2009年05月23日

◇新たな訪問者

隣の花壇に紫色の変わった花弁を持つ花が咲いている。セイヨウオダマキというそうだ。キツネノテブクロと共にこの時期はインパクトのある花ばかり育てているようだ。

この季節には不似合いな、襟の立ったウインドブレーカーに細いデニム、ベースボールキャップを目深くかぶり、それに大きなレンズの濃いサングラスといかにもな格好で訪れた客は一番奥のボックス席に落ち着いた。

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「ねえ、マスター。あの、隅に座った男性、どこかで見たことがある気がするんだけど。」
「あぁん?・・・ふ〜ん、まあ誰だっていいさ、この店にいる限りは俺の客だ。くつろいでもらえているんならそれでいい。」
「何よマスター気付いてたんなら教えてくれてもいいじゃない。」
「客に直接接しているのはお前だろ、気付かん方がどうかしてるだろ。」
「でも、この店の場所って有名人がふらっと来るようなところじゃないですよね。まさかこの近辺に住んでるのかしら?」
「そんな詮索はしなくて良し!それより帰る客に注意しとけよ。店を出たところで携帯で連絡するような奴が出始めたらお前にフロアを任せておけなくなるからな。」
「へっ?・・・あの・・・?」
「いいから会計後の客の動向にだけは気をつけておけ。」

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「マスター、先日はありがとうございました。おかげでこの店の中で大騒ぎにならなくて済みました。」
「別にいいさ。俺は店の前に準備中の札を掛けてきただけだ。会計を済ました客がどこから帰ろうが感知しないさ。それよりマネージャーの車、うまく入れたか?」
「大丈夫でした。彼の運転は堅実ですから。それより、聞いていたとおりのお店でしたから安心しちゃいました。」
「聞いていた?誰だ?そっち方面にうちの常連はいないと思ってたが。」
「先日スタジオでエンジニアのA君が教えてくれたんですよ。落ち着いて静かに過ごせる珈琲の美味しい店を探しているって聞いたら即答だったんです。」
「ふ〜ん、Aっていうと・・・ああ、中学の頃からスタジオに出入りしていたあいつか。ふ〜ん、今じゃそんなことをしているのか。」
「あの子が、客バレしたってマスターの眼がある限り店内で騒ぎになることは絶対無いって言い切ってくれたんで来てみたんです。本当にいい店に出会えました。」
「ほう、あいつわかってんじゃねえか。それよりお前さん、珈琲の好みは?」
「苦味より酸味の方が好きですね。喉に通りがいいのがすきですが。」
「ふ〜ん、今時の若い奴らみたいにエスプレッソのアレンジ最高!なんて安っぽいことは言わないんだな。感心感心。」
「当たり前ですよ。僕だってデビュー前は地方の珈琲ショップでバイトしてたこともあるんですよ。家ではドリップで淹れてます。」
「わははっ、面白い奴だな。まあいい、これからもここに来る時は変装なんて面倒なことはしなくていいぞ。それなりの対応はきちんとしてやる。電話してくれれば裏口からの入店も認めてやるからな。ま、この店でできることって言えばこれ位だがな。」
「充分ですよ。少しの時間でも、落ち着いて珈琲の香りに包まれていればリフレッシュできます。」
「ただなぁ、問題点が一つだけ残っているんだ。今日のところは公休だが、前に来たときにウエイトレスがいただろう?あいつがミーハーなんだ。それだけは心に留めといてくれ。あいつにだけは俺の睨みは効かんからな。」
「ああ、あの可愛いお姐さんですか?いいですよそれぐらいは。」
「か、可愛い?やっぱりお前も変人のようだな。口が裂けても直接そんなことを聞かせるんじゃないぞ。これ以上つけあがったら俺の店じゃなくなっちまうからな。」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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