2010年04月05日

◇一同心の訃報

ポカポカと暖かい日差しの公園で不思議な花を見ました。近くに居たお年寄りのカップルに花の名を教えていただきました。『まんさく』の花だそうです。
あの年代は花鳥風月と共に過ごしていらっしゃる。うらやましい限りです。公園を散歩するにも季節の花の名ぐらい覚えておかねば恥ずかしい気がしました。

そろそろ木々が芽吹いてくる季節となりました。
ところが、相次いで著名人の訃報が届いてきます。久しく聞かなかった名前もありますが、幼い頃から活躍を眼にしてきた役者さんが亡くなるのは特別悲しいものです。

マスターもお気に入りの方の訃報を耳にしたようで落ち込んでいるようです。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「亡くなっちゃったね。」
「ああ・・・。」
「好きだったんでしょ?」
「『てなもんや三度傘』の頃から見ていた役者だからな。時代劇の重要な役には欠かせなくなっていた。出てるだけで画面が締まる。」
「私はあんまり時代劇とか見ないけど、『必殺!』シリーズぐらいは見たことがあるもの。残念よね。」
「今年の1月に復帰したときは喜んだんだけどな・・・。この間放送されたスペシャルが最後になっちまうのかな。」
「シリアスからコメディまで、現代劇にだって代表作があるんだもの、追悼放送だってあちこちで組まれるんじゃないの?」
「残念なんだよ。今のシリーズもそうだが、重みが出てきた今になってやっと出来る役が、あの人にしか出来ない老人が見られるかなと期待していたんだ。O滝のようではない新たな老人像をもっと見せてもらえると思っていた。いつも『あんな男』になりたいと思わせてくれていたんだ。」
「普通、憧れるんならアクション映画のヒーロー役だったり2枚目の役者さんじゃないの?」
「いいや。自分のことは判っていたからな・・・。頑張ったってM方やS原にはなれっこないし、義理人情の方面に就職する気はさらさらない。かといって自分の容姿は褒められたもんじゃない。3枚目を気取る勇気も器量も頭もない。」
「そっかぁ、マスター世代の普通のおじさんの理想像なのかぁ・・・。上司や部下なんかじゃなく自分がなりたい姿を映していたんだ。」
「老いてなお、自分の人生に胸を張って生きられる。衰えなど微塵も見せない。そんな姿を見続けたかった。」
「最後までかっこよかったよね。病から復帰して、TVシリーズのスペシャルを撮ったと思ったらあっけなく亡くなっちゃうなんて。遣り残していた気になっていたのかなのかなぁ。」
「でも死んじまったらカッコいいも何もないだろう。しかし、このところのアイドルや大物女優の孤独死にも驚いたが、そんなのは今回の比じゃなかったな。初めてTVニュースで見たときは番組の予告かと思ったぐらいだったからな。ネットのニュースサイトをいくつか廻ってやっと納得したよ。それでもなんだかその日1日何にも手に付かなかったなぁ。」
「マスターがパソコンを前にネットサーフィン?そんな事するようには見えてなかったなぁ。似合わな過ぎ!」
「俺をどんななんだと思っていたんだ。スポーツ新聞を片手にごろ寝しながらTVで競馬中継なんておじさんは最近貴重だぞ。インターネットに関してだってこの商売には不可欠なんだぞ。豆や砂糖の取引価格だけじゃない。生産地の動向だって気にしているんだ。ちなみにうちの店内はどの席でもフリーの無線LANが使えるようにはしてある。おやっ?怪訝そうな顔つきだな。この件は以前に説明しておいたと思ったが・・・?」
「えっと・・・、あれっ・・・?そんなことありましたっけ?あはは・・・覚えてませんでした・・・。」
「また常連にからかわれるネタが一つ増えたってことか。多少はまともになってきたと思ったのは俺の勘違いだったのかな。これはあいつと相談して減俸も考える必要がありそうだな。」
「それは・・・。あっ!そうやっていじるのだけは止めてくださいよぉ!」

続きを読む
posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☔| Comment(2) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月31日

◇倉庫の肥

年の瀬も押し迫り、商店街では正月用品を売る胴間声が響き渡っている。
食品だけでなく松飾やしめ縄の屋台も出ているようだ。コート姿の奥さんがご主人たちを引き連れて買い物をしている姿が目に付く。

今年の営業は今日まで。
裏で倉庫整理のバイトをしていた若い常連客が気になるものをみつけたらしく、カウンター席に持ってきてマスターに声を掛ける。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「マスター、これなんですか?」
「あ〜?お前、触らなくてもいいと言ってあった場所まで動かしたのか?」
「う、うん。置き場所を整理していたら、あの場所の方が都合がよさそうな分量配分になっちゃったから、場所を少しだけ動かして見渡しがよくしようと思ったんだ。」
「そうか・・・。しょうがないな。まあ、本来あそこに有っちゃいけないものだからな。動かされても文句は言えんな。」
「き、危険物?」
「いや、俺の私物なんだ。店の営業に関わる物ならば問題ないが、家に置いておくことが出来なくなったものなんだ。息子たちが伝い歩きをするようになって手が触れる場所に設置したままでは危なくなったからな。」
「って言うと、上のお子さんが中学生だから開店当初から倉庫に入れっぱなしなんですか?」
「そうか、そういうことになるのか。」
「それで最初の質問なんですけど・・・。」
「俺のオーディオ機器だ。あそこに有るのはスピーカー4本とプリアンプ・パワーアンプ、ターンテーブルとレコードの山のはずだ。ちなみにお前が持ってきたのはパワーアンプだよ。」
「ううっ、僕には何のことやらさっぱりわかりません。何をするものですか?」
「お〜い、バイト終わったのか?ああっ、マスター。それどうしたんですか?懐かしいなぁ。」
「これに反応するなんてお前、歳ごまかしてないか?いい加減俺の世代でもクラシックな機器の部類に入るんだぞ。」
「昔叔父さんちに有ったんですよ。大きなスピーカーに繋いで結構な音量でジャズを聴いていたんです。」
「近くに愛好家がいたんだな。こいつを使っているってことはかなりのシステムだったんだな。」
「マスター、置いてけぼりにしないでくださいよ。お前もお前だ、突然割り込んできやがって。」
「そうか、お前この手のメカ物に弱かったな。これは25年ほど前に発売されたパワーアンプってもんだ。」
「そこまではマスターに聞いた。いったい何をするものかが判らないから聞こうとしていたんだ。」
「簡単に言うとプリアンプから出た電気信号を増幅してスピーカーに供給するための機器だ。」
「ぷり?アンプってギターとかで使うのは一つだぜ?」
「やってることは同じなんだがな。目的が違うのさ。あっちはスピーカーまで付いているし音を故意的に歪ませる事も前提にしているが、オーディオ用は歪まないのが原則だ。二つに分かれているのはそれぞれに必要とされる特性が違い、別にすることでそれぞれの機能向上が目指しやすいからさ。」
「こいつにはボリュームのつまみってついてないよ?」
「ああ、純粋に増幅だけをさせるために余計なノイズ発生源を省いてあるんだ。音量や音色の特性を調整するのはコントロールアンプがすることだからな。」
「?コントロール??」
「ああ、プリアンプは本来コントロールアンプって呼ばれている。ボリュームやセレクターがいっぱい付いた奴だ。」
「そういえば一緒に置いてあった。あれだけじゃスピーカーから音が鳴らせないってこと?」
「マスター、プリは何を?っていうよりなんで倉庫なんかに押し込めちゃっているんですか?もったいない。」
「伝い歩きを始めた息子が、丁度眼の高さにあったプリのボリュームをいじってな、ツイーターを飛ばしてくれたんだ。それも2度も・・・。」
「近所迷惑な・・・。置き場所を・・・ああ、そんな訳にはいかないんですね。」
「ああ、ブロックやらレンガやらの重量や配線の問題もあって・・・。そのうちスピーカーのコーンもやばいだろうってことになったし、店の開店で夜も昼も無くなったから封印することにしたんだ。」
「10年も放置されていたんだ・・・。駄目かもしれませんね。電気機器は通電しないと傷みが早いって言いますよ。」
「そうだな。この正月休みに点検してみるか。おい、倉庫内の新しい地図用意しておいてくれよ。」
「ちゃんとできてますよ。点検するときは教えてくださいね。どんな音がするのか聞かせてください。」
「そうだな。生きてればこの店を名曲喫茶にでもするか。」
「いまさらそんな後ろ向きな改装は止めてくださいね。」


 

続きを読む
posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☀| Comment(6) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月10日

◇カード占い

暖かな日差しはあるのだが、空気は凍てついている。
北風が乾いた落ち葉を店の前に吹き寄せてくる。

高校生の常連の妹が中学の制服を着たままカウンターの隅に座って、おいてあったトランプを手に一心に繰り返している。
その真剣な表情に興味を持ったマスターがカウンター越しに声を掛ける。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「おい、制服のままで大丈夫か?」
「大丈夫、先生が来たって言い訳は考えてあるわ。おにいが来れば問題なし!!」
「ずっと何をやっているんだ?」
「カードで恋占い、マスターも占ってあげようか?」
「中学生にそんなことをしてもらわんでもいいが・・・。さっきから繰り返し何度もやっているように見えたが、どうしたんだ?」
「えっと〜・・・、今日の帰りがけに、男の子に付き合って欲しいってコクられちゃったんですけど・・・。彼はほんとに私のことが好きなのかな?付き合うことに興味があっただけじゃないかな?なんて思い始めちゃって、これをやってみてるんですけど、いい結果には一度もなんないんです。」
「それで何回も繰り返していたんだな。ということはだ、結局お前は彼に告白されたことを喜んでいるんだろ?だったら相手の本気度なんてどうだっていいんじゃないか?」
「そうなんだけど・・・嬉しかったんだけど・・・。ここでいい結果が出れば一歩踏み出せるかなって・・・。」
「そんなもんなのか?でも、占いの結果なんかに振り回されていたんじゃいつまでも男を見る眼なんか成長しないぞ。今は自分はどうしたいのかをはっきりさせることの方が先だな。曖昧に相手を放置するのは勇気を振り絞って伝えてきた彼に対して失礼だろ?」
「そうね・・・。私の気持ちをちゃんと返さないといけないのね。ありがとうございます、マスター・・・。」
「恋占いの方法なんかより、先に進みたくない相手をかわすテクニックの方が役に立つからな。よーく常連のお姉さま方にその辺のことを聞いておくんだな。」
「マスターってば・・・。あれっ?このトランプ枚数が足らない?」
「ああ、お客の忘れ物だからな。舞い上がっちまっててそんなことにも気付いてなかったんだな。」
「なあんだ、どおりで出てこないはずよね、ハートのエース。祈るように何回もやっていたなんて馬鹿みたい。」
「カード占いなんてそんなもんだ。カードなんかに人の気持ちを左右されてたまるか。ほら、雪苺ラテだ。これでも飲んでじっくり返事でも考えるんだな。」
「ありがとう。温かくて甘酸っぱいいい香りね。」
「クリスマス・シーズンになれば苺が手に入るからな。こんな味を出せるのもこの時期だけだ。それはそうと相手の男はどんな奴だ?兄ちゃんの連れの2枚目に惹かれてここについてくるようになったお前のことだ、喜んでるところを見るとやっぱりカッコいいんだろ?」
「ううん、顔は普通。背もそんなに高くないし・・・、でも一緒に班活動していると楽しいの。」
「ふうん、そんなもんか。俺はてっきり・・・。まあしばらくは兄ちゃんには内緒にしておいてやるから、付き合うことになったら一緒においで。お祝いに美味しいものを出してやるよ。」

 続きを読む
posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月25日

◆番外編 15.農作被害

各地に猛威を振るった台風が過ぎた。
以前から停滞していた雨雲を全て連れ去ったかのような青い空が広がっている。
通過後しばらくは強風が吹き荒れていたが、今はそれも治まったようだ。

強めの日差しではあるが確実に秋の気配をはらんだ風の匂いが心地良い。
強風にも耐えた曼珠沙華の朱が誇らしげである。

ウエイトレスがカウンター越しにマスターに質問をしているようだ。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「ねえねえマスター!今回みたいな台風って珈琲に影響あるの?」
「そうだな、珈琲農園のある地域を直撃して不作になったら多少価格に影響は出るな。」
「珈琲の生産地って確か・・・?」
「ああ、台風とおなじ熱帯性低気圧が発生するまあご近所だな。サイクロン・ハリケーン・台風と発生地域で名称は変わるが同様のものだ。」
「ご近所って・・・?」
「ふんっ、そんなことも知らんのか?コーヒーベルトは回帰線近辺の内側、いわゆる赤道近辺をを指すが、熱帯性低気圧の発生地域はそれに重なってはいるが赤道近辺だけは含まれないんだ。」
「それなら中央アメリカの国々なんかは直撃は少なそうですね。」
「それに熱帯性低気圧は海上でないと発生しないし発達もしない。」
「内陸の生産地も大丈夫ってことですね。そっかぁ〜、日本に居ると台風って秋の定番みたいに感じるけど、そう思っているのは大洋に隣接した地域の人たちだけなんですね。」
「そういうことになるな。しかも世界中で年間90個程度発生しているが、南半球分が約30個、西太平洋から日本方面に30個程度くるから他の地域には30個程度しか向かわないんだ。だから直撃確率もかなり少ない。」
「へ〜、そんな確率なんですね。でも直撃しちゃったら・・・?」
「被害状況にも因るが、農園全体がやられちまったら3年間はその農場からは生産されなくなっちまうはずだ。生産できるようになっても元のような豆が作れるとは限らない。」
「自然を相手にした農業って大変なんですね。」
「だがな、そんな突発的な気象被害は一部に限られるんだ、実は。生産農家が最も恐れているのは冷害なんだよ。」
「あんなに暑いような地域なのに?」
「思い出してみろ、珈琲豆のグレードは何で決まることが多いんだ?」
「えっと・・・、不純物の混入度合いはこの際関係がないから・・・高度?そうか、温度差が大きすぎても問題が発生するんだ。」
「正解。昼間に温度が上がりきらず、そのまま放射冷却で温度が下がったら下手すると霜が発生する。それが続いたら一気に冷害・霜害となる。この方が熱帯性低気圧の被害より確率は何倍も大きいんだ。」
「ぎりぎりの限界点で栽培されているからなんですね。」
「植物にとって少しぐらいのストレスがあった方が、いろんな意味で有効な育成条件になるんだな。よく言われるのが果実の結実後は水遣りを控えると糖度が増すとか、麦の新芽は踏むことにより茎が太く倒れにくくなるなんてのがある。」
「人間でもそうですね。甘やかされるよりは厳しく鍛えられた方が結果が付いてくるようなところがありますもんね。」
「まあ、『与えられた環境の中で生き残った』奴が植物でもよりうまくなるってことだ。台風にも温度変化にも耐えてきた豆こそがスペシャルな豆となりうるってことだ。」
「そうですね。・・・あ、ひょっとして、やっと本題に戻ったってほっとしているでしょう。」
「今回は収拾つけるのが難しかったんだぞ。」
「マスターがあちこち広げすぎるからですよ。」

続きを読む
posted by 銕三郎 at 12:00| 東京 🌁| Comment(6) | TrackBack(0) | 珈琲抽出研修会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。