久しぶりの冬晴れの空も夕闇に奪われてしまった時刻
キンと冷える外の空気とは対照的に窓辺の席の周りを暖かさが包んでいた。
だがそんなほっとする時間も長くは続かない。
男の腕時計が久しぶりの逢瀬の終焉をアラームで伝える。
「そろそろ時間だな。君の元に帰ってくると時が飛ぶように流れていく。」
「ありがとう、いつも遠くから。今度は私が行きたいな。」
「まだ学生で、親元にいる君はそんなこと考えなくっていいよ。僕はこの往復さえも楽しいんだ。」
「私だってこの春からは社会人よ。あなたの元に行くのに障害なんてないわ。」
「ふ〜ん、僕を迎えに来るのに東北新幹線のホームで待っていてもかい?無理無理、一人でなんか来れっこないよ。」
「それは言わないで。ちゃんと調べたのに・・・。」
「いいんだよ。そういうこともあるかなって気をつけてたから、すぐ見つけられたし。」
「あ〜あ、いつまでも子ども扱い。」
「むくれるなよ。次に来られるのはコートを着なくなってからだ。また、前みたいに喧嘩別れしてそのまんまなんてのはこりごりだからね。君の笑顔で送り出してくれないか?」
「いいわ見ててね、次の時までに子ども扱いできないぐらいになっててみせるから。さあ、駅まで送るわ。」
「いいや、ここでいいよ。ズルズル付いてきて「東京駅から一人で帰れない」なんていわれても困るから。」
「そんなこと言わないわよ。どこまで子供・・・」
「ごめん、ほんとにもう限界、駅まで走るし乗り換えも走らなきゃなんないんだ。だからここで。」
「あっ、待って・・・。」
「なんだ、また泣いてんのか?カプチーノでも飲んで元気出せ。」
「ますた〜・・・。私、どうしたらいいかわからない。」
「なんだ、また喧嘩か?大丈夫だよ、何があったってあいつはお前にベタ惚れだ。帰り着いた頃に電話できついことを言ってやんな。絶対謝ってくるから。」
「違うの・・・喧嘩なんかじゃない・・・私の寂しさをわかってほしい。」
「何言ってんだ、わかっているから帰ってくるんじゃないか。おまえが寂しがっていなきゃ帰っちゃ来ないよ。それにあいつだってそうさ。お前に会いたいから帰って来るんだよ。」
「だって・・・。新幹線まで一緒に行って送り出したかったの。少しでも長く一緒にいたかった。でも彼はここでって・・・。」
「ふ〜ん、それでか。時間はかなり切迫していたな。こんなギリギリになるまでいるなんてそうとう離れ難かったんだよ。」
「でも・・・」
「まあ聞け。もし一緒に行くんだったらどうなる?多分1時間近く前にここを出ることになるだろう。電車は帰りのラッシュ時間、お前と荷物を気にしながら話もろくにできない。その上に出発のときにお前の泣き顔だ、あいつには辛すぎるんだよ。」
「・・・」
「ここでなら最後までゆっくり話しをして、泣き顔じゃないお前を見ながら出発できる。たとえお前がその後泣くことがわかっていても、帰らなければならない。ギリギリにするのは新幹線に乗るまでそのことを考えないようにするためさ。」
「それなら言ってくれればいいのに。」
「ば〜か、いえるかよ。大の大人が『別れ際が寂しいから』なんて口が裂けてもな。それにお前を寂しがらせている原因は自分にあるんだしな。」
「お仕事のせいってこと?」
「そうだな、一緒に来てくれとはまだまだ言えないんだよ。結果を出すまではな。この仕事の結果いかんによっては戻ってこられない可能性だってあるんだ。それにな、お前、第一希望の就職先に決まったんだろ?」
「はい、でも別に有名な会社じゃないし・・・。」
「せっかく新しい世界に踏み出そうって時に『こっちへ来い』は失礼だって言ってたよ。お前の就活を無駄にしちまうわけだし、選んでくれた会社にも迷惑がかかる。」
「そうね、彼ならそう言うでしょうね。私も4月から社会人になるんだし、もうちょっとしっかりしなきゃいけないわね。ちゃんと新しい世界を見て、彼と同じステージに立たなきゃいけないわね。そうでなきゃ彼の悩みを聞いてあげる事だってできないわね。」
「そうだな。あいつとしてもお前に新しい世界で納得するまで頑張ってみて欲しいんじゃないかな?望んで見つけた会社なんだろう?あいつが戻ってくるまでに今以上に魅力的な女に成長してやれ。」
「戻ってこればいつでも会えるようになるんだもんね。そうよね、寂しいのは今だけ。ちょっと我慢して頑張ろうかな。心強いマスターも居てくれることだし。」
「ああ、愚痴ぐらいならいつでも聞いてやる。頑張れよ。」
「ありがとう、マスター。それじゃあ家で彼からの『帰宅したよ』の連絡を待つことにします。ごちそうさま。カプチーノ美味しかった。しばらく続けようかな。」
「ミルクフォーマも新しくしたからいつでもいいぞ。またおいで。」
「うん!おやすみなさい。」
本日のメニューカプチーノ
本来はコーヒーカップに注いだエスプレッソに、クリーム状に泡立てた牛乳を加えたものをいう。ただしペーパードリップではエスプレッソを淹れる事はできないため、イタリアンローストブレンドを使用して濃く淹れた珈琲を使用している。
一般的にカプチーノにおけるエスプレッソ、スチームドミルク、フォームドミルクの割合は1:1:1とされる。割合を変えたものは名称をかえて区別する。
カプチーノ・キアロ
エスプレッソに対してミルクの割合が多いもの
カプチーノ・スクーロ
エスプレッソに対してミルクの割合が少ないもの
ウェット・カプチーノ
フォームドミルクよりスチームドミルクの割合が多いもの
センツァ・スキューマ
全くフォームドミルクを入れないもの
ドライ・カプチーノ
スチームドミルクよりフォームドミルクの割合が多いもの
種類があるなんて知らなかった〜
じゃあ、カプチーノ・キアロお願いします♪
遠距離とか、何か二人の間に障害があるほど
アツくなるんですよね、恋愛って。
その障害がなくなっても気持ちが持続できたら
本物ですね。
でも、この二人の場合は本物のようです♪
お、今度はどんなオチなのかな〜と思って読み進んでいったら・・・オチないじゃんっ!! (^o^)
あ、エスプレッソお願いします。
いらっしゃいませ、カプチーノ・キアロですね。うちのカプチーノは偽物ですけど味は保証しますから。
>この二人の場合は本物のようです♪
ありがとうございます。
この二人の結末は以前に書いた「貸切の宵」に繋がって行く予定ではあるんですが、まだあれこれと障害に阻まれて立ち止まっていくことと思います。温かい眼で見守ってやってください。
いらっしゃいませ。はい、マキネッタと卓上コンロと微細に挽いたイタリアンローストを用意しますからご勝手に!(使い方はリンク参照)
ペーパードリップだからエスプレッソは淹れられないっていってるのに・・・師匠のいけず!
>・・・オチないじゃんっ!! (^o^)
どんなフィルターで私の店を見ていただいているんでしょうか?まったく〜。
ああいったのは、たまにやるから効果的なんですよ。
うちにもミルクフォーマーは一応あるんですが、手動式のせいか、
まともに泡立たないんです(; ;)
マスターのカプチーノを飲むと、この彼女には立派な口ひげが付く気がします(^_^;)
いらっしゃ〜い。お久しぶりですね。
ドライ・カプチーノお待たせしました。
>手動式
泡立てている間に端から元に戻ってしまうんでしょうか?
電動式でも1000円程度で手に入りますよ。
きっちり淹れたカプチーノの泡は、飲むときに気になりますね。
ドラマは想像の賜物なのでしょうか?それとも経験の賜物?!
いらっしゃいませ、今日は珈琲でも構わないんですか?それではカプチーノ・キアロをどうぞ。ラテ・アートも施しましょう。
>想像の賜物なのでしょうか?それとも経験の賜物?!
どちらかというと「想像」になるんでしょうか。
私自身の経験なんて「ロマンチック」に程遠いものばかりで役に立ちません。
いろんな所で拾ったキーワードや情景を軸に、役者を配して勝手にしゃべらせています。
濃い目のコーヒーの味を楽しみたいのでカプチーノ・スクーロを下さい。
チョコレートも頂けますか?
温かいカプチーノが彼女の別れの寂しさを癒してくれたのですね。
なめらかで優しい泡がコーヒーと馴染むと本当に幸せな気持ちになりますよね〜。
いらっしゃいませ、気に入ったHNは届いていますか?
カプチーノ・スクーロお待たせしました。チョコレートは食されるんでしょうか?それともカップイン?後者なら削ってお付けしますよ。
>温かいカプチーノが〜・・・
この店の珈琲にはスタッフの愛情がしっかり詰め込まれております。特にマスターは寂しがっている人にはとっても優しいんです、私には冷たいんですが。
あ、チョコレートはそのまま下さい〜。
最初はカプチーノを一口、次にチョコレートを口に含んでゆっくり溶かして、甘さが広がった所でまたカプチーノを一口・・・。
ああ、幸せ〜♪
マスターの愛情がこもっていて幸せになっちゃいました☆
おねいさんはとっても大事にされてますよ〜。
私にはそう見えます♪
学院にもお越しいただきましてありがとうございます。マスターとは趣向が違う形式なので何か気づいた点がありましたら遠慮なくご指導お願いします(ぺこり)
>おねいさんはとっても大事にされてますよ〜。
ええ、大事にしているつもりなんですが、あいつはどうも誤解しているようです。獅子は我が子を千尋の谷に落とすんですよ。それに比べれば・・・。
>遠慮なくご指導お願いします
いやいや、楽しみなんですよ。ああいったシチュエーションの中での珈琲抽出って、気にする部分が違ってくると思うので逆に参考にしようかななんて考えています。
そういえば、マスターのお店ってどのへんにあるんだろう・・。東京駅から結構距離がありそうですね。
いらっしゃいませ。ウェット・カプチーノですね。
>もくもくの泡にシナモンスティックをたくさんさしたのがいいなー
ウェットは泡の量が少ないためスティックを挿しても立ちません。ああ、そうか「たくさん」か〜・・・。よし、立つようにカップ一杯挿しましょう、剣山のようにね。
>どのへんにあるんだろう・・。
大体環8のちょっと外ならこの位の時間かなって考えています。
いらっしゃいませ、ドライ・カプチーノをどうぞ。
>一応翻訳家の
一応なんて、ちゃんと本が出てるんですし、名乗っちゃったもん勝ちでしょ?
>ストーリーも気にいりました。
ありがとうございます。そう言えばこの二人のシリーズ最近はすっかり忘れていました。半年以上ほったらかしでしたね。続き書かなきゃ!