2008年06月26日

▽西からのスパイ 〜お土産は紅葉饅頭〜

梅雨明けの声が南西の島々で聞こえ始めたが、東京はまだまだ先になりそうで、今日も厚い雲が空を覆っている。
地図とメモをそれぞれの片手に持った二人組みの女性が商店街の角からやってきた。この辺には不案内なのか、電柱に掲示された地名板と手持ちのメモを見比べながら、得心したように店のドアを開け、空いた席に着く。片方の女性は店内を見回し、メニューを隅からすみまで確かめるように眺めている。
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「なあなあ、せっかく東京にでて来たのに、行きたいところってここなん?」
「うん、表参道やお台場じゃなくってごめんね。でも今回の上京の目的のひとつなの。しばらく付き合ってね。」
「ここまで来て何も飲まんで店を出る訳にゃぁいかんからしょうがないやねぇ。何か特別美味しいもんでもあるんかしら?お目当ちゃぁなあに?」
「さあ・・・。以前この店に時々通ってた人が転勤で広島に来てうちの店に来てくれているんだけど、お勧めは聞いてないのよ。」
「じゃあ何しにここまできたん?」
「あんまり味にはこだわらないお客さんなんだけど、この店に来れなくなった事が一番寂しいって何度も言うのよ。それでお店の従業員としては気になっちゃって、どんなお店なんだろう、行ってみたいってなっちゃった。」
「繁盛の秘密でも探りに来たわけ?でも、どう見ても繁盛してるたぁ思えんわよ。」
「ううん・・・あの人は何でこのお店が懐かしいって言うんだろう?珈琲の味にこだわっているのはお店の匂いからわかる。でもあの人は珈琲の味にはうるさくないし、ウエイトレスさんがとりわけ美人って・・・。」
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?お好きな銘柄がおありならおっしゃって下さいね。濃い薄い・酸味・苦味・甘いのがいいなんてご注文でもいいですよ。マスターがお好みに合わせておつくりします。多分ご同業の方でしょ?」
「あら、どうして?(最後の方、聞こえてなかったようね。良かった!)」
「お店の中を眺める視線とか、メニューの見方とかでなんとなく感じるの。間違ってたらごめんなさい。」
「いいえ、間違ってはいないわ。じゃあ正直に言うわね。○○さんって方からこのお店のことを伺って、どんなお店なのか興味がわいたので来てみたの。○○さんがいつも頼んでたものをいただけますか?あなたはどうする?」
「あしゃあカフェオレをお願い。」
「はい、承知いたしました。懐かしいなぁ、○○さん今どちらなんですか?」
「広島です。」
「じゃあわざわざ広島からいらっしゃったんですか?遠いところをどうもありがとうございます。マスター、○○さんのお知り合いだって。オレ1、○○さんのお気に入り1でお願いします。」
「おう、ちょっとだけ待ってもらってくれ。準備するから。」
「あのう・・・○○さんってそんなに有名な方だったんですか?ここの常連と言うほどではないって仰ってたんですけど。」
「そうね、月一の週末ぐらいしか来てなければ常連とは言わないわね。でも、マスターも私もよく覚えている。○○さんのお気に入りは○○さんが完成させてくれたみたいなものだから。」
「そうなんだ・・・どんなものかは聞かずに、期待して待っていていいのね。覚えて帰ってうちのお店でも出してあげれば喜んでもらえるかな?」
「うちのマスターみたいな人でないと必要な器具は持ってないはずよ。それにそちらのお店の様子にもよるから再現は難しいかもね。飲んだ後でマスターに言えば教えてくれるわよ、レシピもコツもね。」
「お待たせ〜・・・いやいや、お待たせしました。始めて来て頂いたお客さんにくだけすぎてもいけないよな。まずはカフェオレからいこうか。」
「ああ〜、ちゃっかりカフェオレポットまで用意している!若いお嬢さんだとすぐかっこいいとこ見せようとするんだから。」
「まあまあ、お前もできるようになりたいだろ。ちゃんと見とけ。」
「はいはい。さっさとやっちゃってくださいね。」
「左右どちらかが先になくなってもかっこ悪いからな。このようにぴったりと終わらせるように。ただしパフォーマンスだと言うことを忘れずに。しかめっ面してやっていてもお客さんは喜んでくれん。」
「はい、って私じゃないですね。ところでマスター、○○さんのお気に入りはどんなアレンジ珈琲ですか?」
「わざわざ広島から来てくれたんだって?ありがとう。簡単に言うとアイリッシュコーヒーだよ。ただちょっとパフォーマンスが加わる。それを再現するには店舗の条件もあるんだ。とりあえず見てみてくれ。耐熱のゴブレットにフレンチローストのコーヒーを7分目まで入れる。アイリッシュ・ミストを入れて火にかけて温めておいた金属の柄杓の中に火を入れる。ゴブレットの口元から注ぎ始め、一気に柄杓を高く引き上げる。」
「おわぁっ、青い炎が滝んように・・・。」
「入れ終わったら小皿に盛ったホイップクリームと一緒にお客様の前に。」
「幻想的ですね。でもわかりました、店側の条件のこと。ボックスごとに照明を調節できないといけないのと性能のいい火災報知機がついてちゃいけないんですね。」
「そうだな。パフォーマンス自体は練習で習得することは可能だが店の条件を変更することは難しい。柄杓はまだあるから持っていってもらっても構わないが、ちゃんとできるまでに随分失敗することになるぞ。」
「私も1ヶ月程前に教わったんだけどまだできないのよ。この前はエプロンを焦がしちゃった。」
「そうですか・・・。でもやらないであきらめたくないんで柄杓はありがたく頂いて帰ります。」
「コツは口で教えられるもんでもないからな。練習するしかないよ。」
「はい、がんばってみます。でもこれが何で○○さんが完成させてくれたことになるんです?」
「このパフォーマンスを教えてくれたのが○○さんなんだ。名古屋出張の時に見かけたようで、お店まで教えてくれたんだ。うちの店で出せるようになってからは連れてきた女性に頼んであげて喜んでもらってたな。」
「○○さんが楽しんでる様子わかりますよ。そうか、○○さんが懐かしんでいるのはこの店の暖かい雰囲気なんですね。専門店だからってマスターが飲み方までを押し付けるんではないし、こだわってみえるコーヒーの味以外の事にはすごくオープン。そして初見のお客様にもこの店に来ていることを楽しんでもらいたいっていうサービス精神。この店の雰囲気の源は、自分が楽しんでいるマスターから出ているんですね。」

本日のメニュー
  アイリッシュ・コーヒー


丹念に淹れたフレンチローストに温めたアイリッシュ・ミストを注ぐ。その上から蓋をするようにホイップクリームを浮かべます。閉じ込められたアイリッシュウイスキーの香りが口に含んだ際に口中に広がります。
このパフォーマンスは作者が名古屋に通っていた時分、何回か通っていたお店で見たことがあるものです。最近名古屋に行った折、当時のお店を探したんですが、駅前の様子が大きく変わってしまい見つけることができませんでした。もう無くなってしまったのかもしれません。

「真面目なお嬢さんだったな。」
「アルバイト先のお客さんのためって言ってましたね。それよりお嬢さんじゃないですよ、若奥様。うちには素敵な旦那様が待っているんですって。」
「また他人のことを羨んでいるのか?早いとこお見合い話仕入れてきてやらんといかんのかな。」
「それはキッパリお断りします。でも変ですね、彼女のほうは広島弁しゃべってない。」
「それはな、出演者に監修をしてもらうと驚かすことができないってのと、生粋の広島人ではないからお願いしても迷惑かもって話だ。「バーチャル達川くん」は男言葉にしか変換されないしな。ああ、あくまで噂だからな。そこを突っ込むとお前の明るい明日はなくなると思ったほうがいいだろうな。」
「あわわ・・・。気づかなかったことにしま〜す。」



posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☁| Comment(4) | TrackBack(0) | 珈琲店の常連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
うふふふふ。こんにちは♪
アイリッシュコーヒーを下さい♪

同業者なのに温かく迎えて頂いてありがとうございます(ぺこり)
まるっきり普段の私そのまんまなのでびっくりしました!!
よくこういう感じで他の店を観察したりして夫に呆れられるんですよ〜。

アイリッシュミストに火をつけて注ぐ・・・。
きっとリアルの私がやったらエプロンじゃ済まないような気がしますよ〜。(自分の)前髪が焦げそうです。
おねいさん、笑顔がいいですね〜。
Posted by 花咲もも at 2008年06月26日 17:36
そうそう、もみじ饅頭置いて帰るの忘れました。
最近は餡子だけじゃなくてチョコレートやクリームチーズなど色んな種類があるんですよ〜。
今回は生菓子なんですが、クリームチーズもみじをどうぞ。クリームチーズにフルーツのソースが入っているのですが、冷やして食べると美味しいですよ♪
Posted by 花咲もも at 2008年06月26日 17:39
★花咲もも さん

いらっしゃいませ。主演お疲れさまでした。アイリッシュコーヒーをどうぞ。

>よくこういう感じで他の店を観察したりして
どうしてもやっちゃいますよね。気になっちゃうんですよね。

>まるっきり普段の私そのまんまなのでびっくりしました!
そういっていただけるととっても嬉しいです。
コメントとブログ記事から得たイメージだけなので大丈夫かな?と心配しつつ書いているんです。
Posted by 銕三郎 at 2008年06月26日 21:24
★花咲もも さん×2

お土産ありがとうございます。おいしくいただきます。
>チョコレートやクリームチーズなど色んな種類があるんですよ〜。
私の田舎の「千成り」も小豆餡以外にバリエーションが増えていて驚きました。

>クリームチーズもみじ
ほとんど洋菓子の世界になっていますね。でも美味しそうです。いっただっきま〜す。
Posted by 銕三郎 at 2008年06月26日 21:42
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