2008年12月07日

◆番外編 9.カップ〜材質と形状

毎度お越し頂きありがとうございます。番外編第9回をお届けします。
どうも間隔があいてしまいました。お待たせしてしまってすみません。

今回と次回の研修会のテーマはカップです。以前コメント欄で少し言及したことがありましたが、もう少し詳しく検討してみるつもりです。
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「おっはようございま〜す、あれっ?マスターこんなにいろんなカップ、どこから出してきたんですか?」
「おうっ、やっと来たか。今日は飲みまくってもらうぞ。」
「ええっ?淹れるんじゃないんですか?マスターの淹れた珈琲をのんでいいんですか?うれしいなぁ〜、ここのところマスターが淹れてくれるなんてこと、ずっとありませんでしたからね。」
「今回は特別だ。おまえ自身で珈琲に合うカップを考えてもらうためだからな。」
「カップを私が選ぶんですか?」
「そろそろ交換時期だから、お前に任せてみようと思ってな。」
「でも、いいんですか?私のセンスなんかで。」
「いや、センス以前の部分をわかってもらおうと思っているわけだ。」
「センス以前の部分・・・?」
「要はどのような形状のカップがふさわしいかってことだな。」
「なるほど、それがわかった上でないとカップ選びもままならないって事ですね。了解しました。早速はじめましょう。」
「ではこの2杯を比べてみようか。」
「またオーソドックスなカップ2つですね。生成りの白い厚手の陶器と薄い磁器。どちらも昔はよく見かけたデザインですよね。飲み比べればいいんですね。」
「どうだ?」
「そうですね・・・、珈琲の味は変わらないはずなんですけど磁器のカップのほうがいいように感じますね?どうしてでしょう?」
「まあな、多分70%の人間は同じように感じるはずだ。これは先入観もかなり関係している。ああ、飲みかけのカップはそのままにしておけよ。後で使うからな。」
「先入観・・・ですか?」
「ああ、カップの価格が意識にあるんだ。これは人の第1印象でも同じことだ。高価な服を着ていればそれなりに見えてしまう。」
「なるほど、薄い磁器のカップのほうが高いっていうイメージがありますもんね。」
「これは結構重要な視点なんだ。実際にはこの陶器のカップのほうがずっと高くったって見た目ではそう判断されてしまう。」
「ええっ?そうなんですか?」
「まあ、そんなことよりその飲みかけの珈琲を飲んでみろ。」
「冷めかけた珈琲って・・・。あれっ?全然印象が違う。というより陶器のカップは冷めてない。」
「そうだ、薄い磁器に比べて厚い陶器は熱を逃がさない。だから今店で使っている理由がここでわかるはずだ。」
「え〜っと・・・、使っているのはアメリカンブレンドとカフェオレですよね・・・そうか、わかった。量が多くって飲むのに長くかかるものに使っているんだ。」
「そのとおりだ。アメリカンタイプのカップは厚手の物を使っているな。ゆったりと時間をかけても味にそれほど影響の出ない、そして暖かいのが持続してほしいホットのアレンジに使うようにしている。それに対して薄い磁器のカップは、ブレンドからストレートまで、暖かいのが冷める前に飲み切ってほしいからこのタイプを使うようにしているんだ。」
「せっかくのストレートを冷めてから飲んじゃもったいないですよね。でもマスター、ブレンドっておっしゃいましたけどブレンドはストレートとカップが違いますよね。」
「そりゃあな、同じ系統を使用していても格の違いをカップから表しておかないと、頼んでくださったお客様に悪いだろ?せっかく高いのを飲んでいるのに傍から見たらブレンドと同じに見えちゃ寂しかろうという気遣いだよ。」
「あはっ、だから数は少ないけど高級そうなカップが棚の見えるところに置いてあるんですね。」
「今日のところはこんなところかな。後は形やタイプの違う白いカップを揃えておいたからお前が使ってみたいカップを選んでみろ。珈琲はどんどん淹れてやるから。」
「本当に私が選ぶんですか?白じゃなきゃいけないんですか?」
「今回は材質と形状を比較したいから白だけにした。色は次回だな。それよりも洗浄の際の取り扱い易さとか破損なんかの時の補充のし易さも考慮に入れておけよ。」
「そっかぁ、だから一番使うブレンドのカップってあまり高そうじゃないんですね。」
「そういうこと、損耗率はかなり高いからな。」
「わっかりました〜。じゃあどんどん飲みますからね、覚悟していてくださいね。」

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2008年10月31日

◆番外編 8.泡

毎度この研修会にご参加頂きありがとうございます。番外編第8回をお届けします。

今回は抽出テクニックには直接関わりがありませんが、ペーパーやネルドリップではとても大事なもの、「泡」について検証していきます。
本来は科学的な見地から検証を進めるべきことなんでしょうが、そちらの方面の素養が全くないため、自分の経験則からのお話になっていますので、ご容赦ください。

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「おおっ?早くから何やってんだ?」
「あ、おはようございます。抽出を教わった最初の頃に、練習して失敗を繰り返した時のことを思い出したんで、ちょっと実験をしてみていたんです。」
「ふん、感心だな。そういえばお前が抽出を始めてもう1年以上経つのか。早いもんだ。」
「独り立ちしてからだって半年は経っているんで、失敗を繰り返さないために理由まで理解しようかと思ったんですよ。」
「あれっ?お前が立派な人間に見えてきた、おっかしいな〜。」
「私だって美味しくないものをお客さんに出したくないんです。失礼だなぁ〜。」
「ま、それはそれとして、何の実験をしてたんだ?」
「発言の撤回はしてくれないんですね。もう、マスターってば私をいじるのを生きがいにし始めたんですか?もういいです、わかりましたよ。実は、最初の頃お湯をケチってドリッパーから全部落ちきるまで待ってたじゃないですか。それが原因で珈琲液が渋くなりましたよね?絞るとどうしてそうなるのかなって疑問がわいたんです。」
「ふん、ちゃんと考えているんだな。経験的に知ってはいても理由を考えるとはっきりしないってことか。それじゃあ今日はきちんと理解してもらおうか。」
「ま、まさかマスターが物理や化学の講義をしてくださるんですか?」
「あほか、そんなことが出来るぐらいならここでこんな事はしていないだろ?他の同種の事例に置き換えて理解してみようってことだ。」
「ああ、なるほど。それなら私にもついていけそうですね。」
「俺だってその程度の理解しかしてないってことだ。じゃあ聞くぞ、そもそもドリップの時に出来る泡って何だ?」
「粉の中に含まれていた二酸化炭素がお湯と入れ替わってお湯の中に放出されたものでしたよね。」
「ああ、以前の抽出の講義ではそう説明した。でも、それだけだったら水面からすぐ消えてもおかしくないよな?炭酸飲料を熱すると泡になった二酸化炭素はすぐ消えていくぜ。」
「そうですね、確かにホットコーラとか作るときはそうなります。それじゃあ何故?」
「もうひとつヒントだ。その泡を舐めてみるといい。」
「ええっ?泡をですか?あまり美味しそうではないですよね・・・う・・・マスターの意地悪〜!なんですかこれは?まるで渋柿を食べたような感じ・・・。」
「わかったか?わからなければお代わりもあるぞ?」
「いりませんよ!!・・・でもなんだか記憶にありますよ。暖めて・・・泡が出て・・・消えない・・・しかも不味い!ひょっとしてアクですか?」
「わかったようだな。アクのように親水性の低いものは泡に吸着する性質がある。吸着するとその泡を包み込むように広がるから余計に泡ははじけづらくなる。」
「泡を消さなければ滴下する珈琲液に戻ることはないということですね。でも、それでは絞ると渋くなることの説明にはなっていないような・・・。」
「絞っていくと泡はどうなる?」
「・・・?ああ、そうですね。消えながら珈琲液の中にアクを開放していくんですね。そうか、なるほど。」
「これはあくまで俺の経験から導き出したものだからな。化学や物理の専門家からすると噴飯モノかもしれん。でもこう考えることで一応は納得できるし絞ると不味くなる説明もつく。」
「抽出しながらアク取りまでしているんですね。こんな抽出法を考え付いた人はすごいですね。」
「多分最初は濾過する事しか頭になかったんだろう。その後使ったやつが経験則から使い方を工夫した。さまざまな試行錯誤が現在の淹れ方に凝縮されているんだろう。我々も新たな挑戦だけは忘れないでいたいものだな。」
「まだまだ完成された抽出じゃないって事ですね。でもその前に腕を磨かなきゃ。」
「最近本当に前向きだな、お前。」
「仕事が楽しくって・・・。こんなに充実していたことは今までなかったと思いますよ。」
「そうか、仕事が彼氏のいない隙間も埋めてくれたのか。良かったな。」
「それはそれ、これはこれ!!一緒にしないでください!!」


 

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2008年09月30日

◆番外編 7.マキネッタ

毎度お越し頂きありがとうございます。番外編第7回をお届けします。
今回は、お店のお客様にお借りしたマキネッタを使用するようです。
皆さんも「お店にもあるはずなのになぜ?」とお思いでしょう。でも、オーナーの私にも詳しいことは内緒にしたままなんですよ。マスターのにやにやした笑いが目に浮かんで非常に気になります。

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「今日はマキネッタですね。マスターが変な予告をするから気になってしょうがないじゃないですか。」
「まあまあ、落ち着けって。それより前回の講習会のコメントにレスを書いていて思ったんだが、イタリアのエスプレッソは水蒸気を使うから水の硬度なんて関係ないな。」
「そういえばそうですね。蒸発する時はタダの水ですもんね。」
「まあ、結局は硬度の高い水で美味しい珈琲を淹れるために工夫されたものだとは思うがな。」
「なかなか人間の知恵って侮れませんね。」
「と言ったところで、イタリアつながりで今回のマキネッタだ。」
「基本的な淹れ方は予習してきましたよ。器具は持ってないので図書館で座学だけですけど。」
「せっかく状態が素晴らしいマキネッタを借りられたんだ、やらざるをえんだろう。それじゃあ始めようか。粉は店に置いてあるイタリアンローストを微細に挽いておいたからな。」
「それじゃあ覚えたとおりやってみますね。まず中のバスケットに珈琲の粉を詰めますね。こんな具合でいいですか?」
「まだまだだな。このダンパーでしっかり押さえてきっちり詰めるんだ。圧力がかかったときに均等に粉全体に蒸気が回るようにな。」
「わかりました。それじゃあ下のボイラーに水を淹れますね。」
「ダメだ、水ではなく湯を入れろ。」
「えっ?水から沸かすんじゃないんですか?」
「水から沸かしたんでは湧き上がる途中でも水分が上がっちまうんだ。エスプレッソって奴は短時間で一気に抽出するのがいいんだ。だからお湯を使って湧き上がるまでの時間も短縮する。」
「へ〜、実際にやってみるのと資料に当たるのではずいぶん違うものですね。」
「四の五の言ってないで続けろ。バスケットをセットしてサーバーを締め付けたら火にかける。下のボイラーは既に熱いから手袋をするのを忘れるなよ。」
「あれっ?五徳の上にうまく乗りませんよ。」
「日本のガスコンロには合わないんだ。ほら、そこに餅網があるだろ、それを使え。」
「はい。火にかけたらポコポコとすぐ音がし始めましたよ。」
「抽出が始まったんだ。音が変わるのを聞き逃すなよ。抽出の終了の合図だからな。」
「わかりました。これだけなんですか?特に難しいところはありませんね。」
「当たり前だ、家庭用の器具だぞ。それを小難しくしてどうするんだ。プロが使う場合は、常に均質な物を提供するためにテクニックを使うんだ。それでもう取り分けたのか?」
「はい、飲んでみていいですか?」
「ああ、以前に店のマキネッタで淹れた物と比較してみろ。」
「美味しい!!そうですね、以前の物に比べると苦味の鋭さが無くなったみたいです。まろやかになったって言ったらいいんでしょうか?それより香りが複雑になってずいぶん増していると思います。」
「これが25年大事に使ってきたマキネッタの実力だ。」
「時間が経つと何が変わるんですか?」
「それを知るにはマキネッタの使われ方から説明が必要だな。イタリアの家庭では毎朝これで珈琲を淹れている。毎日使うものだからサーバーやバスケットの中はさっと水でゆすぐ程度なんだ。」
「まあ、家庭にある急須を毎日しっかり洗剤で洗ったりしませんよね。」
「そうなんだ。だが、お茶と違って珈琲には油脂がある。これがサーバーの内側に付着して膜になっていく。これが芳醇な香りと柔らかさを生んでくれるようなんだ。」
「そうか、店にあるマキネッタはごくたまにしか使われないし、使った後洗剤で洗ってしまいますよね。」
「そうさ、だからこんなに大事に使われてきたマキネッタは貴重なんだよ。」
「だったらお店のマキネッタも洗わなければいいじゃない。」
「ばーか、家庭で毎日使っていればそれでもいいが、日本の気候と使用に間隔があるような使い方では逆に不衛生になっちまうんだ。黴がふいたらどうするんだ、まったく。」
「なるほど、うちのようなお店で使うには不向きなんですか。それで珈琲専門店ではマキネッタではなくマシーンの方が置かれている訳なんですね。」
「最近、理解が早くなったようだな。よろしい。」

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2008年09月08日

◆番外編 6.抽出に使う水

毎度お越し頂きありがとうございます。番外編第6回をお届けします。

今回はちょっと趣向を変えて「水」を解説していきます。
単に「水」と言っても水道水からボトル売りの輸入物まで様々にあり、どんな物を使ったらいいのか迷っておられる方もいる事と思います。
お嬢さんもその一人のようです。自分が愛飲している水を持ち込んで試しているようですね。

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「あれ?、おっかしいな?。私の舌に合う珈琲になるかと思ったのになぁ。」
「どうしたんだ?こんなに早くから。」
「あ、マスターお早うございます。ちょっと教えていただけますか?」
「なんだ?改まってどうしたんだ?」
「珈琲が思った味にならないんです。何がいけないんだろうってわかんなくなっちゃって…。」
「いいから最初から落ち着いて話してみろ。」
「だから、いつも飲み慣れてるこの水を使って珈琲を淹れたら私の好みの珈琲になるかなって考えたんです。それで沸かして珈琲を淹れてみたんですけど、どうしても酸味が変なんです。」
「ちょっと待て、そのボトルを見せてみろ。ああ、空のボトルでいい。…そうか、そのせいか。」
「何か解ったんですか?この間のカップルの時みたいに出し惜しみは止めてくださいね。」
「これは珈琲に関わることだからそんなことはしないよ。おまえ、この水うまいのか?」
「水道の水よりはね。慣れたから美味しく感じてるのかなぁ。」
「ふん、あんまり日本の食文化には合わんと思うんだがな。」
「どういうことです?そんな大きな話なんですか?」
「ああ、この水は硬度が高いからな。日本の水は基本的に硬度が低い。それに合わせて料理や飲み物が考えられているんだ。そのため硬度の高い水では味が変わってしまう。含まれているミネラルに反応するんだな。」
「じゃあ、この水を使ったのが間違いってこと?いい発想だと思ったんだけどな。でもでも、珈琲の本場、ヨーロッパでは硬度の高い水が一般的でしょ?どうしてるんだろう。」
「だからどちらかというと焙煎を深くして酸味の変質の影響を防いでいるんだ。どうしても淹れるそばから酸味の成分とミネラルが反応してエグくなっていくからな。」
「ああ、それで味が変だったのね。じゃあどうすればいいの?この水で美味しい珈琲は淹れられないのかしら。」
「まあ、はっきり言えばそうだな。うちのレギュラーブレンドでいえば、まず軽い酸味を表出させるのは至難の技だ。その代わりフレンチローストを施した豆たちなら何とかそれなりの味になるだろう。苦味だけの珈琲ばっかりじゃ価格でシアトル系のスタンドカフェには勝てっこないがな。」
「ふ?ん、私の腕のせいじゃなかったのならしょうがないか。それなら軟水系の水なら問題ないってことでしょ?」
「そういうことになるかな。だが、今の水道水も捨てた物じゃなくなったし、浄水器の性能も上がっているから、わざわざ高い水を使う意味が無いだろう。直接価格に響いてくるぞ。」
「なるほどね。あれほど珈琲豆にこだわっているのに、水をそれほど意識していない理由が解りました。」
「基本的に煮沸するんだ、水の匂いなどより濾紙の匂いの方を気にしなきゃならん。ただそれだけの事だ。優先順位の問題だな。」
「今の自分が考え付くようなことはマスターが調査済みってことですね。おみそれしました。今度から何か思いついたら相談するようにします。」
「いや、まず実験っていう姿勢は今後も続けなさい。こんな失敗が自分なりの味を見つける鍵になるはずだ。俺もお前に得意な分野を見つけてほしいしな。」
「頑張ります。って私なりの味?そんな大層な宿題出さないでくださいよ?。」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☔| Comment(10) | TrackBack(0) | 珈琲抽出研修会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年08月13日

◆番外編 5.フレンチプレス

毎度お越し頂きありがとうございます。番外編第5回をお届けします。

今回は海外ではかなり一般的な抽出方法なのになぜか国内では特殊な方法と誤解されている『フレンチプレス』を紹介します。
最近ではシアトル系のコーヒーショップなどでも器具が売られるようになって、目にする機会が増えていますが、ご自宅でお使いになられている方はそれほど多くはないと思います。どうしても紅茶の器具のイメージが強く、「これで珈琲を?」と思われるでしょうが、手軽さといい、ほとんどテクニックがいらないという意味でも家庭には最適の器具ではないかと私は思います。

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「おはようございます。あれ?今日は紅茶の講習ですか?」
「おはよう、思ったとおりの反応をありがとう。日本の一般的な家庭ではこいつは紅茶でしか使われないことがこれで証明されたようだ。」
「マスター?ひょっとして今日はこれで珈琲を淹れようってことですか?」
「ああ、『フレンチプレス』という器具だ。他には『カフェプレス』・『プランジャーポット』などと呼ぶこともある。メーカーによって呼び名が違うが、構造はほとんど同じだ。こんなに単純なものだからな、変えられる場所は網の部分ぐらいしかない。」
「家で紅茶を淹れるのに以前使ってましたよ。私の持っていたのは網の部分がナイロンのメッシュになってました。でも、これは金属の網ですね。どちらかというとペーパードリップとは対極にある淹れ方になりませんか?」
「どうしてだ?」
「結局、粉をお湯に接触させたまま放置するんですよね。前にサイフォンのところで教わった『浸漬法』でしたっけ。だから味の傾向もトルコ式やサイフォン式に似てくるんですよね?」
「おお、あの時の説明を覚えていたのか。」
「あたりまえです。私だってちゃんと頭はありますよ。」
「以前は頭は付いていても使っているそぶりが見られなかったのにな。」
「ああそうですか・・・。もう、いじるだけなら帰りますよ。」
「いや、そんなつもりじゃないんだ。最近はしっかりしてきたなと感動しているんだ、うん。多分そうだ。」
「ん、もう、マスターったら。褒めてくれてるんですか、それで?もういいです、進めましょう。」
「わかった、始めていこう。こいつは名前の通りフランスの一般家庭で珈琲を抽出するのによく使われてきた。単純な機構でメンテもしやすく、また、ペーパードリップみたいに常にお湯をコントロールする必要がない。タイマーさえ間違わなければ常にそれなりに一定の味が出せる優れものだ。」
「いいとこずくめじゃないですか?ずぼらなマスターがこの淹れ方で店を始めなかったのが不思議なくらいですね。」
「余計なことは言わんでいい。確かに楽なんだが、俺はあまり好みではないんだ。特に粉っぽくなるところがな。」
「ふ〜ん、試してみていいですか?」
「機構上あまり細かく挽いた粉は使えない。それからお湯との接触時間が長くなるのであまり強い焙煎のものは焦げた味が出るぞ。粉の量は通常通りでいいかな。」
「どばっとお湯を入れちゃだめですよね。豆を膨らませながら・・・と、どのくらい置けばいいんでしょう?」
「わからん。経験と勘で決めてみろ。まあ、あちこち見て廻ると3分ぐらいってのが標準だとされているな。その後、飲みながら修正をしていくしかない。」
「ええっ?ひょっとしてそれってお店で使うのはものすごく大変って事?」
「そうだ。いつも同じ状態の豆を同じメッシュで挽いて使うならこんなに楽な器具はないんだが、専門店のように数十種類の焙煎の違う豆を扱うためには、それぞれに最適な浸漬時間を見つけ出さなきゃならない。」
「美味しくない珈琲を延々と飲み続けるんだ・・・。ペーパーフィルターでよかった。」
「だがな、本当にぴったりとタイミングが合ったときの味は素晴らしいぞ。ペーパーにはないこくと味が出る。おいおい、そろそろ終わりにしないと過抽出になるぞ。」
「うえっ、この珈琲飲みたくないですぅ。珈琲液が澄んでないですよ。」
「濁りは仕方ない。構造上の問題だからな。その分ペーパーでは味わえない珈琲の油分も充分に含まれている。見た目での判断は禁物だぞ。」
「は〜い。じゃあマスターもご一緒にどうぞ。」
「えっ?俺もこれを飲むのか?俺の分はお前が納得したものだけでいいぞ。」
「ず、ずるい!一緒に飲んで修正方法を教えてくださいね。」
「変えられるのは浸漬時間だけだって言ってるだろうが〜!」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☀| Comment(8) | TrackBack(1) | 珈琲抽出研修会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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