2008年11月17日

◇忙しさの中で

風向きが北に変わった。冷たい風が店の前を吹き抜けていく。
灰色の空からは冷たい雨が今にも落ちてきそうだった。

近くにある区民館の帰り客なのか、突然に混み始めた店内でウエイターの姿があちらこちらと動き回っているのが見て取れる。
ウエイトレスはカウンターのなかで、洗い場とマスターの補助をしているようだ。

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「なにボ〜ッとしてるんだ?次の豆挽き終わったのか?…おいっ!これじゃあ3杯分もあるじゃないか!オーダーは1杯だぞ。何聞いてるんだ!」
「す…済みません。ハァ…」
「お姐さん、灰皿大至急でお願いします。それとミルクピッチャーも足りなくなりそうです。」
「えっ?タバコとライター?…??」
「お姐さん、しっかりしてください。灰皿とピッチャーです。」
「あ、はいはい。灰皿ね。今洗うから。」
「おい、流しの中をよく見ろ!冷タンがまだ残ってるだろ。何やってんだ、いつものお前らしくないぞ。」
「いえ、その…済みません…。」
「ああ、もういい!今日は上がれ!!居るだけ邪魔だ!さっさと帰れ!」
「マスター、それは…。休憩すれば大丈夫ですよね、お姐さん。」
「四の五の言わんでいい。後はお前が頑張ればいいだけだ。ほら、行った行った。」
「済みません、お先に失礼します。」
「お疲れさま〜。…マスター、キツすぎないですか?こんなに急に混んでこなければどうってことなかったんですから。」
「ダメなのは理由があるんだ。とにかくこの波さえ乗り切れば後は普通に戻るだろ。頑張ってくれ。」
「はい、洗い場入って大丈夫ですね。」
「そんな判断は自分でしろ!とにかくお客を第一に考えて動け。」
「解りました。」

*******

「やっと落ち着いたな。ちょっと受話器をとってくれ。」
「こんな時間にどこに電話ですか?仕入れの電話は午前中にしてましたよね?」
「こんな状況にした原因を作った奴に文句を言ってやるんだ。」
「はあ?お姐さんに追い討ちするんですか?」
「バ〜カ、あいつじゃねえよ。あいつが呆ける原因って言ったら今は一つしかない。」
「???」
「もしもし、ああ俺だ。てめえ何しやがった。あいつはボケきって使い物にならんぞ。」
「……」
「はあ?なんだか解らない?いい加減なこと言ってるとお前だからって容赦しねえからな。」
「……」
「何だって?お店から飛び出して一人で帰った?どうして?」
「……」
「プレゼントの指輪を買うために一緒に店にいって、どれがいいか合わせてもらってた?お前まさかあいつの経済観念を忘れてないか?いくらぐらいのを見立ててたんだ?」
「……」
「馬鹿野郎!それじゃああいつは自分のためのものなんて思うわけなかろうが。気づかなかったのか?去年のクリスマスに贈ったペンダント。今も出かけるときだけに大事そうに付けてるぞ。」
「……」
「どうしたらいいかって?自分で考えろ!もう今日は上がらせたからな。明日もあいつがこんな調子だったらどうするかみてろ。いいな、何とかしろよ!」

 
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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 🌁| Comment(2) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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