2008年02月23日

◇別離の後のカプチーノ

久しぶりの冬晴れの空も夕闇に奪われてしまった時刻
キンと冷える外の空気とは対照的に窓辺の席の周りを暖かさが包んでいた。
だがそんなほっとする時間も長くは続かない。
男の腕時計が久しぶりの逢瀬の終焉をアラームで伝える。

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「そろそろ時間だな。君の元に帰ってくると時が飛ぶように流れていく。」
「ありがとう、いつも遠くから。今度は私が行きたいな。」
「まだ学生で、親元にいる君はそんなこと考えなくっていいよ。僕はこの往復さえも楽しいんだ。」
「私だってこの春からは社会人よ。あなたの元に行くのに障害なんてないわ。」
「ふ〜ん、僕を迎えに来るのに東北新幹線のホームで待っていてもかい?無理無理、一人でなんか来れっこないよ。」
「それは言わないで。ちゃんと調べたのに・・・。」
「いいんだよ。そういうこともあるかなって気をつけてたから、すぐ見つけられたし。」
「あ〜あ、いつまでも子ども扱い。」
「むくれるなよ。次に来られるのはコートを着なくなってからだ。また、前みたいに喧嘩別れしてそのまんまなんてのはこりごりだからね。君の笑顔で送り出してくれないか?」
「いいわ見ててね、次の時までに子ども扱いできないぐらいになっててみせるから。さあ、駅まで送るわ。」
「いいや、ここでいいよ。ズルズル付いてきて「東京駅から一人で帰れない」なんていわれても困るから。」
「そんなこと言わないわよ。どこまで子供・・・」
「ごめん、ほんとにもう限界、駅まで走るし乗り換えも走らなきゃなんないんだ。だからここで。」
「あっ、待って・・・。」



「なんだ、また泣いてんのか?カプチーノでも飲んで元気出せ。」
「ますた〜・・・。私、どうしたらいいかわからない。」
「なんだ、また喧嘩か?大丈夫だよ、何があったってあいつはお前にベタ惚れだ。帰り着いた頃に電話できついことを言ってやんな。絶対謝ってくるから。」
「違うの・・・喧嘩なんかじゃない・・・私の寂しさをわかってほしい。」
「何言ってんだ、わかっているから帰ってくるんじゃないか。おまえが寂しがっていなきゃ帰っちゃ来ないよ。それにあいつだってそうさ。お前に会いたいから帰って来るんだよ。」
「だって・・・。新幹線まで一緒に行って送り出したかったの。少しでも長く一緒にいたかった。でも彼はここでって・・・。」
「ふ〜ん、それでか。時間はかなり切迫していたな。こんなギリギリになるまでいるなんてそうとう離れ難かったんだよ。」
「でも・・・」
「まあ聞け。もし一緒に行くんだったらどうなる?多分1時間近く前にここを出ることになるだろう。電車は帰りのラッシュ時間、お前と荷物を気にしながら話もろくにできない。その上に出発のときにお前の泣き顔だ、あいつには辛すぎるんだよ。」
「・・・」
「ここでなら最後までゆっくり話しをして、泣き顔じゃないお前を見ながら出発できる。たとえお前がその後泣くことがわかっていても、帰らなければならない。ギリギリにするのは新幹線に乗るまでそのことを考えないようにするためさ。」
「それなら言ってくれればいいのに。」
「ば〜か、いえるかよ。大の大人が『別れ際が寂しいから』なんて口が裂けてもな。それにお前を寂しがらせている原因は自分にあるんだしな。」
「お仕事のせいってこと?」
「そうだな、一緒に来てくれとはまだまだ言えないんだよ。結果を出すまではな。この仕事の結果いかんによっては戻ってこられない可能性だってあるんだ。それにな、お前、第一希望の就職先に決まったんだろ?」
「はい、でも別に有名な会社じゃないし・・・。」
「せっかく新しい世界に踏み出そうって時に『こっちへ来い』は失礼だって言ってたよ。お前の就活を無駄にしちまうわけだし、選んでくれた会社にも迷惑がかかる。」
「そうね、彼ならそう言うでしょうね。私も4月から社会人になるんだし、もうちょっとしっかりしなきゃいけないわね。ちゃんと新しい世界を見て、彼と同じステージに立たなきゃいけないわね。そうでなきゃ彼の悩みを聞いてあげる事だってできないわね。」
「そうだな。あいつとしてもお前に新しい世界で納得するまで頑張ってみて欲しいんじゃないかな?望んで見つけた会社なんだろう?あいつが戻ってくるまでに今以上に魅力的な女に成長してやれ。」
「戻ってこればいつでも会えるようになるんだもんね。そうよね、寂しいのは今だけ。ちょっと我慢して頑張ろうかな。心強いマスターも居てくれることだし。」
「ああ、愚痴ぐらいならいつでも聞いてやる。頑張れよ。」
「ありがとう、マスター。それじゃあ家で彼からの『帰宅したよ』の連絡を待つことにします。ごちそうさま。カプチーノ美味しかった。しばらく続けようかな。」
「ミルクフォーマも新しくしたからいつでもいいぞ。またおいで。」
「うん!おやすみなさい。」


 

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☀| Comment(16) | TrackBack(1) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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