2008年04月19日

◇春の嵐は過ぎ去った

日が暮れても寒さを感じることがなくなってきた。
花見の時期は駆け足で過ぎてゆき、今は八重の花が咲き誇っている。
そんな心も体も浮かれてくる時期だというのに、店の奥でどんよりと沈んでいる常連の男子学生がへたり込んでいる。
いつもの相棒はカウンター席から時折心配そうに奥を覗き込む。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「あいつ、今日はどうしたんだ?店の隅っこであんなになってるキャラじゃないはずだが。相棒のお前なら訳を知ってるんだろう?」
「そっとしておいてやってください、マスター。現実を直視しちゃっただけのことですから。」
「そうか・・・。やっと気付けたわけか。」
「ええ、以前に危惧したとおりの結果で・・・。まったくの『お兄ちゃん』だったそうですよ、彼女の中では。傍から見ている僕にはそうとしか見えないのに、自分で聞かない振りをしていたんですからしょうがないですよ。一歩を踏み出す前に轟沈してるんじゃ慰める気にもなりません。」
「ちょっと冷たくないか?」
「勝手に舞い上がって、思い込んで、その上戦う以前に敗北を認めてるんじゃ何してやれって言うんです、マスター?」
「お前、相当あいつに腹立ててるんだ。ふふん、そうか。これまでも幾度となく諫言をしてきたのにやつは全く聞き入れてなかったってことか。」
「女の子は俺やツレたちとは違うんだっていくら言ってもだめだった。崖っぷちに向けて一直線に進んでいたのに・・・。」
「まあ、いい経験になったんじゃないか?失敗して傷ついて、その中から這い上がってこそ次に進めるんだと思うがな。一般的に同じ年頃では女の子の方が恋愛には長じている。しかし、それに輪をかけたように初心い奴だからな。近づいて優しくされれば舞い上がっちまうのは当然か。」
「これで変な方向に目覚めなきゃいいんですけどね。僕は親友以上の関係に進むつもりはないんで。」
「かれこれ半年以上か?手も出さず、「おあずけ」のままでよく我慢したもんだ。」
「あと2ヶ月で1年になりますよ。結局踏み出さずに終わっちまいやがった。最後ぐらいだめだって解っていても自分の気持ちを伝えてこればいいのに、それもしないで帰ってきたんですよ。もう何やってんだか。」
「お前みたいに世慣れて、自信もある奴とは違うよ。振られて開き直ることもできないんだ。冷静な分析も、損得の計算もない。今が壊れるのが怖いだけなんだな。何回かこんな目にあえば自分がわかってくるし、自己分析もできるようになるだろう。これ一度でってのは無理だろうがな。」
「こんなしんどいのをまた見せられるんですか?あ〜あ、忠告を素直に聞き入れてくれれば少しは楽に終焉が迎えられたのに・・・。」
「それは無理だな。男女の違いよりお前との差を大きく感じているんだ。自分とは目線が違うと思い込んでいるよ。」
「はぁ・・・、きちんとコミュニケーションをとれって言っているだけなんだけどなぁ。」
「できないんだよ、それが。普段のあいつで居ることすらできなかったんだろうな。相手の表情に一喜一憂して、笑顔が続いていれば自分がうまくやれていると勘違いして。」
「何回こんな失敗すれば気づくんですかね?」
「今後のお前のフォローに依るんじゃないか?あんまり見せ付けるからお前の信用が無くなっていたんだからな。その辺を弁えて、なっ。」
「マスターまでそんなことを・・・。後ろ指指されるようなことなんかしていませんよ。俺は合意の上でお付き合いしているだけですから。いいかげん世慣れないあいつが問題なんでしょ?」
「まあな。今回のことから復活したらもう少し理解してくれるといいな、あいつも。」


 

********

「ねえ、大丈夫?」
「ああ、お姐さん・・・大丈夫・・・じゃないですね、こんな様子じゃ。でも、今日だけ、今だけは一人にしてください。明日になればいつもの僕に戻れると思います。だから放っておいてください。」
「う〜ん、放っておいてあげたいんだけどね。そういうわけにもいかないんだ。ほら、時計見て。時間なの。じゃあいいわ、お店閉めるまでそこにいて。終わったらその辺のお店でお姐さんがしっかり聴いてあげるから一緒に行こ。飲めるでしょ?遠慮も警戒もしなくていいわよ。辛い時は吐き出しちゃうのが一番なんだから、ねっ。」
「お、お姐さん・・・。」


本日のメニュー

  カルダモンコーヒー

カルダモンの種子を煮出したお湯を使って淹れたスパイシーなアレンジコーヒー。
中近東では古くからコーヒーにカルダモンの精油や種子の粉末を加えて飲むのが好まれている。
種子は健胃作用があり、カレー料理にはかかせないスパイスのひとつとされる。


posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☔| Comment(6) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
スパイシーなコーヒーですか、ちょっと
興味がそそられますね。

周りにも、そういう彼がいるんです。
もういい年なんですけどね。
Posted by Home-Design at 2008年04月19日 18:58
★Home-Design さん

いらっしゃいませ。カルダモンコーヒーをどうぞ。ホイップクリームを浮かせて少し味を柔らかくしておきましょう。

>もういい年なんですけどね。
いい年でこの彼のようじゃイタい・・・。
こんな姿が許されるのは若いうちだけですよね。
Posted by 銕三郎 at 2008年04月19日 21:30
>近づいて優しくされれば舞い上がっちまう

自分に好意を抱いてくれている異性を(嫌っていない限り)無下にあしらうことはなかなかできませんよねぇ。でもヘタに優しくするのは却って残酷なわけで。
ええ、若者はどんどんそういう経験を積めばよいのです。傷つけたり傷つけられたりして、機微がわかるようになり、図太くなっていくのですわ。おほほ。

親友がしたり顔で自分のことをマスターと語り合っているのも、彼にとっては辛いかもね〜。
Posted by ひそそか at 2008年04月21日 01:53
★ひそそか さん

いらっしゃいませ。あれっ?ご注文は?
せっかくなんでカルダモンコーヒーをご賞味ください。

>親友がしたり顔で自分のことをマスターと語り合っているのも、彼にとっては辛いかもね〜。
どうでしょうか?多分彼は自分のことで一杯一杯だと思います。周りなんて何にも見えていませんよ。その証拠に閉店の片づけが始まった店内で時間を忘れて落ち込んでいるんですから。お姐さんが声をかけなければ翌朝までそのままかもしれません。

み〜んな悩んで大きくなるんだと野坂昭如さんも唄ってみえるんですよ。悩むことは自分なりの解を求めるのに必要な行為だと思います。
Posted by 銕三郎 at 2008年04月21日 09:22
こんにちは、マスター。
カルダモンコーヒーを下さい♪

いくら周囲がアドバイスしても経験しないと分からないことってありますよね〜。
まだ若いから、どんどん失恋していい男になって欲しいもんです。
個人的には、ちゃんと告白してけりをつけたほうがいいと思うんですけどねぇ。もしかしたら告白がきっかけで彼女も見直すかもしれないし。
Posted by 花咲もも at 2008年04月21日 15:06
★花咲もも さん

いらっしゃいませ。
>カルダモンコーヒーを下さい♪
はい、お待たせしました。ホイップはどうします?

>もしかしたら告白がきっかけで彼女も見直すかもしれないし。
やっぱりそういうこともありますよね。また、情にほだされるってこともあるでしょうし。
自分なりに決着をつけたほうがすっきりすると思います。後引くことも少ないでしょうし。

>しばらくは客として訪問しますよ
大歓迎です。お席はどの辺がいいですか?
まあ、一月ぐらいゆっくりしてもいいですね。
ここの常連さんにはブログ休養中の方もみえますよ。
Posted by 銕三郎 at 2008年04月21日 22:47
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