2008年10月21日

◇男の子の宝物

枯葉が風に舞うようになって、1日が短かく感じられるようになった。
日中の陽射しはまだ十分暖かく感じるのだが、陽が傾くと途端に冷気が勝ってくる。

店の奥では若い男性と常連の奥さんが書類を前にして話し込んでいる。一緒についてきた幼稚園の年長ぐらいの男の子は小さな手提げのカバンを持ってウエイトレスに纏わりついている。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「おねーちゃん、おねーちゃん。ほら、これが僕の宝物だよ。」
「なんだろう・・・?きゃっ!なあに、これは?」
「う〜ん、なんだっけ・・・。夏にお父さんがくれたんだ。もっとあったんだけどカラカラだから握った時につぶしちゃったんだ。だからいまはこれだけしかないんだよ。あっ、そうだ、子供の頃のお洋服だって言ってた。大人になるときに脱いじゃうんだって。いつもうるさく鳴いてた虫のなんだって。怪獣の子供みたいでしょ。」
「ああ、わかった!蝉の抜け殻なんだ。脱ぐところ見てた?」
「ううん、僕が寝ちゃってからなんだってお父さんは言ってたよ。これは近くの公園でお父さんと集めたんだ。」
「ふ〜ん、お父さんとお散歩にいったんだ。優しいお父さんだね。いつも一緒にいくのかな?」
「ううん、いつもはお母さんと一緒だよ。お父さんはね、お休みの日だけ。3人で出かけるんだよ。」
「そっか〜、いいね〜。あ、そうそう、ここにうさぎさんがあるから食べる?」
「えっ?うさぎさん?…あぁ〜!りんごのうさぎさんだ!!」
「りんごは好きかな?美味しいよ。」
「いいの?いただきま〜す。あ、そうだ宝物を触ったから手を洗わなきゃお母さんに怒られちゃうよ。おねーちゃん、ちょっと待っててね。」
「いいわよ、トイレの場所はわかるわね。」

「済みません、うちの息子がお仕事のお邪魔をしてしまって。おかげで打ち合わせがすんなり済みました。有り難うございます。」
「いいえ、とんでもない。賢いお子さんですね。きちんと会話もできるし、食べる前にちゃんと手を洗いにいけるなんて。」
「幼稚園でうるさく言われているんですよ。うちではあんまり言ったことはないんです。どうしても仕事があると細かい所まで気にしてられなくって。」
「いい子ですよ。ちゃんとお母さんの邪魔をしないようにこっちで遊んでいるんですもの。大人の仲に自分がいるといけない場面がきちんとわかっているんです。賢いですよ。」
「そんな風に言っていただけるととっても嬉しいわ。でも、あの子に寂しい思いをさせているのは事実なのよね。」
「子供って親の仕事ってよく見てますよ。直接は何をしているのかわからなくても、集中して仕事に没頭している姿は子供のいいお手本になると思います。」
「そうだといいんですけどね。うちじゃあもっと甘ったれなんですよ。」
「あの位の男の子はそれがいいんですよ。かわいいじゃないですか。外では精一杯背伸びしているんですね。いいなあ。」
「あなたも早くいい人見つけて…ねっ。ここにはいっぱい先輩がいるからね。あ、終わった?手は拭いてきたのかな?ようしそれじゃあ帰ろうか?」
「うん、マ…お、お母さん。おうちへ帰ろうよ。テレビ見たいな。」
「じゃあスーパーによってアイスも買って帰ろう。マスター、ご馳走さまでした。」
「おねーさん、ばいば〜い。」
「うん、またね〜。」


 

続きを読む


posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☁| Comment(6) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。