2008年09月26日

◇伯母さんの残した器具

雨が上がり、空はすっかり秋の装いになっている。
朝夕は上着が欲しくなるほど気温が下がり、テレビでは黄金の頭を垂らせた田んぼの風景が使われる事が多くなった。

商店街から風呂敷に包んだ物を抱えた常連の高校生がやってくる。
風呂敷の中身は小さいが、ずいぶん重量感がある。下げて歩くわけにはいかないようだ。

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「マスター、こんな器具を伯父さんからもらったんだけど、使い方を教えてもらえる?」
「ん?マキネッタか。イタリアの家庭用の一般的な珈琲抽出器具だ。何でまたこんなものを貰うことになったんだ?」
「うん、伯母さんが亡くなってそろそろ半年になるんだけど、伯父さんやっと遺品の整理を始めたんだって。そしたらこれが出てきたんだけど、今ではペーパードリップばっかりだから面倒でもう使わないって言うんで物好きな僕のところに持ってきてくれたんだ。」
「その亡くなった伯母さんっていう方はこいつをどの位使っていらっしゃったんだ?」
「結婚してしばらくしてから買ったはずだからもう25年位じゃないかな。たしか結婚後初めての海外旅行でイタリアに行って、エスプレッソの美味しさに感動して現地で手に入れてきたって聞いたことがあるよ。」
「ずいぶん使い込んである代物だな。これなら店にあるマキネッタよりずっと美味しいエスプレッソが出せるな。」
「マスター、そいつで1度淹れてみてもらえませんか?」
「ああ、構わないよ。淹れ方はその場で見て覚えるんだぞ。ただし、豆はこれしかないから、伯母さんが淹れてくれた物とは味が違っても文句は言うなよ。」
「解ってますって。」

「ああ、美味しい。懐かしい味がする。生前の伯母さんが淹れてくれたのにそっくりだ。」
「伯母さん、大切に使ってこられたんだな。こんなにふくよかな味が出せるマキネッタはお前にはもったいないよ。頂いた伯父さんにこれで珈琲を淹れてあげて、ちゃんと大切に使って貰えるように返してこい。」
「そうだね、伯母さんの大切な思い出を僕なんかが持っているべきじゃないよね。」
「ああ、だが返す前にしばらく貸しておいてくれないか?」
「えっ?どうして?マスターも持っているでしょう?」
「理由は次回わかるよ。」
「意味ありげなエンディングだね。いいよ、伯父さんは僕にくれたつもりなんだから。」


 

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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