2009年04月17日

◇新しい風

新しい年度が始まり、桜吹雪の中を歩いてゆく真新しい制服や鞄がまぶしく感じられる。
お店の客も顔ぶれに見慣れない顔がポツリポツリ見られるようになった。まだ店に馴染むには時間を必要とすることだろう。
お店の方でも新しいことを始めたようだ。人が少なくなった午後の店内に、珈琲ではない食欲を掻き立てる香りが漂ってきた。
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「あれれ?マスター、この香りはなに?」
「やっぱり匂うよな・・・。これはやっぱりよした方がいいかな・・・。」
「いったい何なの?新メニューの開発でもしてるのかな?」
「これだけカウンターに匂ってくるようじゃあどうしたものかな。お客によっては珈琲の香りにこだわっているのもいるからな。」
「シチューなのかな?美味しそうな香りだよ。別に珈琲の香りを邪魔しているわけじゃないし食欲をそそられるよ。僕もおなかがすいてきちゃった。」
「どちらにしろ仕込みの問題の方が大きいわけだが…。」
「マスターってば、僕にも味見させてよぉ。こんないい匂いかいでいたら、頭の中食べることしか考えられなくなっちゃうよ。」
「坊やの休日にはどうするかってのと、ランチ時に何食用意するかってところか。双方を含めて最初のランチ専用メニューとしてレポートを提出させてみるか。」
「マスター!!我慢できないよぅ!ねえってば!!」
「あれっ?お前、そんなところにいたのか。何怒っているんだ?」
「うそ〜っ、ひどいよぉ、ずっと声かけてるのに。ねえねえ、僕が味見する!!」
「馬鹿言ってるんじゃない。今日は賄い用のおかずを作らせているんだ。客に出すための物じゃない。」
「でも、マスターの独り言を聞いているとランチメニューの試作をしているのはバレバレだよ。いいから味見させてよ。もう口の中涎だらけで気持ち悪いんだから。」
「そんなのはもう一杯珈琲を飲んどきゃさっぱりするぞ。追加注文は何がいい?」
「あ〜っ、常連の僕にそんな扱い?ひどいよマスター。」
「何と言われようが出さないものは出さない!諦めるんだな。」
「ちぇっ!僕の頭の中にはテーブルに並んだイメージで溢れているのに。」
「ふ〜ん、そこまで腹が減っているんだったら帰って食事して来い。」
「そんな〜、メニュー化するときの参考にしてくれればいいじゃない。参考になったら一口味見させてよ。」
「判った判った、お前は言い出すときかないからな。良ければ味見させてやるから。言ってみな。」
「やったね!じゃあ聞いてよ。この店のテーブルってあまり広くないものでしょ?大きなシチュー皿やスープ皿は無理だと思うんだ。だからファミレスなんかでドリアに使っている小振りの耳のある丸いグラタン皿に入れるのがいいと思うんだ。それから付け合せはカリッと焼いたフランスパンのスライスを2枚、バターは別添えで。グリーンのミニサラダも付くといいな。これに珈琲を合わせてプレートに載せればいいと思う。そうすればいちいち武器セットを事前にテーブルにセットする必要も無いでしょ?」
「ふ〜ん、随分具体的なイメージだな。だが、プレートにすると珈琲を飲み終わるまで下げられないってデメリットもあるんだ。それにだ、それらが全部載るプレートだとテーブルにはそれ以外何も載らなくなりそうだな。」
「やっぱりね。欲張りすぎたかな…?」
「いいや、ドリア皿とフランスパンはいいな。量の調整をパンの枚数でできるのは大きいよ。グリーンサラダなら店にある既存の食材で何とかできるしな。」
「どう?味見させてくれる気になった?」
「でも、その辺のカタログ雑誌や女性誌のグラビアにありそうなイメージでしかないぞ。もう一捻り欲しかったな。まあいい、わざわざ考えてくれたんだ、店内じゃちょっと差しさわりがあるんで、裏に行って坊やに分けてもらえ。」
「ありがとう、マスター。やったね!!」
「さっさとこのマグカップとスプーンを持って行って来い。味の保障はできんからな。」
「大丈夫だよ、この香りなら間違いなく美味しいよ。」
「喫茶店でもカフェでもないんだ。ランチなんか始めて大丈夫かな?」
「平気だよ。僕を含めて昼間に少し重めの軽食を加えて欲しいって思っているお客は少なからずいるよ。絶対歓迎されるって。」
「いや、お客の問題じゃないんだ。こちら側の問題だな。カウンター内が廻るかが重要なんだ。」
「そうか〜、週に3日はお姐さんはあっちだもんね。モーニングのバタバタが終わったらすぐランチの準備なんだね。確かに忙しそうだ。」
「慣れるまでは完全に数量を限定しないとやり切れないないだろうな、坊やも俺も…。」

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2009年04月08日

◇兄貴の本棚

休日の夕暮れ。そろそろ陽が傾き始めた。
商店街のアーケードのおかげで早い時間から店の前に影が伸びてくる。

店頭の行灯と看板に明かりを入れたウエイトレスが、道路に面したボックス席のガラス窓にかかるレースのカーテンを引こうとその席に座る女性客に声をかけた。
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「お客様、お寛ぎの所申し訳ございません、外が暗くなってきたのでカーテンを閉めさせていただきたいんです。前を失礼いたします。」
「あらやだ、夢中になっていて御免なさい。もうそんな時刻なのね。」
「うちの方は大丈夫ですよ。随分熱心にお読みになられてましたね。その本面白いんですね。」
「これ?兄貴の本棚から勝手に持ち出したの。いつもはHQやBLぐらいしか読まないんだけど、冊数と雰囲気に惹かれて第1巻を読み始めたら止まらなくなっちゃったの。先は長いから最新刊までたどり着くのはいつになるか分かんないわね。」
「いいですよね、兄貴の本棚って。自分とはまったく傾向の違う本が並んでいるんだけど、なんだか心惹かれるタイトルがあったり、その人にまったく似合わないタイトルがあったりして。」
「普段は見せないようにしている兄貴の本質が見えてくるわね。この本もコンピュータ関連の本の後ろにびっちりと並んでいたのよ。聞いたらずっと読み続けてきたんで途中で止めるなんて考えられないっていってた。」
「ずっとっていつ頃から読まれているんですか?」
「この第1巻の奥付を見ると20年くらい前になるかしら。でも、初版じゃないのよ。」
「じゃあ私が物心ついた頃から続いているんですか?TVのサ○エ○んみたいな物ですね。」
「えっと・・・、それとはちょっと違うかもしれないわね。あれみたいに1話完結するのなら途中から読み始めたって何とかなりそうだけど、歴史を追うように続いているから、前後関係がわからないと理解できないって兄貴に忠告されたわ。確かにそうなのよ。たとえば今まで読んだ中でも一旦表舞台から退場してしばらくしてから再登場した人物群があるんだけど、以前の部分をきちんと読んでいないと、主人公との複雑な関係が全くわからなくなっていたところよ。」
「そんな面倒なの私にはお手上げですよぉ。登場人物多いんですよね。ただでさえこの店の常連さんの名前だって覚えきれないでいるんですから。」
「新刊の刊行と同時代で読んでいる人たちにとっては大して苦ではないんでしょうけど、後から追いかけて読み始めるのにはハードルはかなり高い気はするわね。」
「でも、追いつく気なんでしょう?はまっちゃったんですね。」
「そうね。でも、兄貴が見てきたものを後追いして、共通の話題にできるようになれたのは良かったかな。兄貴とは歳も離れていて、私には頭は固いし全然かみ合わない世界に住んでるって思っていたから。あいつを理解するきっかけを見つけた気がするの。」
「そうなんですか?私には兄弟がいないんで、そんな話を聞くとすぐに彼氏とかに置き換えて考えちゃうんですけど、それとは違った距離感なんですね。」
「彼氏だったら何か接点があるから一緒に居るんですもの。家族とはちょっと違うわね。それでも歳が近ければ見てきたものも似通っているからそうでもないんでしょうけれど、兄貴とは一緒に遊んだ記憶も無いのよ。赤の他人よりたちが悪いわ。」
「確かにあのお兄さんなら判る様な気はしますが・・・。あれっ?いっけな〜い。すっかり話し込んじゃった。マスターがこっち見てるんで失礼します。」
「御免なさいね、仕事の邪魔しちゃったわね。」
「いいえ、私の方こそ読書の邪魔しちゃいました。あっ、お店の方は暇なんで大丈夫なんですよ。マスターったらカウンターに誰もいないんで話し相手が欲しいだけなんでしょうから。」
「ひどいわね。マスターに怒られるわよ。」
「いいんですよ。その点は慣れてますから。それじゃあごゆっくりどうぞ。」

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2009年03月30日

皆様のおかげです2 〜なんだかんだで2周年〜

ご来店いただいている皆様、毎度ありがとうございます。

このたび、3月28日をもってこの「お店」も2年を経過しました。総記事数は124回です。
今年度はのべ18,995人の方のご訪問、51,204ページのご閲覧をいただきました。一日当たり52人/140頁になります。お越しいただいた方々、本当にありがとうございました。
コメント数以外は昨年度に比べて6割程度多くなっています。

今回はページビューの多かった記事をご紹介していきましょう。集計を始めた07-07-17から09-03-27の間での集計結果になります。

 1位 ◆番外編 7.マキネッタ
 2位 皆様のおかげです 〜一周年〜
 3位 【速報】カッパが来た日
 4位 ◆番外編 5.フレンチプレス
 5位 ◇別離の後のカプチーノ
 6位 ▽夏休みの朝の一風景
 7位 ◇失われた味
 8位 ◇「今夜こそは」と思うだけの道程
 9位 ◇ラストオーダー
10位 ◇レジ脇のスペース


11位 ▽オーナーからの宿題
12位 ◇手作りの年輪
13位 ◇思い出は繰り返す 〜風の唄〜
13位 ◆応用編 6.アイスコーヒー
15位 ◇晩秋の麦茶
16位 ◆番外編 1.サイフォン
17位 ◇ロマンス
18位 ▽梅雨の晴れ間 〜お出かけ日和〜
18位 ◇画廊に掲げられた絵
18位 ◆基礎編 5.まとめ

1位と4位に本年度に書いた番外編が入っています。これらの記事を書いて以降、「アクセス解析」で検索ワードを確認すると「マキネッタ」と「フレンチプレス」の割合が非常に多くなっています。
美味しい珈琲を淹れるにあたり、器具の正しい使用法を調べる方が増えているんでしょうか?それとも、使ってはみたけれど美味しく淹れられないで困っている方が多いんでしょうか?
藁にも縋る思いで探されている方には、もっと詳しい解説のあるサイトは他にもたくさんあるんで本当に申し訳ないと思います。読み物として楽しんでくださいね。

2位の「一周年」は多くの皆様からコメントを頂きました。ホラー風味の作品でも楽しんでいただけたことが分かり安心もしました。しっかり13位に入っていますね。

3位の「カッパさん」も最近は本物の河童を探してのものだろうと思います。ほとんどが昨年度に見ていただいた分の数字ですね。
そういえばオフ会記事ってこのあと書いていませんでした。毎回オフ会は楽しいんですが、なかなかネタにしづらい部分が多くて他の方にお任せにしてしまっています。次回あたり頑張ってみますか・・・。

「夏休みの朝の一風景」が6位になっているのはなぜでしょう?創作より現実の方が面白いのかなぁ・・・。


全体的に4月以降に発表したものが上位に来ているようです。旧シリーズの「存在った風景」は見かけなくなってしまいました。

まだまだ書き綴っていきます。が、「抽出研修会」はそろそろ終了が近いかと思います。新たなシリーズは特に考えてはいないのですが、突然思いついて始めるかもしれませんね。
本年度も昨年までと同様、応援をよろしくお願いいたします。

銕三郎
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2009年03月28日

◆番外編 12.甘味料

毎度お越し頂きありがとうございます。番外編第12回をお届けします。

今回は添加物である甘味料についてお送りいたします。
普段ブラックでしか飲んでいないと忘れてしまいがちですが、甘味料の性質によって味わいが変わって楽しめます。

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「マスター、おはようございます。今日はダイエットの大敵、砂糖ですって?」
「おや?お前でもダイエットとは縁近い物なのか?」
「私でもってどういうことですか?私は彼と私の幸せな未来のために毎夜努力しているんです!」
「そのわりに酒をセーブしているって話は聞いたことがないぞ。」
「と、とりあえず甘いものだけは気を付けるようにしているんです・・・、いいじゃないですかそんなことはどうだって。それより始めましょう。」
「よしよし、それじゃあ始めるか。時にお前は、この店には甘味料に類するものがどれだけあるのか知っているか?」
「ヘッヘ〜、訊かれると思ってちゃーんと調べておきましたよ!グラニュー糖・白ザラメ・粉砂糖・角砂糖・ガムシロ・中ザラ糖・黒砂糖・メープルシロップ・蜂蜜・練乳・・・これぐらいでしたっけ。」
「コーヒーシュガーは?」
「ああ、そうですね。でも、アレンジ珈琲には使いませんよね。」
「そうだ。あれはホットのストレートコーヒーに特化して作られているからな。なかなか溶けないからこそ意味があるんだぞ。それからもう一つ使用頻度が高いのを忘れていないか?」
「まだありましたっけ・・・?」
「ほら、先月火傷しながら手作りしていた・・・。」
「ああ、チョコレート!!そうでしたね。」
「使い方の基本は2種類。純粋に甘みとして入れるか、それぞれの個性を生かす為に使うかの違いだな。」
「へ〜ぇ、と言うことは精製度の高い白い砂糖は甘みのため、それ以外は珈琲とのマッチングを楽しむとと言うことですね。そういえば白い砂糖以外の甘味料を追加で加えるアレンジは定番にはありませんね。」
「個性の強い甘味料はどうしても珈琲の風味を損ないがちだからな。うちで出しているのは現地で飲まれているスタイルを尊重しているんだ。アレンジ珈琲はあくまでセカンドメニューってことだ。」
「主役はブレンドやストレートって事ですね。」
「それを邪魔しない甘味料が大切ってことだ。」
「それにしても最近はアレンジ珈琲の注文って多くないですか?」
「う〜ん、シアトル系のコーヒースタンドの影響かな、ミルクの消費量は以前に比べれば多くなっているな。昔のスタイルでは普段はブレンドかお気に入りのストレートでたまにアレンジ珈琲っていう常連がほとんどだったのにな。」

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posted by 銕三郎 at 00:00| 東京 ☁| Comment(6) | TrackBack(0) | 珈琲抽出研修会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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