2008年06月17日

▽改装中の訪問者 〜1から3へ・・・そして空気のように〜

改装前のお話。

5月の最後の1週間に入り、6月1日の新装開店を目指して店は臨時休業に入った。
工事の様子を見に来たマスターは、店の前で大きなバッグを抱えて呆然と立ち尽くしている女性がいることに気づいた。
近づくと見知った常連客の一人である。しばらくご無沙汰であったはずなので、改修工事のことが伝わっていなかったようだった。
マスターは作業員用にと持ってきたポットの珈琲がまだ残っているのを確認すると、彼女に声をかけた。

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「おい、どうしたんだ?こんなところで。」
「あら〜マスター、お久しぶり。今日はお休み?せっかく来たのに・・・。」
「おお、済まんな。1ヶ月ぐらい店内に貼紙して告知はしておいたんだがな。おまえ、周年記念のときからこっち来てなかっただろう。仕事が忙しかったのか?」
「そうなの。仕事中に近くまで来てはいたんだけど、なかなか時間取れなくって、商店街を通り過ぎるだけしかできなかったの。」
「それじゃあ、娘さんも寂しかったんじゃないか?」
「それは平気、保育園が終われば事務所に連れて来ているし、遠出する時は一緒に連れて行っちゃうから。」
「ちゃんとお母さんはしているんだな。それに免じて許してやるか。改装中だから何にもないが、家で淹れてきた珈琲でも飲むか、せっかくだから。」
「うん、頂く。でも改装っていきなりどうしたの?新人君も入ってお店に慣れてもらうほうがよかったんじゃない?」
「いやな、この店のレイアウトはもともとは1人でやってたんだが基本2人で最適に動かせる店なんだ。逆に3人になったおかげでお互いの動線が気になりだしてな。オーナーも『イメージチェンジも悪くないな』って言ってくれたんで改装に踏み切ることにしたんだ。」
「私の定位置はどうなるの?それから、まだ食べかけだったあのテーブルは?」
「お前の席はカウンターだから少し場所が変わるがちゃんとあるぞ。ただ、あそこに置いてあったクッションやぬいぐるみは処分した。新しい店の色合いには合わないからな。それとテーブル・・・いやバウムだが、固くなっちまってるから細かくしておいた。今度の店内は黒っぽいからな、あんな色のテーブルを残しておけないんだ。」
「なんだ・・・。でも、細かくしたってことはまだあるのよね?」
「ああ、ブランデー・シロップに漬けようかオレンジキュラソーがいいか迷っていたんだ。串に刺して炎で炙ってチョコレートフォンデュにしても美味しく食べられるぞ。」
「うわ〜美味しそうね。今度容器持ってくるから作っておいてね。」
「再オープンして1週間以内に来ないと常連たちの胃袋に消えるからな。」
「うん判った。ちょっと改装中の店内撮らせてもらっていい?」
「埃っぽいぞ。それでよければいいさ。ちょうど職人さんたちも昼休みでいないから邪魔にされることはないだろうからな。」
「ありがとう、マスター。途中って興味があるのよね。普段は完成品しか見れないじゃない。こんな機会でもないとなかなか満足するまでゆっくり見れないもの。」
「本業に生かそうって事か?そうだ、いろいろ廃材が出るから欲しければ取りに来い。いらなければスカウトキャンプの薪になるだけだからな。」
「判った、旦那と検討しておくね。必要なものがあったら連絡する。」
「とりあえず野営地に置かせてもらうことになっているから、取りに来るのはそっちになるからな。」
「大丈夫、場所さえ教えてもらえば勝手に行くから。小さいものならお姉の車で、おっきかったら軽トラがあるから。ありがとう気にかけてくれて。」
「入れ替えるグラスとかカップとかは既に予約済みだから。せめて前の店の思い出ぐらい欲しいかなって思ってな。」
「ううん、お店の内装が変わろうがマスターのお店でしょ?珈琲の香りとマスターの気配りが変わらなければ私は平気よ。ここが私の居場所であればそれでいいの。それじゃあそろそろお暇するわ。珈琲ご馳走様、開店日には必ず来るからね。」
「ああ、待ってるよ。」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☀| Comment(14) | TrackBack(0) | 珈琲店の常連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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