2009年08月05日

◇暗闇の接近遭遇

学校が夏休みに入り若い常連の姿を見かけることが少なくなった。

太平洋高気圧が力不足なのか、梅雨が明けきらず暑くなったり涼しかったりを繰り返している。
ただ、アブラゼミの耳に障る泣き声だけは輪唱のように始まった。

暑い日が続いた昨夜、納涼と銘をうった飲み会が従業員の間で行われたらしい。
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「マスター、おはようございます!!」
「ああ、夕べは遅くなっちまったのに早くから大変だったな。暑かったろう?」
「これぐらいは全然平気ですよ。あれっ、坊やは?・・・出前ですか?」
「毎度の定期便だ。今日は少々量が多かったんで時間がかかっているんだろうな。」
「そうそう、そういえば夕べの帰り、大変だったんですよぉ。」
「お前なんかにちょっかい掛ける奇特な痴漢なんかがいたか?」
「うんうん、もっと若くって可愛らしいお嬢さんを狙えばいいい・・・って、違〜〜う!!」
「トウがたった美しさの少ないお姐さん、いったい何があったのかな?」
「そんな上げ足のとり方って・・・。本当にびっくりして、自転車でこけそうになったんだから。」
「おっ、早々に軌道修正してきたな。これ以上この話題は傷つく一方と気付いたのか。しかし、自転車だって飲酒運転には変わらないんだぞ。お巡りさんに止められたら高額な罰金が待っているから気をつけるんだな。」
「その件は脇に置いといてください。駅西の飲み屋街の裏道があるでしょう?」
「ああ、夕べの店の2本だか先にある通りだな。あんな薄暗いところを普段から通るのか?」
「近道だし、人通りが少ないんで自転車には都合が良いんです。」
「そんなところを通るから痴漢なんぞに間違って襲われるんだ。」
「だから違います!!そこに話を戻さないでください。放置自転車とゴミ箱くらいしかないと思っていたら、突然暗がりで黒い影が動いて何かうめいていたんです。」
「やっぱりそんな話じゃねえか。」
「黙って聞いてください。私はびっくりして自転車を停めてライトを向けてみたんです。そうしたら光の中に血がこびりついた顔が浮かび上がったんです。」
「ちょっと常連の連中には聞かせられん類の話になってきたようだな・・・。」
「ううん、ちょっと違うと思う。こっちを向いたところを良く見たら、見慣れた顔だったんです。」
「おいおい、穏やかじゃないな。誰だったんだ?」
「ほら、歳がいったお湯割りアメリカンのSさん。頭から血が流れてすっごく怖い顔に見えたの。」
「あんまり暗がりで合わせたくない顔ではあるが・・・。どうしたんだ?ガキどもに狩られたのか?金持ってそうには見えんが・・・。」
「見知った顔だし、そのまま放っておくわけにもいかなかったから助け起こして事情を聞いたら、パチンコ帰りに一杯引っ掛けて自転車でごみ置き場に突っ込んだんですって。しばらく気を失っていたみたいで、光が当たったのが判ったらしく、誰でも良いから助けを求めたんですって。」
「いい歳して酔っ払って自転車なんかに乗るなってんだ。」
「その後ご自宅の電話を聞いて迎えを呼んであげたり、頭を打っているようだから救急車を呼んだりして一騒ぎだったんです。」
「面倒見のいいやつだなぁ。Sさんは大丈夫だったのか?」
「さあ・・・、娘さんが救急車より先に来てくれたので、後はお願いして帰っちゃいました。」
「まあ、そんなもんか。また元気に来てくれると良いな。」
「そうですね。骨折とかはなかったと思うんで、すぐまたパチンコしに出てくるんじゃないかな。」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☀| Comment(4) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月24日

◇遠く離れて

夏らしい気候が続いていたところに台風接近の情報が・・・。

窓辺の席で時折雨が滝のように落ちてくる空を見上げ、恨めしそうにしているお客の顔がある。足止めされてこの後の約束にでも間に合わなくなっているのだろうか。

雨の中いかにも嬉しげに女性がやってきた。遠距離恋愛中の例の彼女だった。なにかいい事があったのだろうか・・・。
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「マスター、お久し振りですっ!!」
「おおっ?本当に久し振りだな。その様子なら仕事の方は順調のようだな。一人で来るって事はまだあいつは帰って来ちゃいないようだな。」
「ええ、電話ばっかりで顔忘れちゃいそう。」
「最近の携帯はテレビ電話の機能もあるだろうが・・・。来た早々からお惚気かよ。」
「えっへへへ・・・。全然逢ってないのは本当だよ。彼は忙しくって帰ってくる暇も作れないし、私は私で任された仕事が面白くって、あっちまで行けないの。」
「ふ〜ん、それでも大丈夫って事は本物なんだな。安心したよ。お前だったら仕事のできる上司や優しい先輩に囲まれていると誘いも多いだろうからな。ついフラフラっと寂しい心の隙に入り込まれたりするからな。」
「そんなのしょっちゅうですよ。なんだかんだで毎週末飲みに誘われてます。どうしたって女性はそんなに多くないですからね。」
「そんなんじゃなくって、個人的に声かけられないかって事さ。」
「それもありますよ。大概は丁重にお断りするんですけど、断りきれないときは同僚の女性に同行してもらうようにしてるんです。」
「なかなか隙は無いようだな。感心感心。」
「でもね、先日の飲み会にすっごい格好いい男性がいたんですよ!別の部署で、普段の打ち上げなんかでは他のクライアントの関係でいつも出られなかったみたいなんですけど、初めて一緒になったんです。」
「おいおい、穏やかじゃないな。奴よりいい男か?」
「そりゃあ当然!それでなきゃわざわざ『いい男』なんて言いませんよ。」
「てぇことは、相手がその気になったら遠くに居る奴には勝ち目なしってことかな。可哀想に・・・。」
「何言ってんですか、もう。いくら『いい男』だって仕事が出来たって『彼』は別格なんです。それに・・・。」
「それに何だ?妻帯者だってか?そんなことはあまり関係ないと思うがな・・・。」
「いいえ、そんなんじゃなくって・・・。駄目なんです、ああいう人、生理的に。」
「格好いいんじゃなかったのか?」
「ええ、見た目には。でも、なんだか見ていて無理って思っちゃうタイプなんです。特に食事の食べ方が駄目。一緒に食事なんか出来ないって思っちゃった。」
「良かったよかった、波風立たなくて。奴から連絡があったらどうごまかすか困るところだったぞ。まあ、ちょっとぐらい脅かしてやってもいいかもしれんがな。」
「私は彼のことしか眼中にありませんよ〜。仕事が忙しいのはいいことじゃないですか。認められて任されて、成長して帰ってくるんですよ。私だってそれに見合うようにならなきゃって思える。そうだ、思い出した。来年度はひょっとしたら帰れるかもって言ってたんだった。マスターにも伝えておいてくれって頼まれてたんだった、御免なさい。」
「いや・・・謝られても・・・。来年度って次の4月か?まだまだ先の話だな。それに未確定情報だろ?はっきりしたら教えてくれ。帰ったらまたご馳走してやるから。」
「はい、約束ですよ!多分飢えて帰ってきますからね。特別な豆を選んであげてくださいね。」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☀| Comment(6) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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