2007年08月16日

◇ギアの廻る音が響く

客足の少ないお昼過ぎのひととき。
いつもは静かな店内にたまに大声が響く。
BGMにまじって、ぜんまいおもちゃの動作音のようなものも聞こえてくる。
よく見ると、いつものウエイトレスは休憩時間なのかカウンター席に腰掛けて店の奥を眺めている。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「ちわーっす。あれ?今日はお姐さんお休み?」
「あら、いらっしゃい。強制的に休憩中。お仕事とられちゃってるの。」
「いったいどうしたの?エプロンした女の人いるよ。まさかク・ビ?」
「なに言ってんのよ。私はこの店の看板娘。ファンが多くて、私がいないと客足が遠のくのよ。」
「あ〜あ〜、言いたい事言ってる。でもあの綺麗なお姉さん、誰?臨時のアルバイトさん?だったらこれから毎日通うのに。」
「私じゃ駄目っての?ああん?どの口が言うのよ。」
「ああっ、痛い!離してよ。もう言いませんから・・・いや〜お姐さんがこの店にはぴったり、お姐さんが最高!!だから、あの人だあれ?教えてください。」
「よし、許してあげる。ほら、奥の席の脇に三脚があるのわかる?フィルムカメラよ。今時8m/mで映画撮ってるんだって。」
「じゃあ、あのお姉さんは女優さん?」
「そう、でもアマチュアよ。大学のサークルですって。マスター、そういうのに弱いから、ほいほい承知しちゃったのよ。」
「でも、マスターはいつものままじゃない。」
「それがね、『マスターを含めて店の雰囲気を頂きたいんです』なんて言われてその気になっちゃって、営業中にも関わらず撮影にOK出しちゃって、挙句の果てが私は強制休憩。」
「ひょっとして、出してもらえないことに腹立ててません?」
「え、そんなことは・・・ちょっとあるけど・・・。」
「やっぱりね。マスターのことだからこの間の時給カットなんてセコいこと言わないはずだから、怒る理由がないって思ってたけど、そっちが本命なのね。」
「でも、女優さんって大変なのね。お客さんが来ると通常の営業もしなきゃなんないから、あの人私の仕事もしてくれてるの。」
「普通は、そこはお姐さんがやるの。でも、マスターの指示じゃない?普通の部分もやらなきゃリアルに表現できないとかいって・・・。」
「よくわかるわね。そのまんまよ。監督さんも了解して、そうした通常業務の分もフィルムを廻してた。」
「でも、8m/m映画なんてカメラも映写機もフィルムだってなかなか手に入んないよ。サークルでずっと使ってきてるのかな?」
「そうらしいわよ。マスターもVTRだったら断ってたって。ちゃんと自分たちの手でフィルムを入手したり、現像所も確認してるんだって。」
「そういえば、富士フィルムもサービス終了を延期したって話を聞いた気がする。映画監督さんたちがお願いしたんだって。」
「へ〜、今8m/m映画を作るって大変なのね。マスターがVTRがNGで8m/mならOKするのわかる気がしてきた。」
「マスターって、頑張ってる若い子達って大好きだもんね。」
「出来上がったらみんなで見に行きましょう。どこかのフィルムフェスティバルに出品するって話だから。」
「マスターの出演場面だけで盛り上がれるね。」
「そういえばあなたの注文取りに来ないわねえ、文句言ってあげようか?」
「いいよ、ほら、マスターがこっち見てサインを送ってるよ。いつものを淹れてくれてるんだよ。」
「こういう時常連は便利よね〜。」

本日のメニュー

  8m/m映画

今ではホームビデオに取って代わられてしまったが、学生の頃の映画撮影にはこれが通常使われていた。
当時は、オーバーラップ撮影・編集・コマ撮り・特殊効果とVTRには出来なかった処理がアドバンテージとしてあり、こちらを選ぶ学生が多かった。
だが、家庭用デジタルビデオ MiniDV の登場とパソコンの高性能化・低価格化でデジタル映像編集が容易になり、現像やフィルム代といった感材費や、現像に一定の時間を必要とする、などの手間と費用が嫌われて、利用者は減っている。

映画関係者の中にも8m/m映画出身の監督は多く、富士フイルムが販売・現像サービスの終了を発表した際には、大林宣彦監督らを発起人に約300人の賛同人を集め撤回をさせている。
posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
なつかしいです。フィルムの製造中止と国内での現像中止で騒がれた時がありましたね。私もチラシ作ったり署名運動してましたよ〜、8mm映画の自主上映スタッフやっていたので(まだ10代だった!)。当時一緒にスタッフやっていた子が、映画監督としてデビューしたという新聞記事を数年前に発見した時にはうれしかったですねー。劇場で13年ぶりに再会しました。

8mmのガサガサした感じが今でも好きです。きみどりが生まれた時、成長記録をフィルムで残そうと思ったのですが、手間とお金がかかるのでやめました(笑)
Posted by カブ子 at 2007年08月16日 04:19
★カブ子 様

いらっしゃいませ。普通の主婦時間から考えるととんでもない時間ですが、ひょっとして地震で起きてしまわれたのでしょうか?

>映画監督としてデビュー
高校の同級生の名前を映画の看板で見たときは驚きました。今ではメジャー映画の監督としてTVでも見かけます。

>8mmのガサガサした感じが
粗いんですがなぜか奥行きのある画が撮れましたよね。でも、私はあのつぎはぎ感がたまらなく好きでした。

>手間とお金がかかるので
続けるには大変な労力を必要としますよね。管理も大変ですし。一般の人の間でVTR+PCが取って代わるのは必然でしょうね。
Posted by 銕三郎 at 2007年08月16日 09:54
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