2007年12月13日

◇ラストオーダー

いらっしゃいませ。いつも足をお運び頂きありがとうございます。
今回で通算50回となりました。これほど続けられるとは思ってもいなかったので自分なりに驚いています。読者がいてくださるというのは本当に励みになるんですね。今後ともよろしくお願いいたします。

実は記念の回なのでオールキャストのパーティーものにするか、応用編のまとめにしようと思っておりました。しかしながらまだクリスマスパーティにはやや早いようですし、応用編は依然「まとめ」までたどり着いておりません。
そこで今回は、随分前に仕上ったんですが発表するのを逡巡していたものを50回記念として見ていただく事にしました。
少し形式が変わっていますし、主演が珍しく女性だったもので、本当にこれでいいのか随分迷っていたものです。

ご意見ご感想をいただければと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
銕三郎
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冷たい雨の降る深夜。
店の周りに灯が点いている店は無くなり、商店街の明かりも消えた頃。
静かに話し込んでいた窓際のカップルのうちの男性が立ち上がり、会計を済ませて宵闇に消えていった。
残された女性はしばらくじっと俯いていたが、テーブルに光る粒が落ち始め、突っ伏してしまった。
ラストオーダーの時刻はもうすぐそこまで近づいている。

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「あれっ?なんで涙なんか・・・。もうダメだってわかってたからあきらめられたし、彼のほうから言い出してくれるのを待っていたはずなのに・・・。」

「ドラマみたいにきれいにさっぱりと振られて、明るくお別れできるつもりだったのに・・・。」

「彼が立ち上がっても全然平気だったのに・・・。窓越しに見送っていたら、思い出がいくつもいくつもよみがえってきて、目の前でにじんでいくのがわかる・・・。」

「泣き止まなくっちゃ。恥ずかしい・・・何度も通ったお店だもの、マスターだって覚えているわね。それにこんな入り口の席で泣いていたら迷惑よね・・・。」

「だからって、慰められたり励まされたりされても困る。今は放っておいてほしい。涙さえ止まれば元気に立ち上がれると思う・・・。」

「ああ、このお店大好きだったけど、もうこられないわね・・・。彼との思い出が多すぎる・・・、それに結構恥ずかしい・・・。いっそのこと彼との思い出と一緒につぶれちゃえばいいのに・・・。」

「私はまた素敵な彼を見つけるの、あんな彼なんか忘れて・・・。でも、次々に涙が溢れてくる・・・。止められない・・・。」

「ああ、もうマスカラも口紅もめちゃくちゃ。こんな顔で電車に乗れるかしら・・・。ひそひそと噂してるぐらいなら誰か一人ぐらい車で送ってやろうって気になってくれないかなぁ・・・。」

「えっ?お店の若いウエイターさん??気付いてくれたのかなぁ・・・。こっちに来る・・・。」

「こんなときは営業スマイルでも嬉しいわ、涙も止まってくれそう。でも声、聞き取れない・・・もう少し大きな声で・・・。」

「あの〜申し訳ございませんが、お客様?これでラストオーダーになります。お会計はお済みになっておられますが、追加でお入用なものはございますか?といってもお飲み物以外はタオルぐらいしかお持ちすることはできませんが・・・。」

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「あれから3年かぁ。あの時、彼の笑顔と間の抜けた生真面目な科白に噴出しちゃって、悲しいの通り越しちゃったのね。私何を期待してたんだろう?」
「あいつだって必死だったんだぞ。沈みきっているお客さんの気分を変えてあげようと、カウンターの陰でいくつかパターンを考えて、何度もブツブツ繰り返していたんだからな。」
「どうせマスターが『閉店だからお前が何とかしろ!』とかいってやらせたんでしょ。わかってるわよ。」
「当たり前だ、フロアのことはフロア担当がやらなくてどうする。そのあとちゃんと俺がうちまで送って行ってやったろうが。俺への感謝はどこいったんだ?」
「でも、そうやっていじめるから辞めちゃったんじゃないの、あの子。」
「馬鹿言え、卒業・就職で仕方なくだ。でも代わりにお前がここで仕事するとは思わなかったよ。」
「なんとなく、ね。お店を閉めるまで待っている間に頂いた、ピンク色の甘い珈琲も美味しかったし、なによりあの子の気遣いが優しかったからかな。いいお店だなぁって改めて思ったの。」
「そういえばどうしてるのかな、あいつは。」
「連絡取ってないの?信じられない。いい男に育っていそうなのに、もったいない。」
「今頃どこで何やってんだかなぁ。そのうちひょっこり顔出すだろ。」
「新人君はあの子以上の逸材を見つけてね。期待してるんだから。」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 🌁| Comment(10) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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