2008年11月25日

◇浮かれた土産

小春日和が続いた3連休の最終日。
商店街は年末の催しに向けて準備が進んでいる。
暖かかった陽の光が翳ると風の冷たさが一段と感じられるようになる。

大きめのボストンバッグを抱えるように持った女性が、コートの襟を立て寒そうにはしているが心はうきうきしている様子がよく判る軽やかなステップでやってきた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「マスター、ただいま〜。はい、お土産!」
「いらっしゃい、今日はなんだか浮かれてるな?いったいどうした?」
「うふふっ・・・!」
「なんだなんだ、隠し事か?どうせ連休を利用してあいつのところへ行って来たんだろ?」
「ええ〜っ!どうしてわかっちゃったの?」
「あのなぁ、お前がそんなうきうきした顔をするのは奴がらみの時だけだ。それにこの土産、名物で有名だろ?自分から言い出すのは恥ずかしいから、でも聞いて欲しいってのが見え見えだぞ。」
「ちぇ〜っ!マスターにはばればれなんですね。これからは正直に話すことにします。」
「いったいなんでそんなに浮かれてるんだ?久しぶりにあいつに会ったのはわかるが・・・。」
「聞いて聞いて!今回ね、彼に内緒で新幹線や宿、向こうでの車の手配も全部自分でやったの。ちゃ〜んと行って帰ってこれたのよ、すごい進歩でしょ?」
「これで大学卒業して、ちゃんと就職できたんだから驚くよな。そんなことは学生のころに普通にやることだろうが?」
「だって〜、機会がなかったんだもん。1年の後半から彼とつき合い始めたでしょう。それからはどこかへ行ったりするときは全部彼が段取ってくれたんだもん。それが普通になっちゃってたの。」
「女同士の旅行だって行ったんだろ?あいつが所在無げに朝から晩までこの店に居つづけたことがあったっけな。」
「宿は他の子が手配してくれたし、乗り物だって食事だってみんなについていけば良かったんだもん。やったのはお会計ぐらいだったかしら。」
「得意な物は人それぞれだからな。それで今回は自分で全部やってみたって訳だ。ふ〜ん、どうだった?」
「ネットで全部済ませちゃったから大して手間もなくできちゃった。電話一本することもなく済んじゃって何だか拍子抜けだったわ。」
「まあ、奴の居るのは都会だからホテルも大手があるし、新幹線だけで済むからな。これが地方の名所旧跡や美味いもののための旅行だとそうはいかないぞ。でも、あいつビックリしてただろ。」
「うん、早い時間に電話して近くに居るって言ったら慌てて迎えにきてくれたの、今までに見たことないようなめちゃくちゃな格好のまま。無精髭だらけの彼の顔なんて初めてだったわ。」
「あいつの慌てようは相当だったようだな。いつも見かけるあいつは隙なんて見せないようなところがあるからな。楽しく過ごしてきたんだな。頑張って会いに行った甲斐があったな。」
「ええ、あちこちお出掛けして、彼の部屋も見ることができたんで大満足です。欲を言えばもう少し彼のところに長く居たかったなぁなんて…。」
「あ〜あ〜惚気はいいから。今日のところは何にするんだ?」
「楽しかったんだけど美味しい珈琲だけは飲めなかったの。マスターのお薦めがいいわ、今日は何かしら?」
「丁度サンタ・テレサが入荷してるぞ。あいつの好きな『高い芳香』に特徴のある種類の高級品だ。おまえの好みに合わせて軽めに淹れてやろう。」
「まあ、また彼を羨ましがらすことができるわ。近くに美味しい珈琲が飲めるところが無いってボヤいてましたから。」
「それじゃあ定期的に豆を送ってやるんだな。おまえが飲んで気に入った物をな。そうすればあいつは二重に美味しい思いを続けることができる。」
「そうですね、またマスターの手をお借りしなきゃいけませんけど、やってみます。」
「いいさ、店の売上にもなるんだからな。」

続きを読む


posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☔| Comment(8) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。