころか常連のガキ共だって楽しい思いしているのに、私は父ちゃんと普段のようにお酒飲んで終わりって、不公平!!プレゼントの1つもなきゃ悲しいよぅ。」
「そんなことは一緒に過ごした親父さんに言えよ。」
「言おうとしたわよ。でも、いくら記憶をたどっても父ちゃんがプレゼントをくれたなんてことは1度もなかったんだもん。今更父ちゃんに期待できないわよ。」
「で、なんでまた俺なんだ?」
「父ちゃんの次に近くにいる男性だから。」
「おいおい、頼むよ。ただでさえ世間には誤解されてそうなんだから、不穏当な発言は控えてくれ。」
「だって、多分時間的に言ったら、奥さんよりも長いこと一緒にいるわよ。その私にご苦労様のプレゼントも無し?2号さんの私の立場はどうなるの?」
「ひ、開き直りやがったな。俺が自由にできるのなんて、この店の中だけだ。よし、珈琲なら何ぼでも淹れてやるぞ。どれがいいんだ?好きなの選べ。」
「マスター・・・。私はあの包みの中に何が入っているのかってワクワクしながら開けるのが楽しみなんです。メニューから選べって引き出物の商品カタログみたいじゃないですか。」
「贅沢なやつだなぁ。ほらもう開店まで間がないぞ。着替えて準備をして来い!」
「ふ〜んだっ!マスターのけちんぼ!!」
「やれやれ・・・。」

「ふぇ〜ん、マスタ〜・・・、ありがとうございます〜・・・。」
「何のことだ?」
「あんな風に言っておきながらロッカーにプレゼントいれとくなんて〜。置いてあるんならそう言ってくださいよ〜。」
「誓って言うが俺じゃないぞ!!俺にそんな余裕なんかないことは承知しているだろうが?」
「なーにかな〜?えっ?アクセサリー?なんだか高級そうね。し、シルバーのネックレスだぁ!?確かにこれはマスターじゃないわね。マスターだったらもっと実用的なものか、お食事でしょうからね。」
「どうせ・・・、今年のサンタは気前がいいなぁ。だが俺にはなんにもなかったぞ。」
「マスターはあげるほうでしょ。あら、カードが付いてるわ。『講習会でのお手伝い、毎回ご苦労様でした。今後もよろしくね』だって。オーナーさんね、嬉しいわねぇ〜、内緒で用意してくれてるなんて。今度連絡があったらちゃんとお礼を言わないとね・・・」
「なんだ、オーナーかよ。しょうがねえかな、あいつじゃ。いいとこのお坊ちゃんじゃセンスが違うよなぁ・・・。」
「あら、追伸で『マスターに見せるとクサルので見せないこと』だって、オーナーよくわかっているわね。」
「・・・・あいつは・・・おいしい・・・持って・・・。」
「マスター、何ぶつぶつ言ってるんですか?時間ですよ、シャッター開けますよ!」
「ぜ〜ったい文句言ってやる。あいつめ、覚えてろよ!」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☀| Comment(8) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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