2008年03月11日

◇遅れてきた春一番

JR主要駅の放送から「受験生の皆様へ」という言葉が聞かれなくなってきた。
コートを羽織っていると満員電車の車内では蒸し暑く感じるようになっている。

今年の初めに「密談」をしていた二人が揃って顔を見せ、奥の席に入り込んだ。
あの日の帰る時の甘い雰囲気はどこへやら、今日は男の子の表情が厳しい。
女の子は顔を上げようとしない。
比較的若い常連たちがたむろする時間帯。固唾を呑んで二人を見守っている。

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「今日、変だよ。なんだか僕避けられてるみたいだ。昨日は久しぶりに会って喜んでくれたじゃないか。」
「ん、なんでもない。昨日はありがとう、わざわざ家の近くまで来てくれるなんて思ってなかったの。電話もらってびっくりしちゃった。」
「だから、今日はどうしたんだよ。地方の受験で何かあったの?」
「別に何も無いよ。受かっても行かないと思うし、親も許してくれないと思う。ごめんね、受験の日程がいろいろで会えない日が続いちゃって。昨日やっと終わったよ。昨夜は本当に久しぶりに会えて嬉しかった。」
「それなら今日の態度はなに?話しててもぼ〜っと他ごとを考えているようだったり、目を合わそうとしなかったり、さっきなんか握ろうとした手を引っ込めたでしょ?今日、僕何か気に入らないことした?卒業しちゃうから、もうおしまいって事なの?」
「ごめんね、そんな風にみえていたなんて・・・。違うの、誤解よ。卒業するからって遠くへ行くわけじゃない。そのつもりよ。今までみたいに毎日会うなんてことはできなくなるけど・・・。」
「それじゃあどうして?何だか気付かない僕が悪いみたいな気になって、凹みそうだ。」
「そうじゃないの、そうじゃ・・・。私・・・。」
「僕には相談できないことなんだ。ああ、頼りない弟分ですよ。好きにすればいいんだ。」
「そんな風に責めないで、お願い。あなたに相談しても仕方が無いことなの。私の問題だから・・・。お願い、少しだけ待って。」
「ふ〜ん、僕がどれだけ・・・。ううん、そんなことはもうどうでもいいよ。あのね、僕はあの日思い知ったんだ。君に涙なんか流させたのは自分のせいだって。中途半端で安穏と君に甘えていたからそんな顔を見なくちゃならなくなったんだって。君を抱えて運んだ時、気付いていたはずなんだ。すぐに自分から動けば、せめて文化祭辺りまでにきちんと話せてれば、二人の時間はもっとたくさん取れたんだ。だから・・・。」
「それはあなたが悪いだけじゃない。私だって"年上だから"って躊躇してた。そんなのはあなただけが負う事じゃない。」
「そして、この受験期間、集中してもらいたかったから二人だけの時間を減らした。つきあい始めてまだ1月しか経っていないのに。僕は君の邪魔になるのは嫌だったんだ。でも、それがいけなかったの?寂しい思いをさせた?」
「ううん、そうじゃない。電話だけだったけど試験前日には励ましてくれて、試験会場を出る頃にも連絡をくれた。それだけでずっと安心して試験に集中することができたの。だからあなたのせいじゃないの、解って。」
「でも結果的に君に不快感を与えたんだ。今日、君は僕を見ていない。もう二度と君を悲しませたくないって思っていたのに、また繰り返してる。」
「だから、誤解よ・・・。私は嬉しいの、解ってもらえるとは思わないけど本当よ。」
「もういい、避けられたってしょうがないね。でもね、一つだけ言っておくよ。君がどう思おうと関係ない。やっと手に入れたんだ、僕は手放す気はさらさらないよ。君が好きでしょうがないんだ。これからって時にあきらめるなんてできないよ。」
「・・・。痛っ?!」
「ダメだ、席を立たないで・・・ごめん、痛かった?あ、泣かないで、決心が鈍る。えっ?あっ?」
「胸元濡らしちゃうかも知れないけど、このまま聞いて。下を見ないで、恥ずかしいから。」
「うん、わかった。」
「あなたもそんなに寂しく感じていたんだってこと気付かなくってごめんね。でもね、あなたのせいじゃないのよ。」
「・・・。」
「昨夜あなたの顔を見たとき『私はこんなにも会える日を待ち焦がれていたんだ』って気付いたの。あなたが大好きなことを再認識したわ。そして今日、初のデートをする中学生みたいに心は弾んでいた。でも、同時にこんな風になっている自分に気付かれるのが恥ずかしかったの。これまでだってあなたのことが好きだった。でも自分がこれほどあなたに魅かれているなんて気付いてなかった。気付いて恥ずかしくなってたの。」
「・・・。だったら何故手を・・・。」
「手だけじゃ済まなくなりそうだったの・・・。あんな大通りでしがみついちゃいそうでちょっと恥ずかしくて・・・。ごめんなさい、へんな心配かけてしまって。」
「あの・・・、出よう。今度来たとき格好の獲物にはなるだろうけど、このまま晒し者になるよりはよっぽどいいよ。でも、安心した、嬉しいよ。さあ立って、先に出てて。会計してすぐに行くから。」
「うん、ありがとう。」


 

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☀| Comment(4) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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