2008年10月26日

◇兄と弟

秋風は次第に冬の色を纏い始めた。
北風に剥ぎ取られた枯葉が店の前を飛び去っていく。

背の高い、と言ってバランスが悪くない均整の取れた広い背中の後ろ姿を持った学生が二人連れだって店に入って行った。
カウンター席についた二人はマスターの手が空くのを見計らって声をかけた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「マスター、久しぶりなんでスター選手を連れてやってきたよ。ほら、お前も挨拶しろ。」
「初めまして、弟です。兄に聞かされていたより全然シックなお店ですね。」
「おお、嬉しいことをいってくれる。兄さんより出来はよさそうだな。それともスタープレーヤーとして身に着けたソツのなさかな?」
「そんな・・・、僕がいいプレーを出来るのはチームのみんなのおかげですから。」
「そりゃあそうさ、ラインの連中がいなかったら走路は開かないんだからな。」
「俺は先シーズンからの兄貴のプレーが気に入ってたんだがな。」
「えっ?マスター、兄貴の凄さがわかってくれてるんですか。いや〜嬉しいなぁ。いつも地味なプレーが多いんですけど、それがなければ僕はあれほど走れなかったんですから。」
「そんなことはないさ、お前の力は本物さ。自分はそのアシストをしているに過ぎないよ。」
「俺はな、弟の出ていない時のお前のプレーが好きなんだ。チームオーダーがあって余り好きにはできないんだろうが、自由にやらせてもらっている時のお前の動きは普段とは違う、相手のディフェンスを翻弄させるようなトリックをきちんと仕掛けてくる。見ていると次に何が起こるかわからないおもしろさがあるんだ。」
「マスター、それは買いかぶり過ぎですって。自分は高校時代はディフェンスもやってたんでやつらがどう動きたいのかが見えるときがあるんです。そんな時のためにこいつがいない時のユニットのメンバーに話を通してあるんです。連中も面白がって手伝ってくれますよ。」
「ああ〜っ!そんな面白いことしてたんだ、兄貴!混ぜてくれたっていいのに。」
「お前が出ている時にやっても意味がないんだよ。」
「そうだな、いつも影のような兄貴が派手なプレーを仕掛けてくるんだ、相手は驚くだろ。コーチはどう言ってるんだ?」
「好きにやれって言ってくれますよ。その代わりコーチが許可した時だけって限定ですけどね。」
「どうしても弟がもてはやされてるから多少の鬱屈はあるのかと思っていたが、思い過ごしのようだな。きちんと自分の役割を理解してるし、自分のアピールも忘れていない。こいつが鳴り物入りで入学してくるまでのお前からは随分成長したんだな。」
「こいつにだけは負けたくなかったんですよ。でも立場が違うのに同じ土俵で比較しても意味がないでしょう。だから、こいつが『凄い』ってわかるプレーを常にできるようになれれば良いかなって思うようになったんです。」
「兄貴〜、大人じゃん!やっぱ僕は兄貴の背中を追ってきて良かったって思いますよ。」
「自分は今シーズンで次のステージに向かう事になる。2年後、敵同士でぶつかれるといいな。」
「お、社会人でもやるんだな。お互いのチームが頑張ればもっと早く相見えることも無いとは言えんぞ。」
「そんな凄いチームが自分を欲しがってくれれば良いんですがね。」
「それは今戦っているこのシーズンの成果に掛かっているんじゃないのか。頑張れよ。」
「はい、これからも見てて下さいね。」
「僕もガンガン走りまくりますよ。応援してくださいね。」


 

続きを読む


posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☁| Comment(6) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。