2008年07月11日

◇血の暴走

梅雨の晴れ間の暑くなりそうな早朝。
空気には湿気がたっぷり含まれ、気持ちのいい朝とは言い難い。

開店前の仕込み中、定時には多少早い時間に見習いウエイターが到着した。
着替えの後、カウンターの中に入って作業を開始しようとしたところで彼の手が止まる。
マスターの左手には包帯が巻かれており、うっすらと血がにじんでいた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「マスター!!どうしたんですかその手は?」
「ああ、ちょっとな。」
「ちょっとじゃないですよ、包帯の上にも血がにじんでますよ。今日は休んでください。今お姐さんに連絡しますから。」
「いや、すまん・・・。フロアの掃き掃除でもしているよ。」


「お姐さんすぐ来てくれるそうです。いったいどうされたんですか?左手を怪我するなんて。」
「この前、うちのかみさんが捨て犬を拾ってきたの覚えてるか?」
「ええ、シーズーでしたっけ。しっかりしたバスケットに入れられて近くの公園に放置されていた奴ですよね。引き取り先は見つかったんですか?」
「いや、この通り、まだ家にいる。」
「えっ?噛まれたんですか?あいつそんなに強暴だったんですか?」
「トイレのしつけはきちんとされているんで安心してみんなに引き取り先を探してもらったんだが、その後に色々とあって簡単に引取りをお願いできる状態の犬じゃないとわかったんだ。」
「噛み癖ですか?」
「噛むというより牽制するんだ。かなり甘やかされていたらしく、自分が気に入らないことをされると歯をむいて怒ったり、うなり声を上げれば止めてもらえると思い込んでる節がある。家のボスが自分だと錯覚していたんだ。多分高齢の女性に飼われていたんだろう。うなり声を上げれば普通怯むからな。」
「ひょっとしてボスの座を賭けて犬と格闘していたんですか?」
「しつけをしていたと言ってくれ、お願いだから。その言い方じゃ俺がアホみたいだろ。」
「水を使う客商売なのに、手にそんな怪我するだけで充分だと思いますよ。」
「既に手だけじゃないんだ。2週間前には足をやられた。かみさんもあちこちやられてる。」
「うわ〜、一家で馬鹿やってるんですか?」
「だからそういう言い方をするなって。俺の家で飼うにしろ、よその家にいくにしろ今のままじゃ人も犬も不幸だ。きちんと自分の立場を認識させて、少しは丸くしてやりたいんだ。シーズーなのにブラッシングすらできないんだぞ。内側の毛がだまになっていてブラシが通らないんだ。寝そべっていると柄をはずしたモップそのものなんだぜ。トリミングに連れて行こうにも、歯を剥く癖があっては安心して任せられないんで、拾ったままの薄汚い状態が続いているんだ。そろそろ暑くってへばっているよ。獣医さんにお願いしたほうがいいのかな?」
「マスター、お気の毒・・・。」
「籠にはな、『捨て犬です、区役所に連れて行ってください』なんて書かれてたんだぞ。飼い主が自分の責任で連れて行くなら理解もするが、自分じゃ嫌だからって放置されたあの犬がかわいそうでな。うちのはほとんど飼うつもりでいるよ。自分が噛まれたってお構いなしでしつけをしてる。それでもなついてくるのは俺なんだ。噛んじまった後のばつの悪そうな態度なんか見ていて可哀想になってくる。」

「ますた〜!!怪我大丈夫?酔っ払ってなんか殴ったの?」
「馬鹿野郎、お前とは違う!!とと、わざわざ済まんな休みなのに。」
「いいえ、それは構わないですよ。出かける用事がキャンセルになってちょうどよかったんです。」
「またデートの・・・いや、あの、何だ・・・。」
「もういいですよ、毎度のことですから。あら、かなり深そうですね。」
「しっかり噛み付かれたからな。でも引き抜かなかったんで深いが牙のあとだけで済んだ。出血が止まれば大丈夫だろう。」
「お医者には行ったんですか?消毒だけはきちんとしておいてくださいね。掃除なんかいいから早く帰って休んでいてください。何かあったら連絡しますから。」
「お、お・・・。追い出すのか?」
「仕事のできない人が居ると邪魔です。」
「わかった、帰る!後はよろしくな。」
「お姐さん・・・マスター怒って帰っちゃいましたよ。」
「たまにはゆっくり休めばいいのよ。痛くないふりしてるけど相当痛いはずよ、あれは。マスターに『青い顔して指を腫らしてまで店の心配しなくったって大丈夫ですよ』って言ったって聞かないでしょ?あれ位がちょうどいいのよ。」
「後からお返しされませんか?」
「マスターはそんなにちっちゃくないわよ。あれは照れ隠しのポーズだから。直ったら逆にどっかで美味しいものでもご馳走してくれるんじゃないかな。」

本日のメニュー
  捨て犬マックス

お付き合いのある近郊の方にお願いしていた里親探しですが、その後の経過をネタにしてしまいました。
かなり家人には馴れてきたんですが、気が小さいのかちょっとしたきっかけで歯を剥いて威嚇する癖はなかなか取れません。
こんな調子なので積極的に里親を探すのをあきらめました。もう少し様子を見る予定です。
お願いした皆さん、報告が遅れ申し訳ありませんでした。
しかし、この犬、寝姿が変です。両後足を投げ出して足の裏を見せて寝る犬なんてはじめて見ました。

モップのようなマックス

現在のマックスの様子です。



posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☀| Comment(6) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
マスター大丈夫ですか??
飲食物を扱うお店で怪我をしたら大変ですからしっかり治してくださいね〜。

わ、私も手伝いましょうか?
「ガチャガチャーン!!」
きゃぁぁぁぁ!!ゴブレットがぁぁぁぁ!!!
Posted by 花咲もも at 2008年07月11日 18:10
★花咲もも さん

いらっしゃいませ。いつものアイスコーヒー・コンチネンタルでよかったでしょうか?

>しっかり治してくださいね〜
リアルの私はもう治りました!!左手の親指にしっかり歯型は残っていますけれど…。
家族みんなどこかに歯型の刻印があります。

あ〜あ〜、やっちまったなぁ!
男は黙って…請求書!!
Posted by 銕三郎 at 2008年07月11日 21:14
は〜い♪
アイスコーヒー・コンチネンタル頂きます♪

ゴブレットおいくらでしょう??
コーヒー代と一緒にお支払いしなくちゃ(がさごそ)

「かちゃ〜ん」
「ちゃり〜ん」

あ、お支払い用のトレイを落としちゃった(汗)
ああっ!小銭がぁぁぁぁ(号泣)
Posted by 花咲もも at 2008年07月11日 21:50
★ももさん×2

「マスタ〜っ!みてみてっ!お姐さんみたいな人って他にもいるんですね。ほら、失敗の仕方がお姐さんそっくり。」
「こらっ!お客さんに何ってことを言うんだ。すみません、ももさん。こいつ、後でしばいときますから。でも…パニクるととんでもない方向に行動するのはよく似てるな…あ、いやこっちの話です。ゴブレットは気にしなくていいですよ。またお寄りください。有難うございました。」

なんて会話がそのまま聞こえて来そうですね。
Posted by 銕三郎 at 2008年07月11日 23:44
こんにちは〜♪
知らない間に(リアルでも)大変なことになってたんですねぇ。。。 (^_^;)
だいじょぶですか?

噛まれるだけならまだしも、あの噛んだまま引っ張られるのが最悪ですよね。
お大事に〜♪
Posted by アキラ at 2008年07月27日 20:43
★アキラ師匠

いらっしゃいませ〜!ハワイ・コナをアイスにしてみましょうか?酸味が強すぎる感はありますが…。

>だいじょぶですか?
ご心配いただき有難うございます。噛まれて2日ぐらいはジンジンと疼くような痛みがありましたが、もう傷跡が盛り上がってほぼ普通の状態にもどりました。

>噛んだまま引っ張られるのが最悪ですよね
そうですね、以前そうなったことがあってひどい目に会いました。その時学習して、噛まれたらそのまま口に押し付けるようにしました。
Posted by 銕三郎 at 2008年07月28日 01:25
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