2009年07月25日

◇マスターの休暇明け

梅雨明け宣言がされたはずなのに、すっきりした青空には恵まれない日が続いている。戻り梅雨と言うのだろうか。
それでも花壇にはヨメナやネジバナが咲き、蝉の声も聞こえてくるようになった。

カウンターでは腕だけがしっかりと日焼けしたマスターが珈琲を淹れている。
やってきた常連の学生がカウンター席に座りマスターの休暇の様子を聞こうと話しかけてきた。

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「あれ〜、マスター焼けましたね。」
「ああ、この腕か?丁度磐梯山に登る1日だけいい天気だったからな。」
「ボーイスカウトのキャンプに行ってきたんでしたっけ。」
「ああ、息子たちの父兄として手伝ってきたんだ。発団何周年かの記念のキャンプだからっていつもの隊長に誘われたんだ。」
「マスターがお店を空けるなんて珍しいですね。」
「あいつらがいるから何とかなるさ。無理な営業はしなくて良いと言っておいたからな。」
「通常通り営業してましたよ。さすがにランチは数量限定していたようですが。」
「なんだ、お前も通ってたのか?ここの常連連中ってのはみんな暇だなぁ。」
「だって・・・。それよりどうでした、あっちは?」
「雨と風ばっかりだったよ。息子たちの隊長も予定していたプログラムの大半を雨プロにしなきゃならなくて弱っていたよ。」
「雨や風がひどかったらテント泊は大変だったんじゃないですか?」
「上のクラスの連中はな。息子たちのクラスはまだ舎営といって宿に泊まるんだ。悪天候では野外活動には制限が出るが宿泊・食事は安心していられる。と言ったって上のクラスで問題が起きれば隊長たちは手伝いには行くがな。」
「雨じゃあキャンプファイヤーもできないでしょう。ちょっと寂しいなぁ。」
「火は使わないが宿の広間でらしきことはやったぞ。暗くなるだけで子供たちはテンションが上がるからリーダーさえしっかりしていれば何とかなっちまうもんだな。」
「でも、炎の効果は期待できないですよね。」
「まあな、普通のお楽しみ会になっちまった。翌日登山ができてよかったよ。訓練キャンプの雰囲気が戻ったからな。しかし、上のボーイ隊はパラグライダーなんてやってやがって、羨ましいったらなかったな。まあ、連日の雨でずっと雨対策の訓練をし続けていたようなものだったから丁度良かったのかもしれん。」
「へえ〜っ、そんなこともするんですか?僕もやってみたいなぁ。」
「沢登りトレッキングを予定していたらしいんだが、危険だと言うことで天候も良くなったから変更したらしい。俺もやってみたかった、1800m超える山を登るのは結構きつかったんだ。でも、一番きつかったのは・・・。」
「まだあるんですか?」
「ああ、きつかったのは満足に珈琲が一度も飲めなかったことだ。キャンプサイトじゃタープが飛ばされたり本部テントが浸水したりで、パーコレータで珈琲を一杯なんて雰囲気じゃなかったからな。缶コーヒーしか飲めなかったんだ。」
「そこですか、それはマスターらしいご意見ですね。」
「やっぱりキャンプ中に差し入れして、火の周りで珈琲を飲んでくるのが一番良いな。隊長はじめリーダーの人たちには頭が下がるよ。」
「その方がマスターには似合ってますよ。マスターが子供を集めて歌を歌っている姿なんて想像できないもん。」

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2009年07月10日

◇梅雨の中休み

まだ梅雨は明けない。が、今年は雨粒が降らない日も多い。
今日は開店前までどんよりしていた空からいきなり雲がなくなり夏の日差しがアスファルトを焦がしている。

ゆれ立つ陽炎を踏み越えて若い常連が店にたどり着いた。カウンターではいつものウエイトレスが珈琲を淹れている。
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「お姐さ〜ん、暑いよ〜!なんか冷え冷えになれるもの何かない〜?」
「あらっ、この暑い中良く来たわね。梅雨もまだ明けないっていうのにこの暑さは何でしょうね?一応マスターがこんな日を見越して作っておいたものがあるんだけど、それでいいかしら?」
「つめたーくなれるものなら何でもいいよぉ。」
「それなら、『氷コーヒー&ミルク』にしましょうか。甘味は必要?」
「お姐さんってば氷コーヒーってアイスを日本語にしただけじゃん。変なの・・・甘さは少し控えめの方がいいな。」
「そんなこと言って、見て驚かないでよ。ほら、こんなのよ。」
「えっ、これって名前のまんまじゃん。珈琲を凍らせた氷に牛乳をかけただけでしょ?これじゃあ一気に飲めないから僕が求める冷え冷え感にはちょっと足らない気がするけど。」
「あら〜?言ってくれるわね。でも、このコーヒーでつくった氷といってもシャーベットに近いから、口の中に直接入れて溶かしていけば冷え冷えになれること間違いないわよ。」
「それじゃあ冷えるのは口の中だけじゃん。僕は体中を一気に冷やしたいんだ。」
「単に一気に飲んでクールダウンしたいってことなのね。それならばこれをブレンダーにかければスムージーになるわよ。これなら一気に飲めるでしょ。」
「え〜っ、そんな手抜き?それなら普通のアイスコーヒーの方が一気飲みができる分いいよ。」
「ったくわがままなんだからぁ。それならこのビアマグに軽めのアイスコーヒーを倍量作ってあげるからそれで我慢しなさい。」
「やっぱりそれが一番なのかな。期待してたのにな。」
「おいっ、期待されたって限度が有るさ。それに氷水で済むようなことにアイスコーヒーを使うなんてもってのほかだ。味わって飲まない奴には何にも出してやらんぞ。」
「あら、マスターいつからそこに?」
「こいつが名前のまんまだって文句つけてる辺りかな。こんな奴にはステアグラスに氷を入れて渡してやれば充分だ。人のつけた商品名に文句なんぞつけやがって・・・。」
「マスタ〜、勘弁〜・・・。僕は美味しいアイスコーヒーが頂きたいです・・・。」
「あらら、畏まっちゃって。マスターの怒声がクールダウンの特効薬だったみたいね。」


 

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2009年06月29日

◇延べ棒の山

梅雨の中休み。日差しが強く蒸し暑い。
路地裏の紫陽花は首を傾げ、元気がない。そろそろ花の時期も終わりが来そうだ。

カウンター上の冷蔵ケースの中には珍しく焼き菓子が積まれている。
カウンター席に座った若い常連がそのことに気が付いた。

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「おや?マスター、今日はいい香りがしますね。甘くってアーモンドとバターが香ばしい・・・。フィナンシェですか?」
「よくわかったな。今日のサービスはカフェ・シュバルツァーなんだ。ビターチョコでも良かったんだが、フィナンシェがたくさん用意できたからな。」
「つき物なんですか?」
「ああ、荒挽きの3倍量の粉を使って濃く淹れたイタリアンローストブレンドだから飲んだ後に口の中をさっぱりさせたくなるんだ。炭酸水と一緒に口に含んでみればわかるさ。」
「普通の水やミネラルウオーターじゃないんですね。」
「もともと飲まれている地域はドイツからオーストリアだから水より炭酸水の方が美味しかったんだろうな。そこに焼き菓子をあわせるところがおしゃれだよ。」
「マスター、結構このアレンジ珈琲好きなんですね。」
「ああ、この贅沢に豆を使った濃さが好きなんだ。フィナンシェなしでも構わないから、たまに自分で飲むために作ったりしてるんだ。よくあいつに見つかって原価率が・・・とか代金払えとかうるさく言われちまう。」
「あはは、最近お姐さんも経営者側になっているんですね。ますますマスターが楽できていいじゃないですか?」
「そうじゃないんだ、俺に対してばっかりでうるさくっていけないよ。気楽に味見すら出来ないんじゃあな。」
「マスターが味見の域を超えてるからでしょう?嬉しそうに自分の飲む分をフルサイズで作っているから怒られるんですよ。」
「お前までそんなことを言うのか。ああ、俺の味方はだ〜れもいないのか。」
「拗ねたって可愛くないですよ。それより僕にも本日のサービスをお願いします。」
「ふん、フィナンシェは品切れだからな。」
「そんなぁ、そのケースの中で山と積まれているじゃないですか。常連を蔑ろにしないでくださいよぉ。」
「俺の味方じゃない奴は常連を名乗る資格なんかないね。」
「そろそろお姐さん、帰ってきますよね。それじゃあお姐さんにお願いしますよ、もう。」
「そ、それは・・・。ほら、もう出来ちまった、フィナンシェはサービスで2つつけてやるから、な。」
「そんなことすると、また後でお姐さんにつまみ食いしたって怒られますよ。」
「うう・・・、この店は俺の店なのに・・・。」


 

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2009年06月07日

◇雨の公休日

この地の梅雨入りにはまだ間があるというが、雨模様の天気が相変わらず続いている。
路地裏にある額紫陽花が外側の花弁を大きく開き始めた。まだ色は白い。

お店のほうは今日はお姐さんの公休日にあたる。
以前は仕事熱心のあまり公休日でも1度は顔を見せていたが、最近は休みとなると彼氏とのデートの予定で店に顔を出すこともまれになったようだ。

モーニングの時間も終わり店内が落ち着いてきている・・・。
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「雨だね・・・。」
「そうだね・・・。」
「私のお休みって良く降ってるわね・・・。」
「そう言えばそうだね。突然に降りだして、駐車場からの移動だけでズブ濡れになって食事したったってことも、既に片手には余るほどだったと思う。」
「典型的な雨女なのかしら?せっかくのお出掛けだからって衣装ケースひっくり返して決めたのに台無しになっちゃう。」
「今日は花に囲まれたオープンテラスのカフェで"午後のお茶"と庭園の散策、そしてその庭が高台から臨めるレストランでフレンチのディナーの予定だったからね。この分じゃ予約は全部キャンセルした方がいいね。」
「あのレストラン、予約するの大変だったでしょ?せっかく予約できたのに残念ね。」
「でも、傘を片手にオープンテラスでお茶なんてのはちょっと無理があるんで、今日の予定は丸々日を改めればいいでしょう。花の種類は変わってしまうけれど、楽しみは取っておいても傷んでしまう事はないでしょうから。」
「そうね、次にレストランの予約がとれた時で構わないわね。それじゃあ今日のお昼はお互いに一品ずつ作って二人で食べましょう。簡単なもので構わないから。」
「そうだね、そんな楽しみ方もたまにはいいね。」
「あなたの料理の腕も味わってみたいの。あっ、電話・・・お店からだわ。・・・はい、私です・・・ええ、この雨なんで出かけるのが億劫になって、家でゴロゴロすることに決めたんです。・・・えっ?これからですか?・・・そうなんだ・・・、すぐには無理です!そうですね1時半からでいいですか?・・・今日はお昼ご飯を食べてからじゃなきゃヤダ!・・・済みません、わがまま言って・・・時間には必ず行きます、それじゃあ。」
「坊や、アウトなの?」
「そう、熱があるのに出勤してきたらしいの。店を開ける前に帰したんだって。」
「それじゃあマスター、今一人なんだ・・・。」
「うん、でも電話の声に緊迫感がなかったから多分大丈夫だと思う。久しぶりに一人でやってるから話し相手もいないんで寂しいだけよ。」
「心配してないんだ・・・。まあ、もともと一人でやってたお店だからね。ランチをやめれば平気なんだろうな。」
「そうよ、ドリンクとトーストだけにメニュー絞っているって言ってた。」
「出勤はお昼過ぎでいいんだね。それじゃあさっさとお昼の支度を始めて食べちゃうことにしよう。マスターが首を長くして待っているよ。」
「うん、あなたは何が必要?冷蔵庫にあるもので足りるかしら?でも、今あなたと一緒にいることマスターにはばれてないわよね・・・。」

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「ちっ、こんな時に限って常連のガキどもすら来やしねえ。いつもはさんざんっぱらあいつの悪口を並べてるくせしやがって、休みの日は顔も見せやがらねえんだから。本当に薄情な奴らだ。・・・トースト皿と冷タンぐらいは洗っておかないとマズイな。あいつが来た時に洗い物が山のようだったら何言われるか判ったもんじゃない。・・・去年の今頃なら電話すればすっ飛んで来てくれたのになぁ。デートの約束があったんじゃ仕方ねぇか…無理言っているんだ、待つしかねえな…。」


 

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2009年06月01日

◇マスターの隠れた趣味

まだまだお店の周りのアジサイは小さな蕾が固く閉じています。でもそろそろ雨の季節がやってきました。

先日小学校の校庭で、泥まみれになったテントを雑巾で手入れしているところを見かけました。この時期のキャンプは後始末も大変なんですね。

そんな連中の一人がお客としてやってきたようです。

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「マスター、さっきはじめて気付いたんですけど、あの大テーブルの中央に敷いてあるマット、ナポレオンマットじゃないですか?。うちの団の誰かが寄贈したんですか?」
「バカ言ってんじゃないよ。俺が編んだんだよ。」
「えっ?マスターが・・・?」
「ああ、以前TVで紐の結びの講座をたまたま見ることがあったんだ。ちょっと面白くなってな、テキストまで買っちまったよ。コースターの講座の回を見ながらやっていたら簡単に出来ちまったんでちょっと大きいのに挑戦してみたんだ。」
「へええ・・・マスターって以外に器用なんですね。手芸なんかも嗜むんですか?」
「違う違う、ロープのの掛け方でどうしてもわからないのがあって、たまたま時間が合って結びの講座なんかがやっていたから見てみたんだ。ほら、トラックの運ちゃんが荷を固定するときに荷台のフックとの間に妙な結びを入れるだろ?あれがわからなかったんだ。」
「トラッカーズ・ヒッチですかね?ボーイスカウト活動ではあまり扱わない結びなのでよくわかりませんが・・・。」
「そうなんだよ、運送業では普通に使うじゃないか。複雑な形なのに簡単に結んでいるし解くときもあっさり解ける。出来たらカッコいいかなと思って覚えたかったんだ。」
「うちの隊長でも怪しいなぁ。そうだ、奴んち運送屋だった。今度集会じゃないときに判りそうな友人を連れてきますよ。」
「おお、嬉しいね。そのときはサービスするからな。」
「でも、なんでコースターやマットなんです?」
「何回か続いていた教養講座だったんだが、俺が見始めた頃は装飾的な結びが中心になっていたんだ。吉祥結びやトンボを結んでみたりとか面白かったぞ。」
「そりゃあ・・・。紐って素材や色でおしゃれな装飾品が出来ますよね。例えば平打ちの皮ひもとか、子供用の縄跳びの縄なんか色々と遊べますよ。」
「ポップなアクセサリーを作るんならそれもいいか・・・ってオイ!カウンター脇の商品棚を増やしたいわけじゃないんだ。」
「でも、せっかく覚えたスキルなんですから使わなきゃもったいないですよ。あのマットだって良く出来てるし・・・。でも生成りのままじゃいまいちあのテーブル・・・いやこの店に合ってない気がします。出がらしでいいんで、珈琲や紅茶で染めれば調度品として落ち着きそうですね。」
「そうか、どうもあのマットだけ浮いて見えるのはそのせいか。次は草木染・・・乗せるな!」
「そんな大げさにしなくても2〜3日漬け置きすればいい色になるんじゃないですか?頻繁に洗ったりするものではないんですから。」
「そんなもんか・・・?」
「ネルフィルターだって毎日洗ったって元の色には戻らないじゃないでしょ?」
「そういえばそうか。よし、やってみるか。」
「そのうち値札のついたのが棚に並んでるんじゃないですか?」
「間違ってもそれはない・・・と思うな・・・多分・・・。」


 

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 🌁| Comment(4) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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