2007年12月10日

◇クリスマス商戦への準備

木枯らしが吹きぬける、夕暮れの近い時間帯。
商店街からはクリスマスソングが聞こえてくる。
半袖の制服のまま店から出てきたウエイトレスがメニュー板にビラを貼り付けている。風に飛ばされることがないようにと念入りに止めているようだ。
そろそろ年末のイベントが始まるらしい。

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「マスター、貼ってきましたよ〜!」
「うん、ご苦労さん。外は寒かっただろう。ちょっと休憩してていいぞ。ココアでも作ってやろうか?」
「あれ?今日は優しいですね。何かあったんですか?」
「いや、これからクリスマス、年越し、正月と忙しいのが続くからな。その最初のイベントが始まったなと思ったから、つい、な。」
「でもこの『クリスマス・ケーキ購入券抽選会』ってなんでですか?予約していただいてたくさん販売すればいいじゃないですか。」
「ダメだ、うちは珈琲屋だ、ケーキ屋じゃない。なんて強がってもいいが、実際はタマがないんだよ。」
「えっ?発注すればいいんじゃないんですか?」
「そんな工場みたいなところから仕入れていると思うのか?」
「まあ確かに、マスターのことだからこだわりがあるんでしょうから、普通のケーキ屋さんじゃないことは確かですよね。」
「聴いて驚け・・・と言って詳しく教えるわけにはいかんのだった。まあ、毎年やっているから何回か当たったことのあるお客はどういった代物だかだいたいわかってるだろうがな。」
「えっ?そんな有名なお店のなんですか?」
「店じゃない、パティシエって言うかケーキデザイナーなんだよ。コンペ用に作ったケーキを量産するためにレシピとして書き下ろすんだが、その際にプロトタイプとして作ってみるんだと。それは納品するものじゃないってんで俺んとこに廻してくれるんだ。」
「ゆ、有名な方なんですか?」
「そこそこだな。多分お前も名前ぐらいは聞いたことはあると思うな。」
「そんなレアなケーキをあの値段で販売していいんですか?」
「このイベントは店からいつも来ていただいているお客さんへのサービスのつもりなんだよ。俺は奴から請求された金額程度しかお客から頂いてないんだからな。だが、俺んとこに廻さなきゃ捨てるもんだなんて奴は言ってるが、実際はわざわざ作りなおしてくれてるよ、どう考えても時期が合わないからな。だから本来ならば倍以上の金額をつけてもおかしくはないものだぞ。」
「マスターがそんな有名人と知り合いなんて・・・。また後ろ暗い方から手を回したんじゃないんでしょうね?」
「馬鹿いうな。昔々の仲間だ。あいつは自分を俺の後輩と思っているようだがな。」
「学校ですか?」
「いや、バイトしてた店のホールチーフと新人カウンターって関係だった。部署が違うんで俺はあいつを後輩とは思っていない。そんなことで先輩面すんのは嫌いだ。」
「ひょっとしていつも出してるケーキも・・・?」
「ああ、開店当時どこで聞いたのか訪ねてきて、『先輩の店だったら、ケーキの面倒は僕に見させてください!』って言ってくれたんだよ。あいつも今ほどではないが、そこそこ忙しくなってきていたのにな。俺もケーキに関しては素人と変わらんから、『渡りに船』で厚意に甘えさせてもらった。そのまま今日まで続いているんだ。」
「このマスターのどこに惚れ込んだんですか?その方は?」
「さあな、俺が訊いても笑ってるだけなんだ。だが大いに助かっているよ。それどころか、いくら感謝しても足りないぐらいだ。特にパーティの際のデコレーションケーキなんて、時間がなくても予算が厳しくても必ず客のニーズにあった季節感のあるものを用意してくれている。忙しいはずなのにな。こんな注文、普通の業者には発注できねえよ。」
「過去になにやらかしたんでしょうねぇ、私はそっちのほうが興味がありますよ。そこまでマスターに心酔しているなんて・・・。」
「会うことがあったら訊いといてくれ。知らないうちはこのまま付き合っていけばいいと思うが、場合によっては礼の仕方や対価も考え直さなきゃならんからな。」
「私でわかるんですか?」
「どうかな?多分無理だろうが、わかればってことでいいのさ。その方があいつとの関係が変わらなくて済む。」
「うわっ、すっごくマスターらしい!!でもとってもいい関係なんですね!ケーキ、おいしそうだし私も抽選会に参加していいですか?」
「構わないが、5号のホールだぞ。誰と食べるんだ?また親父さんとかい?あいにくと常連のガキ共もイブは埋まってるようだぞ。」
「マスターってば、ひどい・・・。」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☁| Comment(10) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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