2008年03月05日

◇喫煙者たちの追憶

杉の花粉が舞い始めたようだ。
街を歩く人の装いにマスク姿が多く見られるようになった。
年度末も近くなって授業も少なくなってきたのか、店内にも制服姿の高校生が増えてきた午後のひと時。
カウンターの中で珈琲を淹れていたマスターが、突然水を入れたバケツを持ってフロアに飛び出してきた。
程なくフロアの奥からマスターの怒鳴り声が響いてくる。

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「やった〜!マスターのカミナリ。久しぶりだなぁ。」
「あ〜あ〜、煙草を箱ごとバケツに投げちゃったよ。この店のしきたりを知らないってのはかわいそうだね。部活の先輩とかに聞いてないのかな?制服着替える手間を惜しむんだったら煙草を取り出しちゃぁいけないよな。」
「マスター、前にもまして未成年の喫煙にはうるさくなったからな〜。」
「あっ、正座させてる!!信じられない。多分このあとトイレ掃除と表の掃除を言いつけられるんだろうな・・・。」
「昔、俺らもやらされたっけ。客なのになんでって思いながらな。」
「終わった後も説教だったよな、延々と。その後も店に来るたびに監視つきだった。世間は今なんかよりずっと寛容だったはずなのにな。」
「ああ、たまに制服のままカウンターから見えない席に座ろうもんなら飛んできて、カウンターから見える席に引きずっていかれたもんな。」
「まあ、そのおかげで家以外で吸うときには気をつけるようになったっけ。学校でも他でもみつかるようなヘマはしなかった。」
「そうだな、お互い飲酒喫煙の現場だけは押さえられなかったな。担任はいつも疑惑の目を向けていたようだったけど。」
「でも、当時のマスターの言い回しも変わってたぜ、『お前ら、誰にでも年齢のわかる制服で煙草を吸いたいんなら俺の責任範囲外で吸え。俺にはそこまでは面倒見る必要がないからな』なんていってた。」
「この店やマスターの見ている範囲内ではダメってことだろ。ほんとに当時は『っるせ〜な』と思ったこともあったな。」
「わざわざそんな言い方しなくてもいい筈だよな。『お前ら、未成年は喫煙禁止』と切り捨てても良かったんじゃないか?」
「まあな、帰って着替えてここまで戻って来るなんて面倒なことしてられないから、吸えないなら吸えないであきらめてたんだよな。そんな時は私服の高校が羨ましかった。」
「お前がそんな我慢をしてたのか?そんなもんとは無縁と思ってたのにな。」
「ああ、ここ好きだしさぁ、来れば誰かいたからな。いなきゃ待ってりゃ誰か現れる。あの頃随分ここに居続けたよな、好きなキリマンジャロ一杯で。でも、マスターは何であんな言い方をしてたんだ?」
「今になって思うと煙草に限るようなちっちゃいことじゃなかったんだと思えるんだ。喫煙に限定することで俺たちにもわかりやすくしてくれたんじゃないか?」
「というと?」
「言いかえれば『社会にはルールがある。守る気がない奴はここに来る必要はない。俺の責任の範囲内ではルール違反は禁止』って所だろ?まあ、これには但し書きが付いていて、『他人に迷惑を掛けるようなルール違反でなければ多少は大目には見てやるぞ』って言われてたんだってわかってきた。」
「それは深読みのし過ぎじゃないのかな。」
「お前もこの店に通って長いんだから気付けよ。マスターが怒るポイントってかなりはっきりしているんだぞ。」
「じゃあ今度マスターに直接聞いてみるか?」
「聞いたって口が裂けたって言わないよ。難しい問題を生徒に出して悦に入ってる数学教師みたいなんだから。」
「だよな〜。そういえばなんだか俺はいつも怒られている記憶しか残っていないんだが・・・?」
「お前は常識が無いからちょくちょくマスターの逆鱗に触れちまうんだ。俺はマスターが他の客やおね〜さんを怒っているのはよく見るけど、マスターの考え方にに気付いて以来自分が怒られたことはないよ。調子に乗って睨まれはするけどな。」
「俺なんか何度怒鳴られたことか。いい加減マスターも俺のアホさに気付けばいいのに。」
「その割にはこの店を敬遠しないな。Mっ気が出てきたとか。」
「馬鹿言え!そんなんじゃねえんだ。わかんねぇけどなんだか懐かしい感じがするんだよ。」
「そうだな、あんな風に自分の利害に関係なく他人を怒れる大人は、最近じゃあ余り見かけないな。ガキの頃は悪さやってあちこちのオヤジに怒鳴られてたけどな。」
「ほ〜ぉ、おまえにもそんな頃があったんだ。生まれてずっといい子の優等生のふりをやってきたのかと思ってたよ。」
「そんなわけねえだろ、まったく。人を何だと思ってんだ。」

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2008年03月11日

◇遅れてきた春一番

JR主要駅の放送から「受験生の皆様へ」という言葉が聞かれなくなってきた。
コートを羽織っていると満員電車の車内では蒸し暑く感じるようになっている。

今年の初めに「密談」をしていた二人が揃って顔を見せ、奥の席に入り込んだ。
あの日の帰る時の甘い雰囲気はどこへやら、今日は男の子の表情が厳しい。
女の子は顔を上げようとしない。
比較的若い常連たちがたむろする時間帯。固唾を呑んで二人を見守っている。

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「今日、変だよ。なんだか僕避けられてるみたいだ。昨日は久しぶりに会って喜んでくれたじゃないか。」
「ん、なんでもない。昨日はありがとう、わざわざ家の近くまで来てくれるなんて思ってなかったの。電話もらってびっくりしちゃった。」
「だから、今日はどうしたんだよ。地方の受験で何かあったの?」
「別に何も無いよ。受かっても行かないと思うし、親も許してくれないと思う。ごめんね、受験の日程がいろいろで会えない日が続いちゃって。昨日やっと終わったよ。昨夜は本当に久しぶりに会えて嬉しかった。」
「それなら今日の態度はなに?話しててもぼ〜っと他ごとを考えているようだったり、目を合わそうとしなかったり、さっきなんか握ろうとした手を引っ込めたでしょ?今日、僕何か気に入らないことした?卒業しちゃうから、もうおしまいって事なの?」
「ごめんね、そんな風にみえていたなんて・・・。違うの、誤解よ。卒業するからって遠くへ行くわけじゃない。そのつもりよ。今までみたいに毎日会うなんてことはできなくなるけど・・・。」
「それじゃあどうして?何だか気付かない僕が悪いみたいな気になって、凹みそうだ。」
「そうじゃないの、そうじゃ・・・。私・・・。」
「僕には相談できないことなんだ。ああ、頼りない弟分ですよ。好きにすればいいんだ。」
「そんな風に責めないで、お願い。あなたに相談しても仕方が無いことなの。私の問題だから・・・。お願い、少しだけ待って。」
「ふ〜ん、僕がどれだけ・・・。ううん、そんなことはもうどうでもいいよ。あのね、僕はあの日思い知ったんだ。君に涙なんか流させたのは自分のせいだって。中途半端で安穏と君に甘えていたからそんな顔を見なくちゃならなくなったんだって。君を抱えて運んだ時、気付いていたはずなんだ。すぐに自分から動けば、せめて文化祭辺りまでにきちんと話せてれば、二人の時間はもっとたくさん取れたんだ。だから・・・。」
「それはあなたが悪いだけじゃない。私だって"年上だから"って躊躇してた。そんなのはあなただけが負う事じゃない。」
「そして、この受験期間、集中してもらいたかったから二人だけの時間を減らした。つきあい始めてまだ1月しか経っていないのに。僕は君の邪魔になるのは嫌だったんだ。でも、それがいけなかったの?寂しい思いをさせた?」
「ううん、そうじゃない。電話だけだったけど試験前日には励ましてくれて、試験会場を出る頃にも連絡をくれた。それだけでずっと安心して試験に集中することができたの。だからあなたのせいじゃないの、解って。」
「でも結果的に君に不快感を与えたんだ。今日、君は僕を見ていない。もう二度と君を悲しませたくないって思っていたのに、また繰り返してる。」
「だから、誤解よ・・・。私は嬉しいの、解ってもらえるとは思わないけど本当よ。」
「もういい、避けられたってしょうがないね。でもね、一つだけ言っておくよ。君がどう思おうと関係ない。やっと手に入れたんだ、僕は手放す気はさらさらないよ。君が好きでしょうがないんだ。これからって時にあきらめるなんてできないよ。」
「・・・。痛っ?!」
「ダメだ、席を立たないで・・・ごめん、痛かった?あ、泣かないで、決心が鈍る。えっ?あっ?」
「胸元濡らしちゃうかも知れないけど、このまま聞いて。下を見ないで、恥ずかしいから。」
「うん、わかった。」
「あなたもそんなに寂しく感じていたんだってこと気付かなくってごめんね。でもね、あなたのせいじゃないのよ。」
「・・・。」
「昨夜あなたの顔を見たとき『私はこんなにも会える日を待ち焦がれていたんだ』って気付いたの。あなたが大好きなことを再認識したわ。そして今日、初のデートをする中学生みたいに心は弾んでいた。でも、同時にこんな風になっている自分に気付かれるのが恥ずかしかったの。これまでだってあなたのことが好きだった。でも自分がこれほどあなたに魅かれているなんて気付いてなかった。気付いて恥ずかしくなってたの。」
「・・・。だったら何故手を・・・。」
「手だけじゃ済まなくなりそうだったの・・・。あんな大通りでしがみついちゃいそうでちょっと恥ずかしくて・・・。ごめんなさい、へんな心配かけてしまって。」
「あの・・・、出よう。今度来たとき格好の獲物にはなるだろうけど、このまま晒し者になるよりはよっぽどいいよ。でも、安心した、嬉しいよ。さあ立って、先に出てて。会計してすぐに行くから。」
「うん、ありがとう。」


 

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2008年03月14日

◇手作りの年輪

バレンタインデーから一月が過ぎた。
世の男性諸氏が、そわそわしながらタイミングを計っている日。
今日のお店ではウエイトレスが上機嫌で仕事をしている。
バレンタインに配ったチョコレートにお返しがあり、喜んでいるのだ。
小さな紙包みでばかりではあるが、午前中だけでもかなりの量になっている。

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「マスター、随分頂いちゃったんだけど、いいのかなぁ。」
「何のことだ?」
「今日は何の日?覚えてないんですか?ホワイトデーですよ。お返しとか考えてなかったんですか?」
「ああ、そのことか。一杯配った義理チョコにお返しがあったのか。良かったな。」
「だって、チョコの費用出していただいちゃったじゃないですか。それなのに頂いたもの全部自分のものにしていいんですか?」
「お前が貰ったんだろう?好きにすればいいさ。お客さんはちゃんと来てくれてるわけだしな。」
「ありがとう、マスター。マスターは頂いた方にお返ししてるんですか?」
「ああ、数は少ないけどな。たいしたものでもない。」
「えっ?どんなの?見せて、見せて。」
「見せてやってもいいが、お前の分はないぞ。」
「ひっどーい。マスターには特別なのあげたじゃない、1日遅れだったけど。」
「忘れられるような存在なんだからな。お前の気持ちには答えられん。」
「あーん、忘れていたわけじゃないんですよ。義理チョコ買いすぎて手持ちが無くなっちゃっただけです。マスターに清算していただいてその足で買いに行ったじゃないですか。」
「そうだっけ?まあいい、そんなことは。ほら、これが今年のホワイトデーのお返しだ。」
「か、可愛いバウムクーヘン。ちっちゃいのにちゃんと年輪がある。こんなのどこで売ってるんですか?」
「馬鹿言え、俺の手作りだ。何年か前からボーイスカウトの連中のキャンプで普通のサイズのものを何回か作ってたんだ。このサイズは去年から挑戦していたんだが、やっとうまくできるようになったんでホワイトデーのお返しにしてみたんだ。」
「いいなぁ、私も欲しいな。ね〜マスタ〜。」
「ダメだ、数が足らないくらいなんだ。」
「なによ〜マスターのけちんぼ!!」

   * * *

「マスター、毎度〜。」
「おう、来たのか。カウンターでいいか?」
「あれ〜、ポスターとPOPはずしちゃったんだ。」
「ば、馬鹿、声が大きい。」
「えっ?一昨日、昨日と貼ってあった『ホワイトデーに愛の手のお手伝いを』って奴だよ?今日まで貼ってなきゃ意味ないじゃん。」
「今日はあいつがいるんだ、気付かれるだろ。」
「ああ、そうか〜。でも余計な誤解もされると思う・・・。」
「マ・ス・ター!裏にあったこのポスターとPOPなんですか?ヘンな時期に連休なんか頂いておかしいなとは思ってたんですけど。私のいない間にこんなことして・・・。」
「わ、悪かった、怒るなよ。」
「私のこと馬鹿にして・・・いいわよ・・・どうせ・・・」
「マスターは馬鹿にしてなんていないんですよ、お姐さん。」
「どうして?こんな悪戯ひどすぎる。いくら私が男の子に縁がないからって。」
「ほ〜らマスター、やっぱり悪者にされちゃった。悪戯じゃないんですって。お姐さんを喜ばせたかっただけですって。金が無いって渋る高校生にはお金渡して頼んでたんだよ。」
「だって・・・。」
「常連さんの中には、都合でバレンタインには来られなかったけど今日は必ず来るからって言う人だって居たんですよ。みんなお姐さんに感謝してるんです、だからマスターの企画に乗ってくれたんですよ。」
「そんなこと信じられない・・・。」
「じゃあ、マスターのところにある箱を見てください。あれは今日は来れないからって、わざわざその場で商店街まで行って買ってきて下った方の分ですよ。それを見ても信じられませんか?」
「嘘でしょ?まだこんなに?」
「マスターは口じゃきついことしか言わないけど、お姐さんが大事なんですって。僕も含めてお客さんたちもお姐さんが大好きなんです。解ってください。」
「あ・・・ありがとう・・・マスター、勘違いしちゃって、ごめんなさい。ちょっとお化粧直してきますね。」
「ああ、驚かせてすまなかったな。ゆっくりしてきていいぞ。」
 

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2008年03月22日

◇酔眠不覚暮

桜前線の足音が聞こえるほどになってきている。
しかし気温は前の月末まで逆戻りしたような週末を迎えようとしている。
強風に立ち向かうように上着の襟を立てて常連の大学生が商店街から足取りも重くたどり着いた。
扉を開けて一望したその顔が、不安から驚愕と安堵が入り混じったものに変わる・・・。

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「あ、あれ?やっと見つけたよ。どうしたのこんな時間にこんなところで?あ、マスター、ブレンドください。」
「N君こそ、今日は朝からサークルだって言ってなかったっけ?」
「何言ってんだよ。それは昨日。そういえば昨夜、留守電入れておいたのに聞いてないのか?」
「だって今日木曜日でしょ?約束は金曜のはずじゃ・・・?」
「はいっ?どうしたんだお前?今日は金曜日!ダチのライブ見に行く約束だろう?大丈夫か?」
「えぇ〜〜〜っ!!どうして?おかしいよ。木曜日の記憶がないよ?ひょっとして知らないうちに時間を飛び越えた?」
「何訳わかんないこと言ってるんだ。今晩は出かけたくないのか?」
「ううん、行くけど・・・。おっかしいな〜。気になるからちょっと思い出してみるね・・・。水曜日の夜は一緒だったのを覚えてる。」
「ああ、みんなで飲みに行って、店追い出されて、次の店に行ったのが11時過ぎかな。」
「そうよね、うん覚えてる。R君がよく行くって言ってたお店でしょ?で、あなたは12時ごろに『明日朝から一日中サークルに出なきゃいけない』って帰っちゃったのよね。」
「お前らに付き合ってたら結局朝になっちまうからな。あの後どうしたんだ?」
「1時半ごろ店を出ていつものカラオケに行ったの。T君・SちゃんのカップルとA君、Uちゃんと私の5人。私もあなたがいないから帰ろうかなって思ったんだけど、終電なんか終わっちゃってるしT君がかなり出来上がってヤバ目だし、Uちゃんは行く気満々だったんでしょうがなく・・・。A君の様子もちょっと気になって。」
「またか、アイツ酔いが廻るとすぐだからな。TがあてにならないからUさんのガーディアンとして残ったんだ。ご苦労なこった。」
「でもね、結局歌ってたのは女三人だけで、二人ともダウンしてたの。始発が動き出したからそれまで寝てた二人を起こして、会計押し付けて帰ってきたの。そこまでは覚えてる。」
「男は哀れすぎる・・・。俺は帰って正解だったんだな。それで?」
「軽くシャワー浴びて、濡れちゃった毛先も乾ききんないうちにベットで轟沈したはず・・・。」
「今日は何時ごろ起きたんだ?」
「お昼・・・。でもね4時間ぐらいしか寝てないのに快適に目が覚めたのよ。いつも睡眠不足のときはしばらくしないと食べられないのに、もうここでクラブハウスサンドなんか食べちゃった。美味しかったよ。」
「あ・・・アホか?おのれは。いい加減気付けよ。一昼夜も丸々寝やがって、睡眠不足もねぇだろうが。」
「えっ?どういうこと?今日は木曜日よね?」
「だから金曜だって!! 昨日は携帯にいくらかけても出やしないし、Uちゃんからは金曜の夜二人で遊ぶ約束したんだとか聞かされるし、今朝も繋がらないんで、お前んち寄ったらもぬけの殻。途方に暮れながらここまで来たんだぞ。」
「あっ、そっか〜。Uちゃんに明日はダメだったんだって電話しなきゃね。」
「いい加減今日が金曜だって認めろよ。心配してたんだぞ。」
「うん、・・・ごめん。心配かけたね。丸一日寝てたなんて照れくさくってさ〜。とぼけてみただけ。ちゃんと解ってるから大丈夫。さっきUちゃんにも謝っといた。」
「へっ、う・そ?いい加減にしろよ。」
「だってUちゃんに電話したら私んちに寄るって言ってたっていうから、絶対ここに寄るはずだと思って先に来てたの。」
「いい加減に・・・やれやれ、もういいや。午後一杯ここにいてそのまま出かけような。」
「ほんとに心配かけてごめんね。なんか食べる?おごるわよ。」
「それは夕飯にとっといてくれ。来がけに食べてきたんだ。」
「え〜っ!高くつくわね〜。じゃあ、入場直前に簡単なのでいいよね!あの傍にファーストフード一杯あるよね。」
「わかったわかった、本当に心配しても仕方ない奴だなぁ。」

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2008年03月25日

◆番外編 2.ドリップオン

お待たせしました。番外編に入って更新間隔がどんどん広まってしまっていますね、申し訳ございません。
実際、普段使用しない器具って、頭では構造・特性はわかっていても・・・という感じでネタにするまで踏み込みにくいようです。
そこで今回は、二人にプレゼントを贈っておきました。私が進物で頂いたものになります。うまく活用してくれるといいんですが・・・。

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「何だこれは〜?」
「あれっ?マスター知らないんですか?ドリップオン・タイプの珈琲ですよ。インスタントより高級感が出せるし、使用後に器具を洗うことなく済ませられるんで、安いこともあってかなり人気があるんです。」
「いやいや、すっごく説明的な科白はありがたいんだが大丈夫だ、俺だって知っている。そうじゃなく、俺はこれがここにある理由がわからないと言っているんだ。」
「それは・・・そうですね、珈琲専門店の講習会にはちょっと似つかわしくないですね。私、この珈琲嫌いなんです。苦味ばっかりで味がスカスカして。あっ、待ってください。メモがありますよ。」
「オーナーからか、なんだって?」
「『今回はこれで何とかしてみてください。面白い講習会になると思いますよ』ですって。どうします?」
「わかった、これをネタにしろって事か。あの野郎、ハードル上げやがって!『ネル布』を準備していたんだが、これはもう少し講習内容を練ろう。パックはかなりの数があるんだな。」
「はい、随分ありますよ。余ったら頂いていいですか?」
「お前、さっき嫌いだって言わなかったか?」
「美味しい淹れ方がわかればラッキー・・・、なんて。」
「まあいいさ。それじゃあ始めるか。」
「はい!それじゃあ行きますよ、『マスターと私のドキドキ・・・』」
「何だそりゃ?」
「一度ぐらいタイトル・コールをやってみたかっただけですよ〜だ。」
「もういい・・・、解ったから・・・。用意しろ。とにかく普通に淹れるとどうなるのか確認する。それとサーバの上に割り箸を二本準備。」
「へっ?サーバ?何するんですか?」
「普通にカップにセットすると最後にはこの袋が抽出液に浸るだろう。浸透圧の関係で逆流もありえるんでな、それを防ぐために高さのあるサーバで抽出しようって事だ。」
「拘りますね。」
「オーナーの指示はそういう意味と受け取ったんだがな。」
「マスターもオーナーも物好きですね。」
「暇だったら20個ほど開封して、中の粉を空き容器に移しておけ。あ、空けた抽出器は捨てるなよ。」
「何するんですか?」
「今回は途中で質問はなし。2度手間になるからな。実験のたびに説明してやる。」
「はい、解りました。あ、カップの分溢れますよ。」
「こうなるから説明を交えたくないんだ。よし、飲み比べよう。」
「しかし不味いですね・・・。味も素っ気もないです。微かに香りはありますが苦くて渋いだけでどちらもあまり差はないようですね。」
「豆の量が足らないな、少量で珈琲液の色を濃くするために焙煎度が高いものが使用されている。それに包装されてからの期間が随分あったな、こんなに粉が膨らまないとはひどすぎる。」
「それでも賞味期限にはまだまだ余裕がありますよ。」
「今日はこれを飲み続けるのか・・・拷問だな。どちらも大差ないからカップだけでいいな。次に移ろう。次のカップ2つ、それから集めた粉を準備。」
「2つ?私の分は必要ないですよ・・・。」
「馬鹿もん!この店で使用する抽出方法は大きく分けて二つあっただろう。どちらがより美味しく淹れられるかを試してみるんだ。」
「すいません・・・。準備できました。粉の量はどうしましょう。」
「その前に、この紙の上に一杯分の粉を広げてみろ。メッシュのチェックも欠かせないぞ。」
「はい。あれっ、マスター、全然均一じゃないですね。むしろ大から小まで取り揃えているみたい。」
「やっぱりな、そうじゃないかと思っていたんだ。どんな大きさのカップで使用されるか判らないのにパッケージには目安しか書いてない。大きなカップで抽出したらかなり薄くなってしまいそうだがそんな様子もない。」
「そっか〜、抽出に必要な時間が早いものから時間がかかるものまで入れておけば多くても少なくても濃さにそれほど影響が出ないということですね。」
「多分それが正解だろう。抽出にあまり時間をかけない俺の淹れ方でもエグ味が出ていたのはそのせいだ。」
「なるほど、一定以上美味しく淹れられなくする技術ですね。破砕粉だけでも篩いましょうか?」
「その方が美味しく淹れられそうだが今回は止めておこう。じゃあ抽出に戻るぞ。」
「はい、粉の量は店の流儀でいいですね。」
「そうだ、比較検証をするにはそれでなければな。しかし膨らまない。相当時間が経ってるな。」
「あまりおいしそうには見えませんね。アメリカンタイプで抽出しても真っ黒ですよ。」
「ひどいな、色もそうだが味も凄い。苦味だけで舌が痺れそうだ。」
「バランスが悪いですね。ペーパーフィルターだからでしょうか?」
「いや、抽出速度と粉の量だな。あんな小さなペーパーパックで抽出するんだ、時間がかかるだろう。それにあわせて調整してあるんだろうな。」
「ひょっとして粉を出したパックをとっておいたのは、うちの豆をあれで入れてみる気なんですか?」
「ああ、公平を期すためにな。ミディアムブレンドの粉を最初に入っていたのと同量入れといてくれ。2つな。」
「ううう・・・、まだ飲むんですか?この講習会の最初の頃よりひどい目にあっている気がします。」
「文句言うな、オープン前のときもこんなだったんだ。あの時は相手がオーナーだったが・・・。たまには自分の舌を鍛えるために、こんな実験もいいかもな。どうかな、味は?」
「さすがに飲めるようにはなっていますが、普通の抽出のほうは普段出ていないエグ味がありますね。アメリカンタイプのほうは逆に苦味が足りません。」
「やっぱりそうなるか・・・。これ以上は改善しづらいな。もう終わりにしよう。」
「やった〜、解放された〜。」
「残ったの持って帰るか?」
「止めときます。キャンプ用にスカウト君たちにプレゼントしたらどうですか?」
「その方が精神衛生上いいようだな。わかった、今度の会議のときにでも渡してやることにするよ。」
「マスタ〜、美味しい珈琲が一杯飲みたい。」
「俺もだ、すぐに淹れてやるからな。」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 珈琲抽出研修会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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