2008年01月07日

◆応用編 4.湯面の高さ

随分とお待たせしました。応用編の第4回をお送りします。
今回は基礎編の抽出でも少しお話した湯面の高さについて実験しましょう。
前回マスターが申し上げている通り応用編は全てが密接に関係しています。
いつもの豆を購入して普段どおり淹れたのに美味しくないと感じた時、ちょっと手を加えるだけでいつもの美味しさが取り戻せるかと思います。微調整の技ですがうまく使えばより良い珈琲ライフを過せるかと思います。

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「すいません、マスター。遅くなりました〜って、あれっ?誰もいない?講習会に遅刻なんて問答無用で一発食らわそうかしら。あら?ケトルにメモが貼ってある。なになに?きったない字で読めやしないじゃないの。・・・忘れ物?自主トレしとけって?自分が遅くなってるのにいい気なもんね。適当にやったことにしておきましょうっと。」
「遅いわね〜。女を待たせるなんて最低!!」

「もう帰ろうかしら、30分になるわよ。いい加減にして欲しいわね・・・。」
「誰がいい加減にするんだ?」
「もう、遅い!!何分待ってると思ってるの。」
「ば〜か、お前が遅刻するから悪いんだろうが。こっちが準備して待ってりゃ。」
「えっ?あっ?そ、そうでした・・・。でも30分も放って置かれるのは・・・。」
「だからメモ置いておいただろうが。ちゃんと練習しとけばあれこれと珈琲飲み比べながら待ってられるだろうって書いておいたと思うが?」
「ああ、そういうことだったんですか?私はてっきり基礎練習をきっちりやっとけって言われてるのかと・・・。ところでどこ行ってたんですか?こんなに遅くなるなんて。」
「倉庫だ。お前を待っている間に今回の講習に使ってみようと思いついたものがあってな。奥のほうまで探してたら時間がかかっちまった。」
「なんですか、これは。この大きさ・・・。」
「店頭ディスプレー用のドリッパーだ。まだ大きいのはあるんだが、濾紙がないんでな。手に入った濾紙はこのサイズまでなんだ。」
「だからって大きすぎますよ。何杯どり用なんですか?」
「15杯どり位かな。うちの店では使わないし展示スペースもないから倉庫へ放り込んでおいたんだ。」
「これと、今日の講習とどんな関係が・・・?」
「今日は湯面の高さだ。いつも使っているドリッパーとこれとを比較すればわかりやすいんじゃないか?と思いついたんだ。最近アメリカンまで淹れるようになったお前なら想像はつくとは思うがな。」
「そうか、水圧をかけた際の違いを大きくしようってことですね。やっぱりうすくなるんでしょうね。」
「そうだな、そういうことは実験して確認するに限るぞ。理由も考えながらやってみろ。」
「はい。」
「あ、そうそう、今回は1杯じゃなく2杯づつでやるように。」
「えっ?どうしてですか?」
「お前にはこいつで1杯どりは技量的に不可能だろ?見ろ、1杯分の粉じゃこれっぽっちにしかならないんだからな。多分アメリカンにしかならないと思うぞ。」
「あはっそうですね、1投目を全体に行き渡らせようとしてもお湯が全部おっこっちゃいそうですね。わかりました、両方とも2杯取りしてみます。」

「どうだ?」
「色からしてうすいってわかりそうだと思ったんですが、案外色に関してはそれほどうすくはならないんですね。しかも香りもちゃんとありますよ。」
「ずいぶんまともになってきたようだな。きちんとした蒸らしができてなきゃ香りは出なかっただろうに。」
「かなり最初のお湯の量と蒸らし時間には気を使いました。うまくいったみたいですね、よかった。」
「飲み比べてみろ。かなり違うぞ。」
「はい。あれっ?コクでしょうか、足りませんね。確かにいつものブレンドなんですけどなんか違う。一味足らないって言うか、物足りません。起伏がない平板な味なんですね、刺激的なところが感じられません。マスターのおっしゃるとおりこれは別物ですね。気分や体調によってはこちらのほうが飲みやすく感じることもあるんでしょうが、本来の味を知ってるともったいない気がします。」
「ふーん、そこまで言えるようになったか。ついこの間まで『アメリカンってお湯で割ればいいんでしょ』なんていってたのにな。」
「それは言わないでくださいよ。この講座を続けるにあたって私も勉強したんですから。」
「こんないいかげんな講師の下でよくここまで成長したな。誉めてやる。だから講義を続けていいか?これまでのことからもわかるように珈琲液の色と香りはほとんどが最初の注湯で決まるんだ。ほとんど蒸らしをしない応用編1のような抽出とはまるで違うだろう?」
「脇道にそれたのは私のせいじゃない・・・。」
「ん?・・・それとは違い、珈琲の味・コクといったものはその後に抽出される。その更に後がエグ味とかイヤ味とか言われる不要な成分だ。これらの抽出度合いは機械的には求められない。これは珈琲豆が農作物である以上避けられない部分だ。まあ、この辺は次回のまとめに回すとするか。」
「マスター、なんだかすごく機嫌よくないですか?後1回で講習会が終われるんで喜んでるんですか?」
「だれが終わりだって言ったんだ?オーナーから打ち切りの連絡でも来たのか?」
「えっ?だってもともとマスターは乗り気じゃなかったんじゃぁ・・・?」
「まだまだやることはたくさんあるぞ!これからもよろしくな!」
「へっ?はい・・・、よろしくお願いいたします?あれっ?やっぱり今日のマスター、へん!」

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2008年01月11日

◇新春の密談

世間では新年の授業が始まって数日経ったある日。
近所の高校の制服姿で商店街を駅とは逆の方角から走ってくる男女二人。
店へと続く角を曲がったとき女生徒の方が後ろを振り返った。
男のほうは常連の彼。女性が追いつくのを店の前で待っている
追いついた女性が促すように彼の袖を引くと、急いで店の扉を開けて飛び込んできた。

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「どうしたんです先輩。こんな風に慌てるなんて。それにこの店、あまり好きじゃなかったんじゃ?」
「いいのよ、今日はここのほうが。」
「あ、マスター、御免、注文はあとで。込み入った話があるみたい。終わったらお願いしにくるからいいでしょ?ほら先輩、奥の席に行きましょう、外から覗いてもわからなくなります。どうぞ、座って・・・。それで一体何があったんです?いつも冷静な先輩なのに。逃げるように学校からでて、まるで誰かに追いかけられているみたいでしたよ。」
「ある意味そうね。巻き込んじゃったって言うより君も重要な関係者だからちゃんと話しておかなきゃ駄目よね。」
「僕も関係者なんですか?関係ないんだったら、先輩の事情でしょうから聞くだけ聞いて忘れるつもりだったんですが・・・。関係者だって先輩がおっしゃるんなら、じっくり聞かせてもらうことにしましょう。僕にどうしても関わって欲しいんですよね?」
「君にはお見通しなんだよね。ま、いつもそばにいるから見えるんでしょうけどね。それならどこから話をはじめようかしら。」
「僕がわかるような話にしていただければ特にどこからでもいいんですよ。」
「まずは今日のことからがいいのかな。今日に至ってついにM君の誘いをはぐらかせなくなっちゃったんだ。それで彼と顔を合わせる前に逃げ出したの。この店なら彼が顔出すことも無いからね。」
「M先輩?ど、どうして?まさか・・・付き合ってたんですか?」
「ばかねぇ。付き合ってれば逃げ出す必要なんてないでしょ?実は以前からコクられてはいたけどなんだかピントが合っていないの。私を偶像視してるっていうか、勝手なイメージを押し付けてくるのね。だから当たらず触らずで常に距離をおいていたんだけど、新学期になってからこっちM君の目つきが変わってきたのよ。」
「えっ?はっきりとお断りの意思表示してないんですか?何で・・・?」
「部内で感情的にこじれるのが嫌だったし、3年の秋までに特定の彼氏ができなければあきらめて自分と付き合ってくれればいいって言われてたんだもん。M君がいなくなると部としても困るし、友人としてはいい人なのよ。」
「わかりますよ、M先輩がいい人ってことは。僕だってあの人に誘われなきゃこの部に関わっていなかったと思いますもん。でも、そんな約束が二人の間にあったなんて気が付かなかった・・・。」
「始まりは私たちが1年の秋の頃だったから知らなくて当然よ。」
「丸2年の放置ですか、ちょっと厳しいよね。卒業も近くなってきて約束を反故にされるのが嫌だったんじゃないかな。でも今のところ僕が重要な関係者ってことの説明はありませんよね。」
「あら、とぼけてるのかしら?それなら夏辺りからの私への接し方はなんと説明してくれるのかしら?」
「それは・・・その・・・なんていうか・・・つまり・・・。」
「あのね、私だって知ってるわよ。春頃はSに熱上げてたのぐらいはね。振られたの?」
「ううん、あの方普通の男女関係の世界に生きてないんですもん。振られるも何も無いですよ。あの人の世界に入れてはもらえなかったって感じ。」
「あの子は特別だものね。そのあと気付いたら私の弟分のような位置にいたわよね。何か意図があって?」
「そう・・・ですね。先輩のそばにいるにはどうしたらいいかって考えた結果です。僕じゃ彼氏に立候補しても無理に思えたんで。」
「・・・・。」
「先輩、黙り込まないでくださいよ・・・。何かまずい事言ったかな・・・?」
「・・・・。」
「先輩、先輩ってば・・・。顔上げてくださいよぅ。」
「何で・・・そんな風に無理なんて決めちゃうのよ・・・。それだから私は・・・M君に訊かれてもはっきりした答えが・・・。」
「えっ?ちょ、ちょっと先輩、急に泣き出さないでくださいよ・・・。もう、困ったなぁ。先輩の涙なんて考えて無かったよ。」
「ねえ、何で。どうして無理なのよ。どうしてはっきりしてくれないの?・・・。」
「だって先輩の周りってAさんとかEさんとか、ぜ〜ったい敵わないようなすごい先輩ばっかりじゃないですか。この部に関わるようになって本気で落ち込んだんですよ。自分ってなんて何にも知らなくて、何にもできないんだって。こんなんじゃ先輩に意識さえしてもらえないなって。だから、先輩にくっついて周りの先輩たちから吸収できるものは吸収して、胸を張って先輩に告白したかったんだ。・・・??あれ?ちょっと待って・・・?」
「そんなこと・・・関係ない・・・。私にはあの、お姫様抱っこだけで十分だったのよ。皆に後で聞いたの。真っ先に抱えあげて保健室まで運んでくれたんでしょ?そんなことを人目も気にせず自然にできちゃう君は素敵だよ。男の子の魅力なんて他の人と比較することじゃないのよ。あれからずっと待っていたのに・・・。」
「ひょっとして、僕って物凄い抜け作?一人で落ち込んで、自分から無難な立場にシフトしたつもりが逆に首絞める結果になっているなんて・・・。わかりました、これ以上先輩に待っていただくのは心苦しい限りですね。先輩、いやTさん、若輩者で申し訳ないんですが、改めてつきあって、というより今後とも今まで以上にお付き合いいただけますか?あなたの特定の男性になりたいんです。」
「ありがとう・・・やっと・・・うれしい・・・。たかだか半年先に生まれていただけのことで、こんなに私のほうも躊躇するなんて思ってなかったし、年下の子達に嫉妬するとは思わなかった。知ってた?あなた1年の女の子たちからすごく評判いいのよ。私が彼女たちの中にいたら、もっと前に自分から動いていたと思う。」
「ええっ?そんなこと知りませんよ!みんな僕から話しかけないと会話には入れてくれないんだもん。」
「それはあの子達があなたを『先輩の彼氏』・『彼女のいる先輩』として認知しているからでしょ?まあ、本人同士の間でけじめが付いてないだけなんだもの。はたからみればそうなるわね。」
「僕の一人相撲と取り越し苦労ですか、本当に馬鹿みたいだ。あ、マスターが気をもんでこっち見てる。心配してるなありゃぁ。先輩、もう大丈夫ですよね、何にします。」
「アールグレイをホットのストレートでお願い。でも、もう二人だけのときは『先輩』はやめて。」
「あ、そうですよね。じゃあ注文してちょっとマスターに説明してきます。(・・・でも、急に言われても、なんて呼べばいいんだろう・・・困った・・・)」

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2008年01月18日

◇新春の密談 〜その翌日〜

駅前の紅茶とスイーツ主体のお店。1階はショーケースを配した物販部、2階が喫茶室になっている。
女性のざわめきが広がる中、先ほどから店の片隅でレモンティーを前にして待っている高校生の男子。制服は近所の高校を示している。
少しして時計を気にしながら、同じ高校の女生徒がやってきた。男の向かいに座る。

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「御免ね、遅くなって。」
「いや、僕も今来たとこだよ。そういえば今日のお昼にあいつが僕たちの教室に来てたぞ。」
「やっぱり・・・?私の問題だからいいって言ったのに。びっくりしたでしょ?」
「いや、うまくいったんだなってわかったから、適当に話を合わせておいた。随分悪者にしてくれたんだね。納得させるのが大変だったぞ。でもあいつは本当に初心いんだか、鈍いんだか、生真面目なんだか・・・。君の涙にころっとまいったらしいね。迫真の演技だったのかな。」
「ううん、演技だなんてとんでもない。本当に不安で苦しくて、一人で思い悩んでたことがぐるぐると頭の中を駆け巡って、つい涙になってこぼれちゃったの。それに、なぜだか彼の目は誤魔化せないの。」
「あいつが君をそこまで追い込んでいるとはね。でも安心した、今日はすごくすっきりした顔で出てきたから。僕から見たら『大丈夫か?』と心配するほど情緒不安定だったんだぜ。いつもの君なら自分から動いて何とかしているだろうに、それもできないなんて驚いたよ。」
「心配してくれていたのは知ってた。私がふったにもかかわらずM君が友人であり続けてくれたことに本当に感謝してる。今回だって悪役を勝手に振ったって怒りもせず見事にこなしてくれるんだもん。」
「惚れた弱みかな。僕も君にふられてから一歩離れた位置から見てみて、君とは恋愛じゃなかったんだなって解ったから。」
「彼は特別だったの。気が付いたら傍にいて、いてくれることで安心できるって解ったら、今度はいなくなることの不安のほうが大きくなっちゃって。こんな気持ちも彼には見透かされているようで恥ずかしくって。部の1年生の声も大いに不安を掻き立ててくれたわ。」
「あいつは素直でいい奴だよ。だから同学年の連中から見ると疎ましく見えるんだろうな。仲間に入れず一人でいることが多かったらしい。クラスで押し付けられた生徒会の仕事で僕と出会って本当によかったって言ってたよ。僕のあとを引き継いでこの部を手伝ってくれって言ったときは驚いた顔をしていたけど。」
「ふうん、そうだったんだ。でも君の教えが良かったのか、今年の文化祭でもきっちり裏を取り仕切っていたよね。どうだったの実際は?」
「表も裏もほぼ全部を理解して動かしてたな。僕たち3年は出る幕無し。ほとんど相談役でしかなかった。実行委員長なんかなんもしてないよ。企画・折衝・実働部隊の把握とやれることは全てやるってつもりだったらしい。」
「表には出てこなかったわよね。そのまま実行委員長までやっちゃえばよかったのに。あんなお飾りに皆の賞賛を譲らなくても・・・。」
「『僕には多くの人を無条件で惹きつけるような魅力はないから』ってIに席を譲っていたよ。ひょっとして物凄くしたたかなのかもしれない。わざわざIを選んでお願いするなんて。」
「それこそM君の薫陶の成果じゃないの?でもよかった、私の知らないところでもいい男になるべく鍛えられていたのがわかって。もちろん今も昔もいい男よ、彼は。私の選択眼に自信が持てたわ。」
「ああ、もうお惚気ですか。勘弁々々、振られた僕としては心が痛い。」
「あらそう?あっそろそろ彼があの店に着くころね。待たせちゃ悪いから行くね。今回は本当にありがとう。お願いできるのは君しかいなかったから、助かったわ。それじゃあ・・・。」
「うん、あいつによろしくな。」

「彼・・・か。君がこんなに変わるなんて・・・、また可愛らしい女の子になっちゃったもんだね。部長として僕らをあごで使っていた頃の颯爽としたイメージはもうどこにもないようだ。僕は君のこんな表情を見られるなんて考えもしなかったよ。君がこんな面を自然に表に出せるなんて、あいつの事を信頼しているからなんだな。良かったよ、引き合わせることができて。うん、僕ももう迷わなくて済む。いい女になれよ、T。」
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2008年01月24日

◇新春の密談 〜その影響〜

成人式も数日前に過ぎた頃。
日も落ちて辺りをキンと冷えた空気が満たしてゆく。
会社帰りのサラリーマンの足音も途絶え始める、そんな時間。
店のカウンターにマスターの姿は無く、所在なげなウエイトレスがカウンターに座った常連に話し掛けている。

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「あれ〜、珍しいわね、紅茶なんか飲んでる?」
「風邪気味だって言ったら、マスターが勝手に作ってくれたんです。僕は珈琲が飲みたかったのに・・・。それから、紅茶は紅茶でもこれはチャイ、柚子チャイだそうです。メニューにはないから通常のミルクティーと同額でいいって。無理やり飲ませて金取るんだもんな、でも美味しいし、体の中から暖まりますね。」
「君の体調を気遣ってでしょ、感謝しときなさいな。それより、聞いた?」
「お姐さんの興味があることといえば・・・あいつが年上の彼女をゲットしたことでしょ?」
「そうよ。いいなぁ、私にも誰か告白してくれないかなぁ〜?」
「そんな目で僕を見てもダメですよ。お姐さんは対象外です。ちなみに僕の相棒は、今、他の女の事は眼中にないはずですから無理ですよ。」
「そんな簡単に却下しないでよ。ほら、美人だし、スタイルもいいし、気が利くし・・・。ねえ、もう一度考え直してみる気、ない?」
「よく自分で自分の事をそんな風に美化して言えますね。確かに見られない程の顔のつくりじゃあないです。でもメリハリのないボディをスタイルがいいって言うんでしょうか?余計なことにすぐ首を突っ込むのを気が利くとは言いませんよね。その上酒乱・・・。これは男が引く最大の理由ですよ。」
「ひ・・ひどい・・・あんまりよ・・・。」
「そう、そのヘンなクサい演技もどうかと思います。」
「あ〜もうやってらんない。大人の女の魅力がわからないようなガキに話を聞いたのが間違いだったわね。」
「大人の女って・・・お年玉がほしいって駄々こねたりしないと思いますよ。マスターがあきれてたじゃないですか。」
「あ、あれは、クリスマスのときにごねたらプレゼントが置いてあったから今度もってやってみただけじゃない。やだな〜見てたの?お茶目しただけでしょ。」
「お茶目って・・・まあ、お姐さんならやりそうって誰だって納得するでしょうけど。」
「納得されてもなんだか嫌よね。まあいいわ、この店の常連には私の魅力をわかってくれる大人の男はいないって事で他で探すことにするから。」
「その方がいいと思いますよ。みんな普段のお姐さんを見ちゃってますからね・・・い、痛い。」
「これぐらいですんでよかったと思いなさいね。あったまきちゃう。」
「お客にこんなことするから・・・。あ、もう言いません、言いませんってば。」
「いい?本題に戻すわよ。」
「ああ、あいつの彼女の話?どんな子なの?」
「それが、丁度私の連休の間だったらしくって見てないのよ。」
「あ〜、この間のお店が静かな時・・・睨まないでください、訂正しますよ。この間マスターが忙しくしていた間だったんですね。じゃあ、マスターに聞いてみればいいじゃない。」
「聞いたら怒られた。客の個人的なことに首を突っ込むんじゃないって。」
「あはは、もう怒られたんですか。それでもあきらめきれないから僕ら常連に聞きまわっているわけですね。でも無駄だと思いますよ、奴らとは時間帯が違うんですから。大人しい高校生なら僕らの来る頃まではめったにいないでしょう。まして彼女が受験生って事になるなら、さっさと引き上げるでしょうから会いようがない。3月になって受験が一段落したらお披露目に来るでしょうから、それまでは僕らもお預けですよ。」
「う〜ん残念ね。ちょっとしたドラマだったって聴いたんでヒロインになれる子ってどんな子かと思ったんだけど・・・。彼のほうは見栄えのする可愛い子よね。年上でいいんなら私が立候補してあげたのに。」
「まだ言ってるんですか?お姐さんを上手に扱えるのは年上の男性しかないですって。マスターみたいな年齢の人でないと無理じゃないですか?」
「やっぱりそうよね、大人の魅力は大人でないと理解できないわね。」
「はぁ?まあそういうことにしておいたところで、風邪ひきの子供は帰ります。お会計をお願いします。」
「えっ?帰っちゃうの?もう少し一緒に考えてよ、どんな人がいいのか。ねえ、ちょっと〜。」
「丁度ここにおきますよ、お姐さん。ちゃんとお仕事しましょうね、マスターに怒鳴られますよ。それじゃあごちそうさま。」
「ありがとうございました。・・・んもう!これからってところなのに!逃げるなんて男らしくないわね。」

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2008年01月31日

◆応用編 5.まとめ

いつもご愛読ありがとうございます。

応用編も最後のまとめとなりました。
しかしながら、応用編は各章が強く関連し合っているものなので、まとめと言う形はなかなかと取りにくいものがあります。
豆の条件によって各章で説明された微調整を行うことにより一層の美味を手に入れることができます。そのためにはその時々に応じてどう調整したらよいのかを自分の目や鼻・耳・舌を使って判断することが必要になります。これは実践の中でしか身に付けられない感覚ですね。

いつもの珈琲をいつもどおり淹れるだけじゃなく、たまには大胆に抽出方法を変えて淹れてみると、別のふくよかな味を発見できるきっかけになるかもしれません。
お試しあれ!

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「マスタ〜?今日は何をしましょう?」
「全く・・・冒頭でオーナーの奴が今回説明しようと思っていたことを全部言っちまうから、何すればいいのか判んなくなっちまったじゃねえか。」
「ぷふっ、むくれてるんですか?」
「美味しい所取りはあいつの専売特許らしいな。」
「あ〜あ、マスター怒っちゃってる。これは講習会になりそうも無いわね。帰ろうかしら。」
「よし、決まった・・・?何やってんだ?せっかく準備したのになに片付けているんだ?すぐにサボろうとするんだからな。」
「何言ってんですか、マスター。私の声も聞こえないほど怒ってたくせに。こんな様子じゃ講習会なんかできそうもないんで片づけを始めたんじゃないですか。」
「勝手なことを言ってんじゃない。じゃあ始めるぞ。」
「ええ〜っ?いきなりですか?しょうがないなぁ、自分勝手なんだから・・・。」
「今日は普段はできない実践的な抽出をやってみよう。」
「ちょっ、ちょっと待ってください。今回は応用編のまとめなんですけど・・・。」
「オーナーが勝手にまとめちゃったんで、今回は俺の好きにやっていいって事と了解した。」
「うわっ、マスター開き直ってる。もう、付き合う私の身になってくださいよ〜!!」
「今回はお前の修了試験もしようって訳だ。抽出ができるってことで時給も上がるだろうな。頑張ってみる気はあるのかな?」
「えっ?お給料に反映されるんですか?一生懸命練習した甲斐がありました。」
「バ〜カ、ちゃんとできたらって話だ。オーナーに文句つけるついでに話をしてやる。」
「ついでって・・・。まあいいです、お給料には代えられません。頑張ります。」
「それでは実践的に行くぞ。4番テーブル、キリマンジャロ・モカ・マンデリンをオール1でお願いします。」
「ハイ?何で敬語?」
「ウエイターがカウンターにオーダーを通すのなら普通だろ。実践的にって言った筈だぞ。」
「わかりました。キリマンジャロ・モカ・マンデリン、オール1。えっと豆はどこだっけ・・・?ありゃ・・・これと、これと・・・よし、準備OK!」
「ちょっと待った!お湯の温度は確認したのか?俺も飲むんだ、へんなもの飲まされたらかなわんぞ。」
「済みません・・・。それじゃあ抽出します。まず、キリマンジャロっと。はいどうぞ。」
「馬鹿もん、3つ一遍に淹れんか!1テーブルのオーダーだぞ。」
「へっ、実践ってそういうことだったんだ・・・。わかりました。やり直します。3杯をほぼ同時に仕上げればいいんですね。今まで2つ同時は何回かやってきましたけど3杯は初めてですね。よっ、リズム感が問題でしょうか?あっ、キリマンジャロが・・・間に合った。」
「おい、マンデリンがカップからあふれてるぞ・・・。」
「ひえ〜っっ!お見逃しを・・・。マスタ〜・・・もう試験修了ですか?」
「いや、とりあえず味見をしよう。モカは問題ないな。マンデリンは若干うすくなっちまってるが、まあ許容範囲で収まっている。問題はキリマンジャロだ。絞っちまってなければいいが・・・ふん、何とか合格点はやれそうだ。」
「えっ?いいんですか?」
「基本的な抽出姿勢は仕上がってるよ。わざとお前の技量以上を求めてみたんだ。焦りもあるし慣れていない部分だってある。減点しようとすればいくらでもあるが、そういったことは少し練習すればこなせるようになるだろう。だからこの場面では合格とするんだ。だがな、同じカップを使ったのはいただけないぞ。ウエイターが俺なら匂いだけでわかる。が、未熟な奴だったらどうする?」
「あ、そういえば以前は私のときもカップが違ってた。そうか、カウンターの中からでもカップを指して指示することができるんですね。」
「そうだ、ホールの人間が自発的に動ける奴ばかりじゃないことも考慮に入れてなきゃならないんだ。一目でわかるのが基本だ。」
「はい、そうですね。私が最初にお店に立ったとき、何をしていいかわからず、マスターに指示されなければ動けなかったことを思い出しました。あれっ?そうするとそろそろ新人が入ってくるんですか?」
「お前のカンの良さはどこから来るんだ?いつもはボ〜っとしてるクセに。まあいいか、そろそろ話しても。募集している職種は経験者で副店長候補。いくらか応募はあったし面接も行った。だがオーナーと俺の眼鏡にかなう奴はまだ出てきてない。」
「え?と言うことはお店を任す人材って事?それってまた私は下っ端・・・。」
「そうする予定だったって事だ。まだその希望は捨ててはいないが、路線変更もやむをえないとオーナーも俺も思っている。特に店長経験者なんかは、この店の雰囲気を壊しかねないからな。苦労してここまでにした店を変えられたくはない。」
「と言うことは募集は白紙?」
「いや、あくまで副店長候補を募集する。但し経験は問わないことにした。しかしなれるかどうかはそいつ次第だ。そうすると誰かさんにもチャンスが残るしな。なあ、アドバンテージの大きな誰かさん?」
「へっ?私?そ・そ・そんな予定なんですか?」
「ああ、お前の成長を考慮に入れてなかったんだ。この半年の成長振りは俺も驚いた。オーナーに言えば喜んでくれるよ。但し残りの試験をパスできればだがな。」
「ああぁ、まだあるんですね、試験。」
「そうだな、抽出をあと何パターンかチェックした後、カップテスト・豆の知識・接客と続くが何か問題でもあるのか?今日全部やるわけじゃないがな。」
「見通しが暗くなってきました。私には荷が重過ぎますよ〜。」
「お前の得意な追試はやってやるから。ちょっと頑張ってみろ。そうでないと、またあの鼻持ちのならない奴らの面接を続けにゃならん。大きな店で働いてたからどうだってんだ。この店に合わせられなきゃ俺は一緒に働く気にはなれんよ。」
「応募者の皆さん、相当にプライドが高かったようですね。オーナー、胃に穴あけてないですか?」
「そんな心配より目の前の試験のほうが大事じゃないのか?そろそろ始めるぞ。今日中に抽出に関わる部分はやっちまうからな。」
「はいっ!頑張ります。」


 

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