2008年09月14日

◇ブレンドの危機

晴れた昼間はまだまだ日差しが暑く感じられるが、朝夕はずいぶん過ごしやすくなった。

今年は台風の直撃はまだあまり無いようだが、カリブ海地域ではハリケーンの被害がかなり出ているようである。
農作物である珈琲は天候不順に覿面に影響を受ける。農園が全滅することもまれではない。もし、お店で扱う豆の生産地が被害にあった場合、最低1年はその豆が入手できないことになる。

お店の中ではマスターが困り果てている様子でウエイトレスを待っているようだった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「お早うございます。あれっ?マスター浮かない顔ですね。」
「2〜3日は店が開けられんぞこりゃ。」
「え、どうしたんですか?ガスや水道が止められたんですか?」
「バカ言ってんじゃない。2日前に入ってきたレギュラーブレンドの豆なんだが、味がおかしいんだ。昨日でその前の分を使いきったんで、夜のうちに味見をしたんだ。疲れてもいたから違和感があったんだろうがあまり気にしなかったんだ。だが、さっき淹れたのがこれだ。ちょっと飲んでみろ。」
「わかりました。ん、おやっ?本当に変ですね。酸味の質が違うみたい。どうしちゃったのかしら?」
「何かの手違いだといいが、そろそろ前に話したモカの輸入停止が効いてきたのかな。豆屋の始業時間になったら電話で確認してみよう。最悪だとこの店のブレンドを変えなきゃならん。あまり誤魔化すような手は使いたくないが、この際はしょうがないな。いろんな豆を試してできるだけ近い味のブレンドを再現する。今日中にテイスティングを終わらせて新ブレンドのレシピを決めないといけないかもしれんな。ぼ〜っとしているがお前も手伝うんだぞ。」
「ええっと、私は構わないですけど、何をお手伝いすればいいんですか?」
「抽出とテイスティングを繰り返す。ただそれだけだ。」
「それだけなんですか?それじゃあ私なんかじゃ役に立ちそうもないですよ?」
「充分に仕事をしてもらうことになるぞ。俺はずっと評価を続けなきゃならん。時間が無いからな。豆屋から持ち帰った焙煎済みの豆を挽いて、淹れるのがお前の役目だ。」
「ひぇ!重要な役目じゃないですか。私なんかでいいんですか?」
「この店できちんと淹れられるのはお前と俺しかいないだろうが。俺は豆の選別や配合率の調節も行うからな。お前しかいないんだよ。」
「開店の時はどうしたんですか?マスターとオーナーだけだったんでしょ?オーナーが珈琲を淹れられるとは伺ってませんが?」
「ああ、あの時は時間が充分あったからな。2〜3種類を焙煎しては挽いて淹れてを毎日繰り替えしていた。オーナーは味見と記録をしてただけだ。」
「そっか、お店をそんなに閉めてられないですもんね。私、頑張りますよ。」
「そろそろ豆屋の親父も起きてるだろう。電話してみるか。」
「私はとりあえず何をすれば…?」
「今のうちに食い物の買出しをしておいてくれ。立ったまま食えるようなものを2食分位あればいい。飲み物は嫌って言うほどできるからいらないぞ。それと戻ったら車の用意をしておいてくれ。一緒に豆屋の倉庫へ行くんだからな。」
「わかりました。じゃあ商店街に行ってきます。」
「ああ、俺の財布はそこにある。領収書を忘れるなよ。」

続きを読む
posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ??| Comment(6) | TrackBack(0) | 珈琲抽出研修会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年09月08日

◆番外編 6.抽出に使う水

毎度お越し頂きありがとうございます。番外編第6回をお届けします。

今回はちょっと趣向を変えて「水」を解説していきます。
単に「水」と言っても水道水からボトル売りの輸入物まで様々にあり、どんな物を使ったらいいのか迷っておられる方もいる事と思います。
お嬢さんもその一人のようです。自分が愛飲している水を持ち込んで試しているようですね。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「あれ?、おっかしいな?。私の舌に合う珈琲になるかと思ったのになぁ。」
「どうしたんだ?こんなに早くから。」
「あ、マスターお早うございます。ちょっと教えていただけますか?」
「なんだ?改まってどうしたんだ?」
「珈琲が思った味にならないんです。何がいけないんだろうってわかんなくなっちゃって…。」
「いいから最初から落ち着いて話してみろ。」
「だから、いつも飲み慣れてるこの水を使って珈琲を淹れたら私の好みの珈琲になるかなって考えたんです。それで沸かして珈琲を淹れてみたんですけど、どうしても酸味が変なんです。」
「ちょっと待て、そのボトルを見せてみろ。ああ、空のボトルでいい。…そうか、そのせいか。」
「何か解ったんですか?この間のカップルの時みたいに出し惜しみは止めてくださいね。」
「これは珈琲に関わることだからそんなことはしないよ。おまえ、この水うまいのか?」
「水道の水よりはね。慣れたから美味しく感じてるのかなぁ。」
「ふん、あんまり日本の食文化には合わんと思うんだがな。」
「どういうことです?そんな大きな話なんですか?」
「ああ、この水は硬度が高いからな。日本の水は基本的に硬度が低い。それに合わせて料理や飲み物が考えられているんだ。そのため硬度の高い水では味が変わってしまう。含まれているミネラルに反応するんだな。」
「じゃあ、この水を使ったのが間違いってこと?いい発想だと思ったんだけどな。でもでも、珈琲の本場、ヨーロッパでは硬度の高い水が一般的でしょ?どうしてるんだろう。」
「だからどちらかというと焙煎を深くして酸味の変質の影響を防いでいるんだ。どうしても淹れるそばから酸味の成分とミネラルが反応してエグくなっていくからな。」
「ああ、それで味が変だったのね。じゃあどうすればいいの?この水で美味しい珈琲は淹れられないのかしら。」
「まあ、はっきり言えばそうだな。うちのレギュラーブレンドでいえば、まず軽い酸味を表出させるのは至難の技だ。その代わりフレンチローストを施した豆たちなら何とかそれなりの味になるだろう。苦味だけの珈琲ばっかりじゃ価格でシアトル系のスタンドカフェには勝てっこないがな。」
「ふ?ん、私の腕のせいじゃなかったのならしょうがないか。それなら軟水系の水なら問題ないってことでしょ?」
「そういうことになるかな。だが、今の水道水も捨てた物じゃなくなったし、浄水器の性能も上がっているから、わざわざ高い水を使う意味が無いだろう。直接価格に響いてくるぞ。」
「なるほどね。あれほど珈琲豆にこだわっているのに、水をそれほど意識していない理由が解りました。」
「基本的に煮沸するんだ、水の匂いなどより濾紙の匂いの方を気にしなきゃならん。ただそれだけの事だ。優先順位の問題だな。」
「今の自分が考え付くようなことはマスターが調査済みってことですね。おみそれしました。今度から何か思いついたら相談するようにします。」
「いや、まず実験っていう姿勢は今後も続けなさい。こんな失敗が自分なりの味を見つける鍵になるはずだ。俺もお前に得意な分野を見つけてほしいしな。」
「頑張ります。って私なりの味?そんな大層な宿題出さないでくださいよ?。」

続きを読む
posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ?J| Comment(10) | TrackBack(0) | 珈琲抽出研修会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年09月03日

◇一月が経って…

夏休みも終わりが近づいた水曜日。朝から強い日差しが道路を灼いている。
店の表のシャッターに貼り紙をしたマスターが商店街のアーケードの下を駅に向かって歩いていく。
そのまま駅には向かわず、反対側の商店街の中程にある駐車場に向かっているようだ。
今日は移動販売店が営業しているはずだった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「あれっ?マスター、お店どうしたんですか?」
「出かける用事ができちまったんで、シャッターに臨時休業の貼り紙してきたよ。お前は今日この後は夕方に出勤だろ?そんな時間まで店開けられんようじゃ、休みでいいだろうと思ってな。そこでせっかくだからちょっと早いが出かけることにしてお前の様子を見にきたんだ。」
「そんな、こっちはちゃんとやってますから大丈夫ですよ。言ってくださればこの後すぐお店戻って開けますよ。せっかく来て突然休みだったらお客さんが可哀想ですよ。いいです、そうします。あの子にはちゃんと10時には開店するって連絡しといてくださいね。」
「いいのか?俺が戻れるのは遅くなるかも知れんぞ?」
「平気ですよ。たまにはいいじゃないですか。用事、きちんと済ましてきてください。」
「すまんな。と、それはそれだが、お前何て恰好で仕事してんだ!」
「えっ?いけませんか?結構好評なんですよ。中にはガン見していくおじさんはいますけど。」
「あのなぁ、一応分店の扱いなんだぞ。暑いからって、ビキニにエプロンって…。店の方まで誤解されたらどうするんだ。」
「短パンは穿いてるんだしいいじゃないですか。戸外なんで暑いんですって。商店会のおっちゃんも『マスターにお願いしてよかった』って言ってくれてるのよ。」
「しかしもう夏も終わりだからな、いい加減露出は控えろよ。」
「あ、そうそう、初日にオーナーが様子を見にきてたわよ。こっちまでこればいいのに、道の向こう側でずっと見てるの。やっぱり心配だったのかなぁ。」
「お、お前初日からその格好だったのか?」
「うん。事前に試したとき、エアコンが無い野外だって気づいて、夏の間はこの格好でって決めてたの。冬になったらどうしようかな。また考えておきますね。」
「あいつも驚いたんだろうな…。ショックで寝込んで無いといいが。まあやっちまったもんはしょうがねぇか。どうだ、一人で切り盛りするってのは?」
「準備する数量を予想するのが難しいですね。最初は足らなくなって早めに閉めたし、2回目は朝から暑かったのもあってホット関係を大半余らせちゃいました。まだまだこの状態で抽出まではできませんね。」
「最初はそんなもんだろう。大変だが頑張ってみろ。絶対にお前のためになると思ってるからな。」
「全然大丈夫ですよ。お店の中とはまた違って面白いです。逆にお店に戻ると、こことのギャップがあってテンションを戻すのが大変です。」
「今も普段と変わらんように感じているのは、俺の気のせいか?まあその恰好で店に立たれても困るが。」
「もうっ、マスターったら。そんなこと言うとお店に戻んないからね。」
「それは困る…というより絞め殺される・・・あわわ。わかったからそんなふくれっつらをするな。それじゃ今日頼んだぞ。ほら、電車が止まった。お客が来るな、それじゃあ行ってくる。頑張れよ。」
「いってらっしゃい。お土産、期待してますよ。」

続きを読む
posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ????| Comment(2) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年08月28日

◇盛夏の終わりの落花生

世間の学校では夏休みもそろそろ終わりに近づいてきた。
残った宿題の追い込みに手を貸すように連日冷たい雨が降り、あたかも秋雨が一足先にやってきたかのようだ。
蝉の声もまれにしか聞こえなくなり、もっぱら夜はコオロギたちの声が辺りを満たし始めている。

開店するとすぐに窓辺の席に座った高校生のカップルは、今日のデートコースを確認しているのか、二人の間に置いた雑誌を覗き込んでいる。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「おまえ、この夏はずっとレモンスカッシュばっかりだな。」
「暑くて、なんだかさっぱりしたものがよかったのよ。あなたこそアイスコーヒーにミルクも砂糖も入れないで、大丈夫なの?ホットの時だってブラックなんか飲まなかったのに。」
「ここに通うようになってコーヒーの美味しさがちょっと解ったきたのかな。砂糖を入れないアイスコーヒーの甘さが感じられるんだ。」
「苦いだけじゃないの。私は夏の間はこれでいいわ。涼しくなったらいつものに戻るから。」
「これ、どうしたんだ?殻付きのピーナツなんて。」
「マスターに頂いたの。モーニングを食べないんなら、これだけでも胃に入れておけって。」
「へ〜。テーブル散らかっちまうのに。」
「だからちゃんとティッシュの上で剥いているのよ。あなたも食べる?これが最後だけど。」
「サンキュ。それじゃあそろそろ出掛けようか。」
「そうね、今からならあまり待たないで入館できそうね。」
「出発出発っと。あれ?どうしたの?」
「ダメ!振り向いちゃ!ストッキング直しているだけだから先に行ってお会計しておいて。すぐに行くから、ね。」
「わかったから、早く来いよ。」


「あの二人またデートね、腕組んで出かけていったわ、羨ましい…いや若いカップルっていいわね。」
「あいつらいつもどこに出かけているんだ?」
「美術館とかデパートの展覧会とかみたい。健全な高校生ね。でも不思議ね、あの娘いつも黒いストッキングを履いてる。」
「ひょっとしていつもタータンチェックのスカートもはいてるだろ?」
「そうだったかしら…そうね、そうかもしれないわね。でも、どうして?マスターがそんなことを知っているの?」
「ふ〜ん、そうか。しかしふっるい物を願掛けだかゲン担ぎのネタにするものだな。」
「ええっ?なになに?またマスター一人で気付いて悦に入ってる訳?教えてくれたっていいじゃないの。」
「いろいろ調べればわかるさ。得意だろ?サイフォンの時のように図書館でもネットでも使って調べればいいじゃないか。」
「冷たいわね。いいわよ、またあの時教えてくれた子に聞いてみるから。でも、最近こないわね?」
「聞いてなかったのか?あいつ、この夏どこかでホームステイするって言ってたぞ。語学力を強化するって言ってたな。」
「何よ、必要な時にいないなんて、常連だなんて言えないわね。ねえマスターったら。教えてちょうだいよ〜。」
「まあ頑張って見つけろよ。ほら、お客さんだぞ。」

続きを読む
posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ????| Comment(10) | TrackBack(0) | 珈琲症候群 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする