2014年08月30日

◇秘密

マスターが店を開けてから一週間ほどが過ぎた。
この店の営業も通常に戻り、常連客はまた自分の場所で静かに珈琲を飲めるようになったと喜んでいた。
時折、常連客の話題に上がるのがマスターの雲隠れの理由だが、マスターは黙したままだった。

今日はカウンターに年若い常連が座った。

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「マスター、どこ行ってたのさ?」
「あちこちとな。決着をつけるのに時間がかかっちまった…ってなんでお前に話さなきゃならんのだ?」
「僕らだって興味あるさ。マスターが奥さんに逃げられて、戻ってくれるように説得に出かけたってことまでは聞いたんだけど、結果は聞いてないし、なんでこんなに時間がかかったかってとこも疑問だったしね。」
「何の話だ?誰も逃げてないし、追っかけて行ったわけでもないぞ?誰がそんないい加減な情報を近辺にふりまいてやがるんだ?」
「僕は先輩たちが話してるのを傍で聞いてて…。先輩たちは辰蔵君に『おかあさんは今は家にはいないよ』って直接聞いたみたいだったよ。」
「うちのとはこの店を始める前からの約束であいつらが成人するまでは離婚はしないことになってる。別に不仲でもないしな。辰蔵は今回の件は何も知らないよ。おあいにく。」
「なぁんだ、そうだったんだ。じゃあ辰蔵くんは何であんなことを…?」
「多分田舎に同窓会にでも出かけた時にタイミングよく訊いたんじゃないか?あいつなら2〜3日なら生活はできるからお順だけ連れて行ったのかもな。ただなぁ…。」
「ん?聞こえなかったなぁ。何?」
「別に…おまえに話したら商店街中に変な噂が広まるからな。辰蔵は店には関わらないってことだ。」
「あやしいなぁ、マスター何を隠そうとしてるの?」
「大人の事情ってやつだ。出入り禁止にされたくなければこれ以上は聞くなよ、な。」
「ますます怪しい…でも出禁は困るよぉ。」
「大人しくそこで冷めちまった珈琲でも啜っていろ。大人の事情に首を突っ込むんじゃないぞ。」
「もう、解ったから…。本当に冷めちゃってるよ。不味っ…。」

  ◆◆◆◆◆◆◆

「ねえねえ、お姐さん。」
「私に聞かれても知らないわよ。」
「えっ、エスパー?なんで解ったの?」
「あれだけマスターの機嫌が悪ければ、あなたが余計な事を言ったか尋ねたかしかないでしょ?君ならマスターの秘密主義解ってるでしょうが。他に漏らさないと認識している人にしか相談しないし、人間関係だって謎のままよ?私ごときに解るはずないじゃない。」
「そうだね、新作のデザート一つだってお店に出てくるまで誰も知らないもんね。」
「いつか話してくれるのかしら?気になってしょうがないのに。」
「マスターもあ〜ゆう性格だから、必要なければ一生話さないよ。」
「そうよね…。」

本日のメニュー

 オリジナルブレンド

珈琲専門店に於いてハウスブレンドに次ぐ主力商品となります。
ただし大きく違うのは、経営者(またはマスター)自身が自分の好みで味を決めること。
ハウスブレンドが社会のニーズに寄せた売りたい商品であるのに対し、自分自身が美味しいと感じる味を主張するものです。
漫画家さんが一般誌と同人誌に描き分けているようなものでしょうか。
posted by 銕三郎 at 05:14| 東京 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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