2008年07月01日

◇釣合わない二者択一

昼間の日照が期待できないためか、夜になると急激に気温が下がる。
蒸し暑い日中のままの服装では肌寒く感じてしまう。夏本番にはまだ遠い。

閉店近い店の奥まった席に先ほど到着した常連の男性が連れの女性と向かい合っている。
女性のほうは始めて訪れているらしくあれこれと店内を見回している。
二人の前にはコーヒーカップが二つ。女性のほうが先にカップを手に取る。

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「今、なんて言ったの?ごめん、他事考えていて目だけ君に向いていた。」
「ううん、いいわよ。ここのコーヒー美味しいのねって言っただけよ。こんな近所にこんないいお店が有るなんて知らなかったの。」
「あれっ?コーヒー大丈夫なんだっけ?確か以前にロイヤルミルクティーしか飲まないって聞いた覚えがあるけど。」
「ああ、あいつの前ではね。そう言っておけばお手軽に100円のコーヒーなんかを買ってこられる心配がないでしょう?アルコール以外の飲み物にはまるで無頓着なんだから。」
「確かにそうだね。ところで相談って何?ひょっとしてあいつのこと?」
「うん・・・、やっぱり以前には戻れないの。あの時も君に色々と迷惑をかけたんだけど、また話を聞いてもらえるかなって。」
「二人の共通の友人で、君を昔から知ってるのは僕ぐらいなのかな?女の子達の中にはまだ他にもいるよね。」
「女同士だと結局あいつのことまでは理解してもらえなくて、私への同情で終わっちゃうの。男側の論理も女の感情論もあわせて考えてくれる君だからどうしても頼っちゃうのね。負担じゃない?」
「ああ、平気さ。ほかならぬ君たちの事だもの、ずうっと心配してたんだ。頼りにされるだけでも嬉しいよ。」
「自分じゃこんなに心が狭いとは思ってなかった。あいつが後悔して、謝って来れば許してあげられると思ってた。でも、あいつと廊下ですれ違う時に急に固まってしまったり、手が触れそうになると勢いよく引っ込めてしまったりと体が過敏に反応するの。一緒に生活するなんてもうできそうにない。」
「そのうち元に戻れるさなんて悠長なことは言ってられない状況ってことだね。多分あいつも、そんな君の反応を直に感じて心が押しつぶされそうになっているだろうね。いまは自分がしたことへの後悔で一杯いっぱいだろうな。」
「別れた方がいいのかなって思っちゃう。子供がいない今なら自分たちの気持ちの整理だけで済むんだもん。」
「一番簡単な方法は最後までとっておいたほうがいいよ。忘れろってのは他人が簡単に言えることじゃないよね。また忘れないから次の一歩を良い方向に踏み出せる。理性では許してもいいと思っているならなおさらだ。問題は君の感情面なんだろ?しばらく実家に帰って気持ちの整理をしてみるのはどうなんだい?」
「仕事はどうするの?田舎からじゃ通えないわよ。」
「共働ってのは面倒なもんだな。男なら身一つで独身の友人の家に居候ってこともできるんだが、女性はそんなわけにもいかんからな。」
「あいつに話してみてくれない?私から直接出て行けなんて言ったら余計にこじれてしまいそうで・・・。私も一人でじっくり考えた方がいいみたいに思うの。」
「そうだね、別々に相手が本当に不要なのかをじっくり考えて見るほうがいい。あいつには僕から連絡してみるよ。あいつも参っていることだと思うし、冷却期間を持つことは可能だと思うよ。」
「ごめんね、いつも嫌な役ばっかりをお願いしてしまって。それじゃあお願い。それといいお店に連れて来てくれてありがとう。」
「ああ、ゆっくり考えるんだよ。結論を出すには早すぎると思うから。」
「それじゃあ・・・ね。」

「結局こんな役回りなんだな。彼女は知らないだろうけれど、知り合った頃にあいつと盛大な争奪戦を裏でやっていたんだ。」
「だからあいつが僕のところに来るのだけは勘弁だな。積もった鬱憤が爆発しちまいそうだ。」
「君に『別れて僕のところへ来い』と言えたらどれだけスッキリするかって思うよ。」
「でも君は最初からあいつとの関係修復を選んでいるんだ。別れるなんてとんでもない。僕の提案まで見越して相談に来ているんだよね。」
「自分の人の良さにあきれるなぁ。振っ切っちゃえばもっとドライに割り切れるんだろうけど・・・。」
「何をぶつぶつ独り言を言っているんだ?ほら、これでも飲んでスッキリしろ。」
「ああ、マスター。なんですこれは?」
「イタリアンロースト。ちょっとあまったもんでな。それよりさっきの美人、一人で帰して良かったのか?」
「友人の奥さんですよ。相談に乗ってただけですから。」
「ふ〜ん。お前のほうはまんざらでも無さそうな顔していたんで、口説いているのかと思っていたよ。」
「え〜っ?そうでしたかぁ。それじゃあ彼女にも気づかれてるよな。余計なこと言い出さなくて良かった。」
「ふ〜ん。そんなわけありの関係なんだな。可哀想に、早く別な彼女見つけたほうがいいぞ。深入りするとろくな目に合わんからな。」
「ええ、もうこの珈琲と一緒で苦味が身に沁みてます。」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☁| Comment(6) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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